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Mozilla、FirefoxをAIブラウザへ進化させると発表 新CEO就任で戦略転換も収益依存に課題

[更新]2025年12月19日

Mozilla、FirefoxをAIブラウザへ進化させると発表 新CEO就任で戦略転換も収益依存に課題 - innovaTopia - (イノベトピア)

Mozillaは2025年12月16日、アンソニー・エンゾー=デメオ氏が新CEOに就任したことを公式ブログで発表した。同時に、Firefoxの今後の方向性として「現代的なAIブラウザへの進化」を明言した。発表では、Mozillaが信頼されるソフトウェア企業を目指す方針を示し、三つの柱を掲げている。

第一に、すべての製品でプライバシー、データ使用、AIを明確にし、AIは常に選択可能でオフにできるようにする。第二に、透明性のある収益化を通じて成長する。第三に、Firefoxをブラウザから信頼されるソフトウェアのエコシステムへと拡大し、AIブラウザへ進化させる。GamingOnLinuxのLiam Daweは記事で、企業がAIを不要な場所に強制的に組み込む傾向を批判し、簡単にオフにできる明確なオプションが提供されるか疑問を呈している。

From: 文献リンクIt just keeps getting worse – Firefox to “evolve into a modern AI browser”

【編集部解説】

今回のMozillaの発表は、ブラウザ市場における構造的な問題と、企業の生存戦略が交錯する重要な転換点を示しています。

アンソニー・エンゾー=デメオ氏の新CEO就任と同時に打ち出された「AIブラウザへの進化」という方針は、表面的には技術トレンドへの追随に見えますが、実は深刻な財務的背景があります。Mozillaの収益の約80%以上がGoogleとの検索エンジン契約から来ており、その金額は年間4億〜4.5億ドル(約600億〜675億円、1ドル=150円換算)に達しています。しかし、2024年8月にGoogleが独占禁止法違反で有罪判決を受けたことで、この収益源の将来が不透明になっています。

公式発表によれば、Firefoxのモバイル版は過去2年間で2桁成長を続け、直近1年では13%の成長を記録しました。一方で、デスクトップ版の市場シェアは約4.25%前後で推移しており、Chrome(約75.23%)との差は圧倒的です。この数字が示すのは、Firefoxが「プライバシー重視」という独自の価値提案を持ちながらも、市場での存在感を失いつつあるという現実です。

AI機能の統合について、Mozillaは「常にオプション」「簡単にオフにできる」と強調しています。しかし、この表現には注意が必要です。「オフにできる」という言葉は、デフォルトで有効化されることを示唆しています。TechCrunchやThe Registerなどの報道では、Mozillaが「ダブルボトムライン(二重の収益基盤)」戦略を掲げ、AI機能からの収益化を明確に目標としていることが指摘されています。

この戦略には二つのリスクがあります。第一に、Firefoxを選んできたユーザーの多くは、まさにGoogleやMicrosoftの「AI推し」に反発してきた層です。AIの押し付けは、この忠実なユーザーベースを失う可能性があります。第二に、AI機能の開発と維持には膨大なコストがかかりますが、収益化の道筋は不透明です。Google検索収入に依存する構造から抜け出そうとして、さらに財務的に苦しくなる可能性もあります。

一方で、ポジティブな視点も存在します。MozillaがオープンソースのAIモデルへのアクセスを提供し、ユーザーがモデルを選択できるようにすれば、これは真の「信頼されるソフトウェア」への道となり得ます。また、ブラウザ内でローカルに動作するAI機能であれば、プライバシーを損なわずに利便性を提供できる可能性もあります。

重要なのは、この発表がMozillaの経営陣による「生存のための賭け」であるという点です。Google依存からの脱却、市場シェアの下落、そしてChromium(Chromeのベースエンジン)の事実上の独占という三重の圧力の中で、Mozillaは新たな収益源を見つけなければなりません。AI統合はその試みの一つですが、果たしてそれが正解なのか、それとも最後の独立系ブラウザエンジンを弱体化させる判断なのか、今後の展開が注目されます。

【用語解説】

Gecko(ゲッコー)
Mozillaが開発するFirefoxのブラウザエンジン。ウェブページを解析して画面に表示する役割を担う。現在、主要な独立系ブラウザエンジンはGecko、GoogleのChromium(Blink)、AppleのWebKitの3つのみとなっており、Geckoはウェブの多様性を保つ上で重要な存在となっている。

Chromium(クロミウム)
Googleが開発するオープンソースのブラウザエンジン。Google Chrome、Microsoft Edge、Opera、Braveなど、多くのブラウザがこれをベースにしている。市場での圧倒的なシェアにより、事実上の標準となりつつあることが懸念されている。

