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Google Gemini 2.0 Flash、ウォーターマーク除去機能が物議—著作権保護とAI進化の新たな課題

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-18 19:02 by admin

Googleは2025年3月、最新の「実験的」機能を搭載したGemini 2.0 Flash AIモデルを全地域の開発者向けに展開している。このオンデバイスAIモデルは、ネイティブ画像生成機能を備え、テキストプロンプトからの画像生成だけでなく、会話形式での画像編集も可能である。

2025年3月上旬の週末、ユーザーたちはこのモデルがGetty Imagesのような複雑なウォーターマークを高精度で除去できることを発見した。TechCrunchの報道によると、Gemini 2.0 Flashはウォーターマークを除去した後、Googleの不可視のSynthIDマークを追加し、著作権マークを「AIで編集済み」という識別子に置き換える機能を持つ。

また、ユーザーはGemini 2.0 Flashが、フルバージョンのGeminiモデルでは許可されていない、実在の人物の認識可能な画像を写真に追加できることも指摘している。

現在、これらの画像機能はGoogleのAI Studioを通じて開発者のみが利用可能であり、2025年3月時点では一般ユーザーには正式には開放されていない。Googleの広報担当も「Google の生成 AI ツールを著作権侵害に使用することは、利用規約違反にあたります。すべての実験的リリースと同様に、私たちは注意深く監視し、開発者のフィードバックに耳を傾けています。」と回答している。

なお、Googleは2017年にもウォーターマーク除去アルゴリズムを研究チームが開発しており、より安全な保護の必要性を強調していた。一方、OpenAIのGPT-4oなど一部のAIツールはウォーターマーク除去の要求を明示的に拒否する設計になっている。

from People are using Google’s new AI model to remove watermarks from images

【編集部解説】

この問題は単なる技術的進化の話ではなく、著作権保護とAI技術の倫理的利用という大きなテーマを浮き彫りにしています。複数のメディアが報じているように、Gemini 2.0 Flashは画像からウォーターマークを除去するだけでなく、除去した部分を自然に補完する能力を持っています。特にGetty Imagesのような複雑なウォーターマークも処理できる点が注目されています。

興味深いのは、Googleが2017年には既にウォーターマーク除去アルゴリズムの研究を行っていたという事実です。当時はより安全な保護技術の必要性を訴えるためでしたが、今回はその技術が実用レベルで実装されたことになります。

ウォーターマーク除去技術自体は新しいものではありません。Watermark Remover.ioなどの専用ツールも存在しますが、Gemini 2.0 Flashの特徴は、AIの会話能力と画像処理を組み合わせた使いやすさと、高い精度にあるでしょう。

一方で、OpenAIのGPT-4oやAnthropicのClaude 3.7 Sonnetなど、競合するAIモデルはウォーターマーク除去の要求を明示的に拒否する設計になっています。Claudeに至っては、ウォーターマーク除去を「非倫理的で、違法となる可能性がある」と明言しているとのことです。

法的な観点からは、米国著作権法ではウォーターマークを著作権者の許可なく除去することは違法とされています。これはデジタルミレニアム著作権法(DMCA)の規定に基づくもので、著作権管理情報(CMI)の改変にあたる可能性があります。

皮肉なことに、Googleは自社のSynthID技術を通じてAI生成コンテンツに不可視のウォーターマークを埋め込む取り組みも進めています。Gemini 2.0 Flashは著作権マークを除去した後、「AIで編集済み」というSynthIDマークに置き換えるという動作をするようです。このSynthIDは肉眼では見えない不可視のマークであり、専用のツールを使用しないと検出できません。つまり、一方でコンテンツの出所を明示する技術を開発しながら、他方でその保護を無効化する能力も提供しているという矛盾した状況が生まれています。

現在のところ、この機能は2025年3月からGoogleのAI Studioを通じて開発者向けに「実験的」機能として提供されており、一般向けの製品利用は正式には想定されていません。しかし、日本のITmediaの記事によれば、18歳以上であれば誰でも開発者として登録し利用できる状態にあるようです。

この状況は、デジタルコンテンツの著作権保護と技術革新のバランスという難しい問題を提起しています。AIによる画像生成・編集技術の進化は創造性の新たな可能性を開く一方で、クリエイターの権利保護をより困難にする側面も持ち合わせています。

コンテンツの真正性を保証するための技術標準化に取り組むC2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)には、GoogleやMicrosoft、OpenAI、Adobeなども参加していますが、このような技術の出現はデジタル著作権保護の課題をさらに複雑にしています。

今後、AI技術の発展に伴い、著作権法や関連規制の見直しが加速する可能性があります。また、コンテンツクリエイターやストックフォト企業は、ウォーターマーク以外の保護手段を模索する必要に迫られるかもしれません。

【用語解説】

Gemini 2.0 Flash: Googleが2025年3月に開発者向けに提供開始した最新の生成AIモデル。従来モデルの2倍の処理速度と高い精度を実現し、テキスト、画像、音声、動画などマルチモーダルに対応している。オンデバイスでも動作する軽量版AI。

マルチモーダルAI: テキスト、画像、音声、動画など複数の形式(モダリティ)のデータを同時に処理できるAI技術。人間のように多様な情報を統合的に理解・処理できる。

ウォーターマーク: デジタル画像に付加される目印や透かし。著作権の表示や不正使用防止のために使用される。可視的なものと不可視的(デジタル透かし)なものがある。

SynthID: Googleが開発したAI生成コンテンツに埋め込む不可視のウォーターマーク技術。肉眼では見えず、専用ツールでのみ検出可能。AI生成であることを示すデジタル署名のような役割を果たす。

AI Studio: GoogleのAI開発プラットフォーム。開発者がGeminiなどのAIモデルを試したり、カスタマイズしたりするためのツール。18歳以上であれば誰でも開発者として登録可能。

DMCA(デジタルミレニアム著作権法): 1998年に米国で制定された法律で、デジタル著作物の保護を強化。著作権管理情報(CMI)の改変や除去を禁止している。

【参考リンク】

Google AI Studio(外部)
Googleの生成AIモデルを試したり開発したりできるプラットフォーム。Gemini 2.0 Flashも利用可能。

Watermark Remover.io(外部)
AIを使って画像からウォーターマークを除去するオンラインツール。簡単操作で透かしを削除。

Google DeepMind(外部)
Googleの人工知能研究部門。Geminiなど先端AIモデルの開発を担当している。

SynthID(外部)
Googleが開発したAI生成コンテンツに不可視のウォーターマークを埋め込む技術。

C2PA(外部)
デジタルコンテンツの出所と真正性を証明するための技術標準を開発する国際団体。

gettyimages(外部)
3億点以上の画像、映像、音声素材を提供するサイト。素材の不正利用防止のため、複雑な独自のウォーターマークを使用している。

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りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
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