Google DeepMindのCEOデミス・ハサビスは、最近のポッドキャストでAIバブル論争について見解を示した。
彼はAIは短期的には過大評価され、中長期的には過小評価されていると述べ、AIエコシステムの一部、特にシードステージで数十億ドルの評価額で資金調達するスタートアップはバブル状態にある可能性があるとした。
一方で大手テクノロジー企業には実際のビジネスが基盤にあると指摘した。ハサビスはGoogleの優位性として、TPUによる独自のインフラストラクチャ、検索やWorkspace、YouTube、Chromeなどの既存製品にAIを統合できる点を挙げた。
OpenAIが5000億ドルの評価額を達成しながらもMicrosoftのインフラストラクチャに依存しているのに対し、GoogleはAI投資が冷え込んでも既存ビジネスで収益化しながらAI開発を継続できる構造的優位性を持つと強調した。
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Demis Hassabis Explains Why Google Is In A Good Place, Whether Or Not AI Is In A Bubble
【編集部解説】
デミス・ハサビスのこの発言は、AI業界が転換点を迎えている今、極めて示唆に富む内容です。2023年のChatGPTブーム以降、AI分野には前例のない資金が流入していますが、その持続可能性に疑問の声が上がり始めています。
ハサビスが指摘する「シードステージで数百億ドルの評価額」という現象は、実際に起きています。まだプロダクトが完成していない段階で巨額の評価を受けるスタートアップが続出しており、これは2000年前後のドットコムバブルを彷彿とさせます。しかし彼は、これをAI業界全体の問題とは捉えていません。むしろエコシステムの特定部分にリスクが集中していると見ています。
Googleの強みは、レイヤーの異なる複数の防御線を持っている点にあります。第一に、TPU(Tensor Processing Unit)という独自の半導体インフラを持つことで、NVIDIAのGPUに依存する競合他社と比べてコスト構造が有利です。第二に、検索、YouTube、Gmail、Chromeといった数十億人が日常的に使うプラットフォームを持っており、これらにAI機能を組み込むことで即座に価値を提供できます。
OpenAIやAnthropicといった純粋なAIスタートアップは、確かに技術的には優れたモデルを開発していますが、収益化の道筋はまだ不透明です。OpenAIは5000億ドルという驚異的な評価額を得ましたが、その大部分は将来の可能性に対する期待値であり、現時点での実際の収益基盤は限定的です。またMicrosoftのインフラストラクチャに依存している点も、独立性の観点から課題となります。
ハサビスが「ムーンショットから統合へ」と表現したシフトは、AI業界の成熟を示しています。初期の研究開発フェーズから、実用化と収益化のフェーズへの移行です。Googleはこの両方を同時並行で進められる稀有な立場にあります。AGI(汎用人工知能)という長期的な目標に向けた研究を続けながら、既存製品へのAI統合で短期的な収益も確保できるのです。
AI投資が冷え込むシナリオは決して非現実的ではありません。歴史的に見ても、技術革新には必ず「幻滅期」が訪れます。しかしその時期を乗り越えた企業だけが、次の成長フェーズで真の勝者となります。Googleは豊富なキャッシュフローと既存事業という「セーフティネット」を持っているため、たとえAI冬の時代が来ても研究開発を継続できる体力があります。
この発言のタイミングも重要です。2025年末という時期は、多くのAIスタートアップが次の資金調達ラウンドを模索している時期と重なります。投資家の目が厳しくなる中で、ハサビスは「Googleは準備ができている」というメッセージを明確に発信しています。
【用語解説】
AGI(汎用人工知能)
Artificial General Intelligenceの略。特定のタスクに限定されず、人間と同等かそれ以上の知的能力を持つAIシステムを指す。現在のAIが特定領域に特化しているのに対し、AGIは様々な分野で人間並みの柔軟性と理解力を発揮できる。
TPU(Tensor Processing Unit)