デフォルト検索エンジン契約
ブラウザの検索バーで最初から設定されている検索エンジンを決める契約。ユーザーが検索を行うたびに、検索エンジン側がブラウザ開発企業に収益の一部を支払う仕組み。Mozillaの場合、この契約がGoogleとの間で結ばれており、収益の約80%を占めている。

独占禁止法違反判決
2024年8月、米国地方裁判所がGoogleの検索エンジン事業が違法な独占状態にあると判断した。この判決により、Googleが他社と結ぶデフォルト検索エンジン契約が禁止される可能性があり、Mozillaの主要収益源が脅かされている。

ダブルボトムライン
Mozillaが掲げる新しい経営指標。従来の非営利ミッションと商業的成功の両立を目指す考え方。具体的には、ユーザーのプライバシーと信頼を守りつつ、AI機能などから収益を生み出すことを意味する。

【参考リンク】

Mozilla公式サイト(外部)
FirefoxとThunderbirdを開発する非営利組織。オープンソースとプライバシー保護を重視する。

Firefox公式サイト(外部)
Mozilla開発の無料ウェブブラウザ。トラッキング防止とプライバシー保護機能を標準搭載。

Mozilla Blog – 新CEO就任発表記事(外部)
Anthony Enzor-DeMeoの新CEO就任とFirefoxのAIブラウザ化について説明。

GamingOnLinux(外部)
Linux環境でのゲームやオープンソースソフトウェアのニュースを扱うメディア。

【参考記事】

Mozilla’s new CEO says AI is coming to Firefox, but will remain a choice | TechCrunch(外部)
MozillaがAnthony Enzor-DeMeoを新CEOに任命し、FirefoxへのAI統合を進めることを発表。AI機能は常にオプションとして提供され、ユーザーが簡単にオフにできると強調。Enzor-DeMeoはFirefoxのゼネラルマネージャーとしてモバイル版の2桁成長を実現してきた。

Mozilla Appoints Anthony Enzor-DeMeo as CEO | PR Newswire(外部)
Mozillaの公式プレスリリース。Firefoxモバイル版が2年連続で2桁成長を記録し、直近1年では13%成長したことを報告。新CMOとしてJohn Solomonが就任し、Ajit VarmaがHead of Firefoxに昇格した人事も発表。

Mozilla says Firefox will evolve into an AI browser | Windows Central(外部)
新CEOがFirefoxを今後3年間でAIブラウザへ進化させると表明したことに対し、インターネットコミュニティから強い反発が起きている。多くのユーザーが「Mozillaは完全にユーザーのニーズを見誤っている」と批判。

Mozilla’s New CEO Confirms Firefox Will Become an “AI Browser” | OMG! Ubuntu(外部)
新CEOの発表を詳細に分析し、「簡単にオフにできる」という表現が実際には「デフォルトでオン」を意味することを指摘。Mozillaの「ダブルボトムライン」戦略では、AI機能からの収益が重要な柱となっている。

Mozilla Corporation installs Firefox driver in CEO reboot | The Register(外部)
Enzor-DeMeoが2024年12月にMozillaに入社し、2025年8月からFirefoxのゼネラルマネージャーを務めていた経歴を報告。Firefoxがモバイルで過去2年間2桁成長を達成し、デスクトップでも市場シェアが安定化。

Is It Worth Killing Mozilla to Shave Off Less Than 1%? | Open Web Advocacy(外部)
GoogleがMozillaに年間4億1,000万〜4億2,000万ドルを支払っていることを報告。Google独占禁止法訴訟でこの契約が禁止された場合の影響を分析。Microsoftなど他社との契約では年間4,000万〜1億3,000万ドル程度しか得られないと試算。

Mozilla signs fresh Google search deal worth mega-millions | The Register(外部)
2020年時点での報道だが、Mozillaの収益構造を詳しく解説。2018年の総収益4億5,100万ドルのうち4億3,000万ドル(約95%)が検索エンジン契約からのものであり、主にGoogleとの契約であることを確認。

【編集部後記】

Firefoxを使い続けるか、それとも別のブラウザへ移行するか。この選択は単なる利便性の問題ではなく、私たちがどのようなインターネットの未来を望むかという問いかけでもあります。独立系ブラウザエンジンが消えた世界では、ウェブ標準を一社が実質的に決定することになります。

一方で、Mozillaの財務的な苦境も現実です。みなさんは、ブラウザに何を求めますか?プライバシー保護、速度、AI機能、それとも開発元の理念でしょうか。ぜひコメントやSNSで、みなさんの考えを聞かせてください。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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