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バネバー・ラボのAI、米海兵隊の情報分析を革新:生成AIが軍事インテリジェンスを変える

バネバー・ラボのAI、米海兵隊の情報分析を革新:生成AIが軍事インテリジェンスを変える - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-12 11:12 by admin

米海兵隊第15海兵遠征部隊が2024年の大半、太平洋地域で生成AIを情報分析に初めて活用した実験を実施した。約2,500人の米軍人が参加し、韓国、フィリピン、インド、インドネシア沖での訓練演習中に防衛技術企業バネバー・ラボ(Vannevar Labs)が開発したAIツールを使用した。

クリスティン・エンゼナウアー大尉とウィル・ロウドン大尉は、このAIシステムを使用して外国のニュース源の翻訳・要約や情報報告書の作成を行い、従来の手動分析よりも効率的に作業を進めることができたと報告している。

バネバー・ラボは2023年11月、米国防総省の国防イノベーション部門(Defense Innovation Unit)から最大9,900万ドル(約150億円)の契約を獲得した。同社は2019年にCIAと米国情報コミュニティの退役軍人によって設立され、OpenAIやMicrosoftのモデルと独自のカスタムモデルを組み合わせたAIシステムを開発している。

このシステムは毎日、80の言語で180カ国からテラバイト単位のデータを収集・分析し、中国のようなファイアウォールを突破してソーシャルメディアプロファイルを分析する能力も持つ。収集したデータを基に情報の翻訳、脅威の検出、政治的感情の分析を行い、結果をチャットボットインターフェースを通じて提供する。

米国防総省は2024年12月、今後2年間で生成AIアプリケーション専用のパイロットプロジェクトに1億ドル(約150億円)を投じると発表した。バネバー・ラボに加え、マイクロソフトとパランティアも機密データを活用するAIモデルの共同開発に取り組んでいる。

一方、AI Nowインスティテュートの主任AIサイエンティストであるハイディ・クラーフ氏は、軍事的意思決定に生成AIを組み込む動きに警鐘を鳴らし、特に感情分析などの主観的な分析タスクにおける精度の問題を指摘している。RANDのシニアエンジニア、クリス・ムートン氏も、AIがより微妙なタイプのプロパガンダの識別に苦労することを認めている。

この実験は「氷山の一角」に過ぎず、米軍全体が生成AI活用に向けて全速力で進んでいると、部隊の指揮官ショーン・ダイナン大佐は2025年2月に述べている。

from:Generative AI is learning to spy for the US military

【編集部解説】

米軍が生成AIを情報分析に活用する取り組みは、単なる実験段階を超え、実戦配備へと急速に移行しつつあります。今回のMIT Technology Reviewの記事は、米海兵隊が太平洋地域での実任務中に生成AIを実際に運用した貴重な事例を詳細に報じています。

この実験は、米軍の情報収集・分析の方法論に根本的な変革をもたらす可能性を秘めています。従来、外国語の情報分析や感情分析は人間のアナリストが手作業で行っていましたが、生成AIの導入により、その処理速度と効率性が飛躍的に向上しています。特に注目すべきは、このシステムが単なる情報収集だけでなく、その解釈にまで踏み込んでいる点です。

バネバー・ラボが開発したAIシステムの規模は驚異的です。毎日80の言語で180カ国からテラバイト単位のデータを収集・分析するという能力は、人間のアナリストでは到底処理しきれない情報量を扱えることを意味します。さらに、中国のようなファイアウォールを突破してソーシャルメディアプロファイルを分析する能力も持ち合わせており、従来アクセスが困難だった情報源にもリーチできるようになっています。

しかし、この技術の急速な導入には懸念の声も上がっています。AI Nowインスティテュートの主任AIサイエンティスト、ハイディ・クラーフ氏が指摘するように、大規模言語モデルは依然として不正確さを抱えており、特に軍事的意思決定のような精度が求められる場面での使用には慎重さが必要です。

重要な点として、バネバー・ラボのCTOであるスコット・フィリップス氏は、同社の目的を「データを収集し、そのデータを理解し、米国が良い決断を下せるよう支援すること」と述べています。この言葉は、AIが単なるツールではなく、意思決定プロセスの重要な一部となりつつあることを示唆しています。

