Last Updated on 2025-05-20 11:08 by admin
香港のプリンス・フィリップ歯科病院が、口腔がんの予防と早期発見に特化したAI駆動型クリニックを2025年4月に開設した。
このクリニックは香港大学歯学部の口腔顎顔面外科との共同設立であり、世界初の試みとされている。 クリニックには香港大学が2021年に開発したウェブツール「OralCancerPredict」が導入されており、口腔がんの高リスク患者を(可能であれば出典を追記)94%の精度で検出できるとされている。
このAIツールは患者の人口統計、併存疾患、臨床的外観、組織学的特徴などの情報を分析し、口腔白板症や口腔扁平苔癬症例ががんに進行する確率を計算する。このAIモデルは2003年から2022年までのクイーン・メアリー病院の患者データで訓練され、その後ナイジェリアと英国の大規模データセットで検証された。
世界的に口腔がん患者の約50%しか診断後5年間生存せず、香港では60%の生存率となっている。これは主に診断の遅れが原因である。新クリニックは口腔白板症と口腔扁平苔癬病変を持つ紹介患者を対象に、治療と定期的なフォローアップを提供している。
香港大学はこれまでも口腔疾患検出におけるAI活用を推進しており、2023年には90%以上の精度を持つ歯肉炎検出AIモデルを開発し、2024年には高齢者向け歯茎炎症スクリーニングのコミュニティプログラムを開始している。
References:
AI-driven oral cancer clinic opened in Hong Kong
【編集部解説】
香港大学と香港のプリンス・フィリップ歯科病院が共同で開設したAI駆動型口腔がんクリニックは、世界初の取り組みとして注目を集めています。このクリニックは2025年4月に正式にサービスを開始したことが香港大学の公式発表から確認できます。
このクリニックの中核となる技術「OralCancerPredict」は、2021年に香港大学歯学部の研究チームによって開発されたAIベースのウェブツールです。このツールは口腔白板症や口腔扁平苔癬症といった口腔潜在的悪性疾患(OPMD)を持つ患者のがん発症リスクを高精度で予測します。
特筆すべきは、このAIツールの開発背景です。2003年から2022年までのクイーン・メアリー病院の患者データを用いて訓練されただけでなく、英国とナイジェリアの患者コホートでも検証されています。これは単一地域のデータに依存せず、異なる人種や環境での有効性を確認した点で科学的信頼性が高いと言えるでしょう。
口腔がんは早期発見が可能な疾患であるにもかかわらず、世界的に5年生存率は約50%と低く、香港でも60%程度にとどまっています。これは主に診断の遅れが原因です。口腔がんの前段階として口腔内に白色や赤色の斑点(プラーク)が現れることが多く、この段階で適切な介入ができれば予防や早期発見につながります。
このクリニックの革新的な点は、AIによるリスク分類に基づいて治療方針を決定する点にあります。高リスクと判断された患者には外科的介入を推奨し、低リスクの患者には不必要な手術を避け、観察とカウンセリング、支持療法を提供します。これにより医療リソースの最適化と患者の負担軽減を同時に実現しています。
また、このAIツールは専門医だけでなく一般の歯科医や医師も利用できるよう設計されており、特に専門医が少ない地域での活用も視野に入れています。このような技術の民主化は、医療格差の解消にも貢献する可能性があります。
技術面では、このAIツールは患者の人口統計、併存疾患、臨床的外観、組織学的特徴など多次元の情報を分析し、平均94%の精度でリスク予測を行います。特筆すべきは、単なる予測だけでなく、その根拠も提示する点です。これにより医療従事者は判断の透明性を確保できます。
このクリニックの取り組みは、AIの医療応用の好例と言えるでしょう。技術が人間の専門知識を補完し、より効果的な医療を実現する可能性を示しています。また、患者にとっては追加費用なしでAI技術の恩恵を受けられる点も重要です。
今後の展望としては、このモデルが他の地域や国々にも展開される可能性があります。特にナイジェリアでの取り組みは、現地のデータを活用した独自モデルの開発や、農村部での啓発活動など包括的なアプローチを取っています。
口腔がん検出におけるAI活用は、香港大学の長年の取り組みの一環でもあります。2023年には歯肉炎検出のAIモデルを開発し、2024年には高齢者向けの歯茎炎症スクリーニングプログラムを開始するなど、継続的な技術革新を進めています。
このようなAI技術の医療応用は、早期発見・予防医療の新たな可能性を開くものであり、今後さらなる発展が期待されます。
【用語解説】
口腔白板症(こうくうはくばんしょう):
口腔内の粘膜に現れる白い斑点や病変で、擦っても剥がれない特徴がある。口腔がんの前駆症状となる可能性がある潜在的悪性疾患の一つである。
口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん):
口腔粘膜に現れる慢性炎症性疾患で、白いレース状の模様が特徴。前がん状態とされ、口腔がんへ進行するリスクがある。
口腔潜在的悪性疾患(OPMD: Oral Potentially Malignant Disorders):
口腔がんに進行する可能性のある前がん病変の総称。口腔白板症や口腔扁平苔癬などが含まれる。
意思決定支援ツール(Decision Support Tool):
医療従事者の診断や治療方針の決定をサポートするためのシステム。今回のAIツールは、患者データを分析して口腔がんリスクを予測し、治療方針の決定を支援する。
【参考リンク】
香港大学歯学部(外部)
香港で唯一の歯科学位を提供する教育機関。QSランキングで世界第3位に位置する歯学部。
プリンス・フィリップ歯科病院(外部)
香港大学歯学部が拠点とする歯科病院。歯科医師や関連専門職の教育・訓練施設としての機能を持つ。
OralCancerPredict(外部)
香港大学が開発した口腔がんリスク予測AIツール。患者データから口腔がん発症リスクを94%の精度で予測する。
【参考動画】
【編集部後記】
皆さん、口腔内の健康チェックは定期的に行っていますか?今回紹介したAI技術は、専門医が少ない地域でも口腔がんの早期発見を可能にする可能性を秘めています。日本でも口腔がんは年間約8,000人が罹患するとされていますが、早期発見できれば治療効果は格段に上がります。自宅での簡単なセルフチェックや定期的な歯科検診が、あなたの命を守るかもしれません。AIと医療の融合が進む今、皆さんはどのような医療テクノロジーに期待していますか?ぜひSNSでお聞かせください。