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トムソン・ロイター vs. Ross Intelligence:AIトレーニングのための著作権コンテンツ使用は「フェアユース」に非ず – 将来はAI向けコンテンツ市場が誕生か

トムソン・ロイター vs Ross Intelligence:AIトレーニングのための著作権コンテンツ使用は「フェアユース」に非ず - 将来はAI向けコンテンツ市場が誕生か - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-02 11:56 by admin

トムソン・ロイターは2025年2月11日、Ross Intelligenceに対する部分的な略式判決を勝ち取った。米国デラウェア州連邦地方裁判所のステファノス・ビバス判事は、Ross IntelligenceによるWestlawの著作権コンテンツの使用は公正使用に該当しないと判断した。

この判決は先例を作るものではなく、AIトレーニングのための著作権コンテンツ使用が公正使用か侵害かという問題を完全に解決したわけではない。この問題は現在米国で進行中の約40件の著作権訴訟でも争点となっている。

Rossは法律検索エンジンを開発するスタートアップで、第三者法律サービス会社LegalEaseを通じて、Westlawのヘッドノートを参考にした「バルクメモ」を作成し、それをAIトレーニングに使用した。

トムソン・ロイターのチーフプロダクトオフィサー、デビッド・ウォン氏は、AIシステムのトレーニングのためにコンテンツを取り込み変換することは公正使用の形態ではないと主張している。同社は過去2〜3年間でAI機能開発に年間2億ドル以上を投資しており、2023年にはCoCounselという法律専門家向けAIアシスタントを開発したCaseTextを買収した。

ウォン氏は、著作権所有者とAI企業の間により良いビジネスモデルと支払い方法が必要だと述べている。彼は、公正な報酬メカニズムがなければ、コンテンツ公開のインセンティブが失われ、アクセスが制限される可能性があると警告している。

また、人間向けに最適化されたコンテンツとAIシステム向けに最適化されたコンテンツには違いがあり、後者は適切な報酬がなければ作成されないだろうと指摘している。

from:Writing for humans? Perhaps in future we’ll write specifically for AI – and be paid for it

【編集部解説】

トムソン・ロイターとRoss Intelligenceの裁判は、AIと著作権の関係性について重要な一石を投じる事例となりました。この判決は、AIの開発において著作権で保護されたコンテンツをどのように扱うべきかという議論に大きな影響を与える可能性があります。

まず、この裁判の背景を整理しておきましょう。Ross Intelligenceは法律検索エンジンを開発するスタートアップで、トムソン・ロイターのWestlawという法律検索プラットフォームのコンテンツを使用してAIシステムを構築しようとしました。Westlawには判例や法令だけでなく、トムソン・ロイター独自の編集コンテンツである「ヘッドノート」(判例の要点をまとめたもの)や「キーナンバーシステム」(法的トピックを分類する体系)が含まれています。

Ross Intelligenceはこれらのコンテンツを直接利用するライセンスをトムソン・ロイターに求めましたが、競合になるとして拒否されました。そこでRossは第三者の法律サービス会社LegalEaseを通じて、Westlawのヘッドノートを参考にした「バルクメモ」を作成し、それをAIトレーニングに使用したのです。

2025年2月11日、デラウェア州連邦地方裁判所のステファノス・ビバス判事は、RossによるWestlawコンテンツの使用は「フェアユース(公正使用)」に該当せず、著作権侵害にあたるとの判決を下しました。

この判決の重要なポイントは、AIシステムのトレーニングのために著作権で保護されたコンテンツを使用することが、自動的にフェアユースとは認められないということです。特に商業目的で競合製品を作るためにコンテンツを利用する場合、著作権者の許可なしに行うことは難しくなるでしょう。

ただし、この判決には限定的な側面もあります。今回の事例は「生成AI」ではなく、検索結果を返すタイプのAIに関するものでした。また、Rossは直接Westlawのコンテンツをコピーしたわけではなく、第三者を介して間接的に利用した点も特徴的です。

デビッド・ウォン氏が指摘するように、AIの発展には質の高いコンテンツが不可欠です。しかし、そのコンテンツを生み出す創作者が適切に報酬を得られなければ、長期的には良質なコンテンツの供給が減少する恐れがあります。

興味深いのは、ウォン氏が「人間向けに最適化されたコンテンツ」と「AI向けに最適化されたコンテンツ」の違いについて言及している点です。将来的には、AIシステムの学習に特化したコンテンツが新たな市場として生まれる可能性があります。これは創作者にとって新たな収入源となるかもしれません。

この判決は、OpenAIやGoogleなど大手AI企業と出版社やクリエイターとの間で進行中の著作権訴訟にも影響を与える可能性があります。現在、米国では約40件のAI関連著作権訴訟が進行中であり、最終的には最高裁判所や政府の決定によって方向性が定まるでしょう。

テクノロジーの進化とクリエイティブ産業の共存は、デジタル時代の大きな課題です。AIの発展を促進しながらも、コンテンツ創作者の権利を保護するバランスの取れた枠組みが求められています。

トムソン・ロイター自身もAI開発に年間2億ドル以上を投資しており、著作権保護を訴えながらもAI技術の可能性を追求しています。この二面性は、多くの企業が直面するジレンマを象徴しているといえるでしょう。

【用語解説】

Westlaw:
トムソン・ロイターが運営する法律情報データベース。判例・法令・法律文献などを収録し、法律専門家向けに提供されている。

ヘッドノート:
Westlawの特徴的機能の一つで、判決の重要な法的論点や判示事項を要約したもの。トムソン・ロイターの編集者が判決文から重要部分を抽出して作成する。

Key Number System:
Westlawのもう一つの特徴的機能。各ヘッドノートに固有の番号を付与し、同じ法的論点を扱うヘッドノートには同じ番号を割り当てることで、体系的な分類システムを構築している。

フェアユース(公正使用):
著作権で保護された著作物の利用を、特定の条件下で許可する法理。米国では、(1)利用の目的と性質、(2)著作物の性質、(3)利用された部分の量と重要性、(4)著作物の市場への影響、の4要素を考慮して判断される。

Bulk Memos:
Ross Intelligenceが第三者法律サービス会社LegalEaseを通じて作成させた文書。Westlawのヘッドノートを参考に作成され、AIトレーニングに使用された。

【参考リンク】

トムソン・ロイター(外部)
法律、税務・会計、コンプライアンス、政府およびメディア市場向け情報サービス企業

Westlaw Japan(外部)法令、判例、審決等、法情報を総合的に提供するオンラインサービス

Ross Intelligence(外部)
AIを活用した法律検索サービスを開発するスタートアップ企業

【編集部後記】

AIと著作権の関係性は、これからのデジタルコンテンツ産業を形作る重要な課題です。皆さんは普段使うAIサービスが、どのようなデータで学習しているか考えたことはありますか?また、もし皆さんが創作者だとしたら、自分の作品がAIに学習されることをどう感じるでしょうか?将来的には「AI向けに最適化されたコンテンツ」という新たな市場が生まれるかもしれません。テクノロジーの進化と創作者の権利保護、この両立について一緒に考えていきましょう。

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TaTsu
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