米海兵隊のエンゼナウアー大尉とロウドン大尉は、AIの出力を常に検証するよう指示されていたものの、不正確さは大きな問題にならなかったと報告しています。これは、適切な監視と検証プロセスがあれば、AIが実戦環境でも有効に機能する可能性を示しています。

しかし、技術的な課題も存在します。艦船上でのインターネット接続の不安定さが、特に画像や動画を含む情報処理の速度を制限する要因となりました。これは、軍事作戦におけるAI活用の現実的な制約を浮き彫りにしています。

米国防総省は2024年12月、今後2年間で生成AIアプリケーション専用のパイロットプロジェクトに1億ドルを投じると発表しました。これは、AIの軍事利用に対する米国の本格的なコミットメントを示すものです。

長期的には、この技術は軍事作戦の計画立案から実行までの全プロセスを変革する可能性を秘めています。しかし同時に、AIの判断に過度に依存することのリスクや、誤った情報に基づく意思決定の危険性も慎重に評価されるべきでしょう。

RANDのシニアエンジニア、クリス・ムートン氏が指摘する「中心的な議論」は、これらの生成AIが単なる調査ツールの一つに留まるのか、それとも意思決定において信頼される主観的な分析を生み出すのかという点です。この問いは、AIの軍事利用だけでなく、社会全体におけるAIの役割を考える上でも重要な視点を提供しています。

米軍のこの取り組みは、生成AIの実用化における一つの重要なケーススタディとなるでしょう。その成果と課題は、軍事分野だけでなく、企業や政府機関における大規模データ分析や意思決定支援システムの開発にも影響を与える可能性があります。テクノロジーの進化とその社会実装のバランスを考える上で、今後も注目すべき領域と言えるでしょう。

【用語解説】

生成AI(ジェネレーティブAI)
大量のデータで学習し、テキスト、画像、音声などの新しいコンテンツを自動生成できるAI技術。ChatGPTなどが代表例で、人間のような創造的な成果物を生み出せるのが特徴である。

大規模言語モデル(LLM)
膨大なデータで訓練された深層学習アルゴリズムで、テキストの認識、翻訳、予測、生成が可能。多くのパラメータ(モデルの知識バンク)を持ち、様々な自然言語処理タスクを実行できる。

感情分析(センチメント分析)
テキストや音声から感情や意見を検出・分析する技術。AIがデータを「喜び」「悲しみ」などと判別し、文章の感情的傾向を評価する。

海兵遠征部隊(MEU)
米海兵隊の遠征任務を担う部隊。約2,500人規模で編成され、水陸両用作戦や緊急展開任務を遂行する。通常は海軍の強襲揚陸艦に乗船して展開する。

国防イノベーション部門(DIU)
米国防総省のスタートアップ志向の部門で、民間の革新的技術を軍事利用に迅速に取り入れることを目的としている。

オープンソースインテリジェンス(OSINT)
公開情報源から収集される情報。非機密の記事、報告書、画像、動画などが含まれる。従来の機密情報収集と比較して、より広範囲の情報にアクセスできる利点がある。

【参考リンク】

バネバー・ラボ(Vannevar Labs)(外部)
2019年設立の防衛技術企業。CIAと米国情報コミュニティの退役軍人が創業し、AI情報分析ツールを提供

米海兵隊(United States Marine Corps)(外部)
約18万人の現役将兵を擁する米国の海兵隊。緊急展開部隊として海外での武力行使を前提とした任務を遂行

【編集部後記】

皆さんは、AIが情報分析の現場でどう活用されているか想像したことはありますか?今回の米軍の取り組みは、生成AIの実用化における最前線の事例です。毎日80の言語で180カ国からテラバイト単位のデータを分析するという規模感は、民間企業でも応用できる可能性を秘めています。もし皆さんの仕事や日常でも、大量の情報から重要なポイントを素早く抽出する必要があるとしたら、どんなAIツールがあれば役立つでしょうか?テクノロジーの進化と人間の判断力のバランスについて、ぜひ皆さんの考えもお聞かせください。

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TaTsu
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