Last Updated on 2025-02-19 18:41 by admin
米HP（Hewlett-Packard）は2025年2月18日、AIウェアラブルデバイスのスタートアップ企業Humane（ヒューメイン）から主要なAI技術資産を1億1600万ドル（約174億円）で取得することを発表した。
取得対象は以下の3点
- AIプラットフォーム「Cosmos（コスモス）」
- 技術者チーム
- 300以上の特許および特許出願を含む知的財産
この買収に伴い、2024年4月に発売されたHumaneの「AI Pin」（発売価格699ドル）は全サービスを終了する。サービス終了時期は2025年2月28日午後12時（米太平洋時間）で、以降は通話、メッセージング、AIクエリ、クラウドアクセスなどの機能が使用不可となる。
Humaneは出荷日から90日以内のAI Pin購入者に対して返金を実施する。返金申請期限は2025年2月27日までとなっている。また、リコール対象となっていた充電ケースについては、該当部分の購入金額が2月28日以降に自動返金される。
Humaneの共同創業者Bethany BongiornoとImran Chaudhriを含む技術チームは、HPの新設部門「HP IQ」に移行する。この部門では、HPのPC、プリンター、会議室システムへのAI統合を担当する。部門責任者はHPのテクノロジー・イノベーション部門社長のTuan Tran氏が務める。
なお、AI Pinの受注実績は2024年4月時点で約1万台にとどまり、当初目標の10万台には大きく届かなかった。
from:HP is buying Humane and shutting down the AI Pin
【編集部解説】
Humaneは元Apple幹部のImran ChaudhriとBethany Bongiornoが2018年に設立したスタートアップで、「身につけるAI」という新しいコンセプトに多くの期待が寄せられていました。2億3000万ドルもの資金を調達し、OpenAIのサム・アルトマンやセールスフォースのマーク・ベニオフなど、著名な投資家からの支援も受けていました。
製品の課題
AI Pinは「スマートフォンに代わる次世代デバイス」として注目を集めましたが、実際の製品には深刻な問題がありました。2時間程度という短いバッテリー寿命、過熱問題、レーザー投影の視認性の低さなど、ハードウェアの基本的な性能に課題を抱えていました。
さらに、充電ケースの発火リスクという安全性の問題も発生し、製品の信頼性を大きく損なう結果となりました。当初10万台の販売目標を掲げていましたが、実際の受注は約1万台にとどまっています。
HPによる買収の意義
今回のHPによる買収は、表面的には「失敗した製品の終焉」と見えますが、実はより大きな意味を持っています。HPは単なる製品の買収ではなく、Humaneが開発した「Cosmos」というAIプラットフォームと300以上の特許、そして優秀な技術者チームの獲得を目的としています。
今後の展望
HPは新設する「HP IQ」部門において、PCやプリンター、会議室システムなど、既存製品へのAI統合を進めていく方針です。これは、単体のAIデバイスではなく、既存の製品エコシステムにAIを組み込むという、より現実的なアプローチと言えます。
業界への影響
この事例は、ハードウェアスタートアップの難しさを改めて示すと同時に、AIテクノロジーの実用化における重要な教訓となっています。優れた技術やビジョンがあっても、製品として成功するためには、基本的な使い勝手や信頼性の確保が不可欠だということです。
読者の皆様へ
このニュースは、テクノロジー業界における「理想と現実のギャップ」を示す典型的な例と言えます。しかし、Humaneの技術資産がHPという大手メーカーに引き継がれることで、より実用的な形でAIテクノロジーの恩恵を受けられる可能性が高まったと考えることもできます。
今後は、単体のAIデバイスではなく、既存の製品やサービスにAIが自然な形で統合されていく流れが加速すると予想されます。その意味で、この買収は「AIの実用化」における重要なターニングポイントとなるかもしれません。
【用語解説】
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