グラフェンを超える新素材MAC ―― 8倍の強靭性を実現した2次元炭素材料が切り開く次世代デバイスの可能性

 - innovaTopia - (イノベトピア)

2025年2月、ライス大学とシンガポール国立大学(NUS)の研究チームは、グラフェンの8倍の強靭性を持つ2次元炭素材料「単層アモルファス炭素(MAC)」の特性を解明したと発表しました。この研究成果は材料科学分野の学術誌「Matter」に掲載されています。

ライス大学の材料科学・ナノ工学の大学院生Bongki Shin氏を筆頭著者とする研究チームは、原子1個分(約0.34ナノメートル)の厚さしかないMACが、134 J/m²という驚異的な強靭性を持ち、7.8%という高い破断歪みを示すことを実証しました。

この画期的な強度は、結晶領域とアモルファス領域を組み合わせた独自の複合構造によって実現されています。研究チームは最新の電子顕微鏡技術を用いて、この構造が亀裂の進行を効果的に防ぐメカニズムを明らかにしました。

また、MACは最大35%までの窒素ドーピングが可能であることも確認され、この特性により材料の電気的・機械的性質を制御できる可能性が示されました。

from: https://phys.org/news/2025-02-2d-carbon-material-tougher-graphene.html

【編集部解説】

2次元材料の研究において、強度と柔軟性の両立は長年の課題でした。グラフェンは優れた機械的特性を持つものの、一度亀裂が入ると急速に破壊が進行するという弱点がありました。

今回の研究で特筆すべきは、MACの構造が亀裂の進行を抑制するメカニズムです。研究チームは最新の走査型電子顕微鏡を用いて、材料が破壊される過程をリアルタイムで観察することに成功しました。その結果、結晶領域とアモルファス領域の複合構造が、亀裂の進行を効果的に抑制することを実証しました。

具体的な数値で見ると、MACの強靭性は134 J/m²に達し、これは従来のグラフェンの8倍に相当します。また、7.8%という破断歪みは、2次元材料としては極めて高い値です。

さらに注目すべき点として、MACは最大35%までの窒素原子の導入(ドーピング)が可能であることが明らかになりました。この特性により、材料の電気的特性や機械的特性を用途に応じて調整できる可能性が開かれました。

【用語解説】

2次元材料
原子1個分の厚さしかない極めて薄い物質です。紙の約10万分の1という極薄の層で、層の中では原子が強い結合で繋がっていますが、層と層の間は弱い力で結びついています。

アモルファス構造
原子が不規則に配列された状態のことです。ガラスのように、原子が規則正しく並んでいない構造を指します。ただし、完全にバラバラなわけではなく、近い距離では一定の規則性を持っています。

結晶構造
雪の結晶のように、原子が規則正しく整然と並んだ状態です。アモルファス構造の対義語として考えることができます。

強靭性(タフネス)
材料が破壊されるまでに吸収できるエネルギーの量を表します。強度(硬さ)と靭性(粘り強さ)を兼ね備えた状態を指します。例えば、プラスチックの買い物袋は引っ張ると徐々に伸びてから破れますが、これは強靭性が高い例です。

シンガポール国立大学(NUS)
1905年に設立されたシンガポールの総合大学で、アジアを代表する研究機関です。特に材料科学分野では世界トップクラスの研究成果を挙げています。

ライス大学
米国テキサス州ヒューストンに位置する私立大学で、特にナノテクノロジー研究で世界的な評価を受けています。

【参考リンク】

  1. Matter Journal(外部)
    材料科学分野の革新的な研究成果を掲載する学術誌。本研究が掲載された一流ジャーナル。
  2. Rice University Materials Science(外部)
    ライス大学材料科学・ナノ工学科の公式サイト。最新の研究成果や施設情報を提供。

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