Googleが開発したAI専用の半導体チップ。ニューラルネットワークの演算に特化した設計で、NVIDIAのGPUと比較して、AIの学習や推論において高い性能と電力効率を実現する。2015年から内部で使用され、2018年にクラウドサービスとして外部提供を開始した。
シードラウンド
スタートアップの初期資金調達段階。製品やサービスがまだ開発途中の段階で行われる資金調達で、通常は数百万ドルから数千万ドル規模が一般的。記事で指摘されているのは、この段階で数百億ドルの評価額がつく異常な状況。
ドットコムバブル
2000年前後に発生したインターネット関連企業の株価暴騰とその後の崩壊。実体のないビジネスモデルに巨額の投資が集まり、最終的に多くの企業が破綻した。AI業界の現状がこれに類似しているとの指摘がある。
DeepMind
2010年にデミス・ハサビスらが設立したAI研究企業。2014年にGoogleに買収され、現在はGoogle DeepMindとして運営。囲碁AIのAlphaGoや、タンパク質構造予測のAlphaFoldなど、画期的なAIシステムを開発している。
【参考リンク】
Google DeepMind(外部)
Googleの AI研究部門の公式サイト。Gemini、AlphaFold、AlphaGoなど最先端AI研究情報を提供
Google Cloud TPU(外部)
GoogleのTensor Processing Unitの公式ページ。第7世代Ironwoodまでの技術仕様と性能を詳細に説明
OpenAI(外部)
ChatGPTの開発元。2025年10月に5000億ドルの評価額を達成し世界最大の非上場企業となった
Anthropic(外部)
AI安全性研究に注力するスタートアップ。GoogleとAmazonの支援を受けClaudeシリーズを開発
【参考動画】
【参考記事】
Google’s Demis Hassabis warns of a potential AI bubble(外部)
ハサビスがポッドキャストでAIシードラウンドの数百億ドル評価は持続不可能と指摘した内容を報道
Google DeepMind CEO says some AI startups are wildly overpriced(外部)
ハサビスが未始動スタートアップの数百億ドル評価を持続不可能と断言し修正が来ると予測した発言を詳報
OpenAI Hits $500B Valuation(外部)
2025年10月OpenAIが5000億ドル評価に到達。前半売上43億ドルで年間100億ドル見込むも50億ドル損失予測
OpenAI Valuation in 2025: Inside the $500 Billion AI Giant(外部)
OpenAI評価額の詳細分析。Microsoft27%株式保有で1350億ドル価値。2030年まで黒字化せず
Ironwood: The first Google TPU for the age of inference(外部)
2025年4月発表の第7世代TPU Ironwood。9216チップで42.5エクサフロップス計算能力の推論専用設計
The chip made for the AI inference era – the Google TPU(外部)
TPU誕生経緯を詳説。2013年Googleがデータセンター容量2倍必要と計算し専用チップ開発を15ヶ月で完了
Google DeepMind CEO thinks this area is probably in an AI bubble(外部)
Hannah Fry教授とのポッドキャストでハサビスが大手企業には実ビジネス基盤ありとしつつスタートアップバブル懸念表明
【編集部後記】
AI業界の未来を占う上で、今回のハサビスの発言は非常に示唆に富んでいます。テクノロジーの歴史を振り返ると、革新的な技術は必ず「熱狂」と「幻滅」のサイクルを経て成熟していきます。私たちが今目撃しているのは、まさにその渦中の出来事かもしれません。
投資家として、開発者として、あるいは単にテクノロジーの未来に関心を持つ読者として、皆さんはこの局面をどう見ていますか?AIスタートアップの評価額は本当に妥当なのでしょうか?それとも、Googleのように既存事業の基盤を持つ企業だけが生き残れる時代になるのでしょうか?
innovaTopiaでは、引き続きAI業界の動向を注視し、皆さんと共に未来を考えていきたいと思います。































