NTTテレコン×生成AI×IoT罠で進む農政DXと鳥獣被害対策DXとは

[更新]2025年12月2日

NTTテレコン×生成AI×IoT罠で進む農政DXと鳥獣被害対策DXとは - innovaTopia - (イノベトピア)

中山間地域の畑を荒らすイノシシやシカの影に、静かに生成AIとIoTが入り込みつつあります。
紙と勘に頼ってきた鳥獣被害対策と農政の現場が、「データで見える化されたフィールド」へと切り替わる、その転換点です。


エヌ・ティ・ティテレコン株式会社(以下NTTテレコン)は、株式会社テミクス・グリーン、株式会社マプリィ、株式会社セールスフォース・ジャパンと共に、生成AIを活用した農政及び鳥獣被害対策DXの実現に向け、島根県大田市と協定書を締結した。

協定内容は、農政手続のDX、ドローン等を活用した鳥獣生息数把握、鳥獣被害地の把握、IoT罠を活用した鳥獣捕獲、獣害駆除の報奨金申請DX、各種行政手続における生成AI活用に関する事項である。

NTTテレコンは、中山間地域の電波微弱地帯及び電波不感地帯における電波調査等を実施し、箱罠・くくり罠の作動検知を遠隔で行うための通信端末を選定する。

各社は、それぞれ通信技術、林業・林政DX、GISアプリケーション・LiDAR、クラウドアプリケーション及びクラウドプラットフォームの提供を事業内容としている。

From: 文献リンク生成AIを活用した農政及び鳥獣被害対策DXに向けた連携に関する協定を締結

 - innovaTopia - (イノベトピア)
エヌ・ティ・ティテレコン株式会社公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

島根県大田市とNTTテレコンら4社の協定は、「地方のリアルな課題」を生成AIとセンシング技術でどこまで解けるかを試す実証の入り口と言える取り組みです。単なる自治体DXではなく、中山間地域の農業・森林・野生鳥獣という複雑なフィールドを、データとアルゴリズムで一気通貫に捉え直そうとする点が際立っています。

今回の枠組みでは、農政手続から鳥獣生息数の把握、被害エリアの空間情報、IoT罠による捕獲状況、報奨金申請までが一連の「データの流れ」として設計されています。従来は紙の申請や個別の台帳、現場担当者や猟友会の経験に分散していた情報が、クラウドとGIS上に統合され、生成AIによる文書処理や問い合わせ対応の自動化が視野に入ってきます。

技術スタックの分担も重要なポイントです。NTTテレコンは遠隔検針で培った通信インフラとIoT罠監視、THEMIX Greenは林業・林政DXの知見、マプリィはGIS・LiDARによる空間データ基盤、セールスフォースはクラウドCRM・ワークフロー基盤を担い、「現場センサーから行政窓口まで」を一つのレイヤーとして扱える可能性を示しています。

一方で、野生鳥獣対策はデータ最適化だけで完結するテーマではありません。生息数の把握精度や捕獲効率が高まるほど、生態系や地域コミュニティへの影響評価、動物福祉の議論、狩猟免許制度や報奨金スキームの見直しなど、制度や倫理のアップデートが欠かせなくなっていきます。

生成AIの活用にもメリットとリスクが共存します。農政手続や報奨金申請の文書作成支援、問い合わせ対応、申請内容チェックなどに有効な一方で、誤判定やハルシネーションが発生した場合の責任の所在や説明可能性をどう担保するかは、今後の設計に委ねられています。

長期的には、「農政+環境+DX」の取り組みが積み重なることで、地域ごとに異なる土地利用や生態系パターンがデータとして蓄積されていきます。それは鳥獣被害の低減だけでなく、再生可能エネルギーやカーボンクレジット、観光・教育などを巻き込んだ「ローカルなサステナビリティ産業」の基盤になり得ると感じます。

大事なのは、「生成AIをどう見せるか」より「現場で生まれるアナログな情報を、どこまで構造化して流せるか」という視点だと思います。大田市のように、自治体・スタートアップ・大手ベンダーが役割を分担しながら、小さくても実フィールドで動くDXを重ねていくことが、日本全体の地方DXのベストプラクティスにつながっていきそうです。

【用語解説】

農政手続
農地や農業者に関する各種申請、補助金、制度利用などを扱う行政上の手続全般を指す。

鳥獣被害対策DX
野生鳥獣による農作物や森林被害への対策を、IoTやクラウド、AIなどデジタル技術で高度化・効率化する取り組みの総称だ。

中山間地域
平地が少なく傾斜地が多い山間部やその周辺地域を指し、高齢化や担い手不足が進行しているエリアとして位置付けられることが多い。

ドローンによる生息数把握
カメラやセンサーを搭載した無人航空機を用い、上空から野生鳥獣の出没状況や個体数を把握する手法だ。

LiDAR
レーザー光の反射を利用して三次元形状や距離を高精度に計測する技術で、森林構造や地形の把握などに活用される。

GIS
地理情報システムの略称で、地図と各種データを組み合わせて空間的な分析や可視化を行う情報システムを指す。

【参考リンク】

NTTテレコン株式会社(外部)
遠隔検針や環境センシング、檻罠監視などLPWAを活用したIoTソリューションを提供する通信事業者だ。

檻罠監視ソリューション(外部)
箱罠に取り付けたセンサーで扉閉鎖を検知し、通知により見回り負担を軽減する鳥獣被害対策向けサービスである。

THEMIX Green(外部)
カーボンクレジットや林業・林政DXプラットフォームを通じて、森林・農業分野の脱炭素とデジタル化を推進する企業だ。

株式会社マプリィ(外部)
LiDARやGNSS、ドローンを活用した三次元計測とGISアプリにより森林測量や資源量調査を支援する企業である。

mapry サービスサイト(外部)
森林などの空間情報を三次元で取得・可視化し、測量や森林管理業務の効率化を支援するアプリプラットフォームだ。

セールスフォース・ジャパン(外部)
CRMを中心に、営業やサービス、自治体向けなどのクラウドアプリとAI機能を提供する企業である。

【参考記事】

鳥獣被害対策に活用出来る機器情報(外部)
鳥獣被害対策向け檻罠監視システムやセンサー機器を一覧し、通信方式や利用目的などを整理して紹介している資料である。

鳥獣対策IoT「みまわり楽太郎」を支えるテクノロジー(外部)
IoTを用いた罠監視サービスの仕組みと、現場装置からクラウドまでの技術構成、見回り負担軽減などの効果を解説している技術紹介記事である。

【編集部後記】

大田市のような中山間地域での鳥獣被害対策や農政DXは、都市から離れて暮らす人たちの「生活そのもの」を守る取り組みでもあります。

もしあなたの身の回りでも、農業や地方の課題にテクノロジーを持ち込むとしたら、どんなデータを集めて、どこから小さく試してみたいでしょうか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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