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米国控訴裁判所、AI単独生成アートの著作権を否定 – DABUSの創作に「人間の著作者性」要件を適用

 - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-03-21 15:22 by admin

米国コロンビア特別区連邦控訴裁判所は2025年3月18日、人間の入力なしに人工知能によって生成された芸術作品は米国法の下で著作権を取得できないという判断を下した。裁判所は、ミズーリ州セントチャールズ在住のコンピューター科学者スティーブン・テイラー氏が開発した人工知能システム「DABUS」(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)によって作成された画像「A Recent Entrance to Paradise」は著作権保護の対象とはならないとする米国著作権局の判断を支持した。

テイラー氏は2018年に自身のAIシステムが単独で作成したという視覚芸術作品の著作権を申請したが、米国著作権局は2022年にこの申請を却下した。著作権局は創造的作品が著作権を取得するためには人間の著作者が必要であるとの立場を取っている。

パトリシア・ミレット巡回裁判所判事は、全員一致の3人の判事団を代表して、米国著作権法は「すべての作品が最初に人間によって著作されることを要求している」と述べた。控訴裁判所は「著作権法の多くの規定は著作者が人間であることを前提としてのみ意味をなすため、著作権法の最良の解釈は、登録には人間の著作者が必要である」との見解を示した。

テイラー氏の弁護士ライアン・アボット氏は、判決に「強く反対」しており、上訴する意向を表明している。一方、著作権局は声明で「裁判所が正しい結論に達したと考えている」と述べた。

この判決は、急速に成長する生成AI産業における著作権の影響に米国当局が取り組む最新の試みである。米国著作権局は別途、AIシステムMidjourneyによって生成された画像に対するアーティストたちの著作権申請も却下している。

from:Appeals court rejects copyrights for AI-generated art lacking ‘human’ creator

【編集部解説】

この判決は、AIと著作権の関係について重要な先例を示すものです。米国の控訴裁判所が明確に「AI単独で生成した作品には著作権が認められない」と判断したことで、クリエイティブ業界に大きな影響を与えることになりそうです。

注目すべきは、判決が「人間の著作者性」を著作権の根本的要件として再確認した点です。裁判所は著作権法の多くの規定が「著作者が人間であること」を前提としていると指摘しています。これは単なる技術的な解釈ではなく、著作権制度の哲学的基盤に関わる判断といえるでしょう。

テイラー氏の主張は興味深い点を含んでいます。彼は自身のAIシステム「DABUS」を「知的」あるいは「自己決定能力を持つ」と表現し、AIが独立して創作したと主張しました。しかし裁判所はこの見解を受け入れませんでした。CNBCのインタビューでテイラー氏は「AIは時間をかけて学習し、私は本質的にそれを導いていた」と述べており、実際には人間の関与があったことを示唆しています。

この判決は「AI単独」の作品と「人間がAIを利用して作成した作品」を明確に区別している点も重要です。裁判所は「AIを利用した人間の創作物」の著作権登録は妨げないと明言しています。つまり、AIツールを使用しても、人間が創作プロセスに十分に関与していれば著作権は保護されるということです。

実務的には、クリエイターがAIツールを使用する際、その関与の度合いを明確にすることが重要になってくるでしょう。単にプロンプトを入力するだけでなく、選択、編集、調整などの創造的判断を加えることで、著作権保護の可能性が高まります。

この判決は米国著作権局の2025年初頭に発表した「著作権と人工知能パート2:著作権性」レポートの見解とも一致しています。同レポートでは「AIによって完全に生成されたコンテンツは著作権で保護できない」と明記されていました。

テイラー氏のケースは著作権だけでなく特許の分野でも注目されています。彼のAIシステム「DABUS」は南アフリカで特許を取得しましたが、欧州連合(2021年)、英国(2020年)、米国では拒否されています。これは知的財産権の国際的な枠組みにおいて、AIの位置づけが国によって異なることを示しています。

今後、生成AI技術の進化に伴い、「人間の創造性」と「AIの貢献」の境界はさらに曖昧になっていくことが予想されます。法制度がこの技術的変化にどう適応していくのか、引き続き注目する必要があるでしょう。

また、この判決はAI開発企業やクリエイターにとって、AIツールの設計や使用方法を再考する契機となるかもしれません。人間の創造的関与を促進するAIツールの開発や、AIと人間のコラボレーションの新たな形が模索されることになるでしょう。

テクノロジーの進化と法制度の間には常に緊張関係がありますが、この判決は両者のバランスを取る一つの指針を示したといえます。

【用語解説】

DABUS(Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience)
スティーブン・テイラー博士が開発した人工知能システム。複数の人工ニューラルネットワークが協力または対立して相互作用し、新しいアイデアを生み出す仕組みを持つ。

Midjourney
テキストプロンプトから高品質な画像を生成するAIツール。Discordというチャットアプリ上で動作し、商用利用も可能な有料サービスである。

著作者性
著作権法上、著作物を創作した者(著作者)に与えられる法的地位。著作権法では「思想又は感情を創作的に表現した者」が著作者となる。

【参考リンク】

イマジネーション・エンジンズ(Imagination Engines, Inc.)(外部)
スティーブン・テイラー博士が会長兼CEOを務める、DABUSを開発した会社。

Midjourney公式サイト(外部)
AIを使って高品質な画像を生成できるサービス。テキスト入力から芸術的な画像を作成できる。

米国著作権局(U.S. Copyright Office)(外部)
米国の著作権登録・管理を行う政府機関。著作権に関する情報提供や登録申請の受付を行っている。

太陽国際特許事務所(外部)
日本でDABUS関連の特許出願プロジェクトを代理人として行っている特許事務所。

文化庁「AIと著作権について」(外部)
日本政府の文化庁によるAIと著作権の関係についての公式見解や資料を提供している。

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りょうとく
主に生成AIやその権利問題について勉強中。
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