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国産ロボットでクマ被害ゼロへ。Highlanders「KUMAKARA MAMORU」プロジェクトが示す、人と野生動物の新たな共存

[更新]2025年12月28日

国産ロボットでクマ被害ゼロへ。Highlanders「KUMAKARA MAMORU」プロジェクトが示す、人と野生動物の新たな共存 - innovaTopia - (イノベトピア)

駆除ではなく、共存へ。東京大学発スタートアップHighlandersが、AI四足歩行ロボット「HLQ Pro」で挑むのは、人と野生動物の「適切な距離感」を取り戻すという壮大な実験だ。


東京大学発スタートアップの株式会社Highlandersは、国産AI四足歩行ロボットを活用したクマ対策プロジェクト「KUMAKARA MAMORU」を2025年12月24日より開始した。同社は東京都豊島区に本社を置き、代表取締役は増岡宏哉氏。本プロジェクトでは、防衛・インフラ分野で実証を重ねてきた国産AI四足歩行ロボットを人里と山林の境界であるバッファゾーンに展開し、クマの接近をAIで検知・判断・威嚇する。

ロボットは総重量60kgで最大30kgのペイロードを搭載可能。強化学習ベースの自律歩行により急斜面や藪を乗り越え、大型スピーカーや強力フラッシュライトでクマを追い払う。赤外線サーマルカメラを搭載し、夜間や藪の中でもクマを検知できる。今後は里山環境での実証実験を本格化し、自治体や地域団体と連携しながら全国展開を目指す。

From: 文献リンククマ被害ゼロを目指して。国産ロボットで人を守る「KUMAKARA MAMORU」プロジェクト始動|Highlanders, Inc.

 - innovaTopia - (イノベトピア)
株式会社Highlanders PRTIMESより引用
 - innovaTopia - (イノベトピア)
株式会社Highlanders PRTIMESより引用

【編集部解説】

このプロジェクトの背景には、極めて深刻な社会課題が横たわっています。環境省の速報値によれば、2025年4月から11月までのクマによる人身被害は230人に達し、2006年度以降の統計開始以来、過去最多を記録しました。特に東北地方では、秋田県66人、岩手県37人と被害が集中しています。

この問題の本質は、単なる自然災害ではなく、日本社会が直面する構造的な課題の現れといえます。過疎化による里山の管理放棄、猟友会の高齢化、そして気候変動によるドングリ類の不作が複合的に作用し、クマの生息域は過去40年間で約2倍に拡大しました。人慣れしたクマの増加により、従来の山林エリアではなく、住宅地や市街地での遭遇が常態化しつつあるのです。

Highlandersが投入する「HLQ Pro」は、総重量60kgという堅牢な機体に最大30kgのペイロードを搭載できる四足歩行ロボットです。同社は2025年5月12日にこのロボットのベータ版提供を開始しており、防衛・インフラ分野での実証実験を重ねてきた実績があります。強化学習ベースのAI制御により、急斜面や藪といった従来の車両やドローンでは到達不可能な地形を踏破できる点が特徴です。

技術的に注目すべきは、赤外線サーマルカメラとAIの組み合わせによる早期検知システムです。夜間や視界の悪い条件下でもクマを検知し、管理者へリアルタイムで映像と位置情報を共有できます。さらに、大型スピーカーや強力フラッシュライトによる威嚇装備を搭載し、視覚・聴覚の両面からクマに忌避行動を促す設計となっています。

このアプローチの革新性は、駆除ではなく「人と野生動物の適切な距離感の回復」を目指している点にあります。バッファゾーンにロボットを配置し、クマに「ここから先は人の生活圏である」という認識を学習させることで、共存の可能性を探る試みです。

一方で、実証実験はこれからという段階であり、いくつかの課題も想定されます。ロボットによる威嚇がクマの行動に実際にどの程度の抑止効果をもたらすのか、長期的な効果の持続性、運用コストと導入障壁、そして広大な里山エリアをカバーするためのスケーラビリティなどが検証のポイントとなるでしょう。

政府は2025年11月に「クマ被害対策パッケージ」を決定し、補正予算で過去最大規模の34億円を計上しました。ガバメントハンター制度の導入など、人的リソースの確保に動いていますが、高齢化が進む中での持続可能性には疑問符がつきます。

ロボティクス技術を野生動物との共存に応用するこの取り組みは、日本が直面する人口減少時代の国土管理という大きな課題に対する、一つの技術的解答となる可能性を秘めています。今後の実証実験の結果が、人類と野生動物の新たな関係性を築く契機となるか、注目されます。

【用語解説】

四足歩行ロボット
4本の脚を持ち、動物のように歩行するロボット。車輪型やクローラー型では進入困難な不整地、階段、瓦礫などを踏破できる。強化学習により環境に適応した歩行パターンを獲得する。

強化学習
機械学習の一手法で、ロボットが試行錯誤を通じて最適な行動を学習する仕組み。報酬を最大化するように行動パターンを調整し、複雑な環境下での自律的な判断を可能にする。

バッファゾーン
人の生活圏と野生動物の生息域の間に設けられる緩衝地帯。里山がその役割を果たしてきたが、過疎化や管理放棄により機能が低下し、クマの市街地出没の一因となっている。

サーマルカメラ
赤外線により物体の熱を検知するカメラ。夜間や視界不良時でも熱源を視認できるため、藪の中に潜むクマの早期発見に有効。

ペイロード
ロボットや航空機が搭載できる積載重量。HLQ Proは最大30kgのペイロードを持ち、大型スピーカーやフラッシュライトなどの威嚇装備を搭載可能。

アーバン・ベア
都市部や住宅地に出没するクマを指す用語。人慣れして警戒心が薄れたクマが増加し、従来の山林エリアではなく生活圏での遭遇が問題化している。

ガバメントハンター
狩猟免許保有者を地方自治体が公務員として任用し、鳥獣被害対策に従事させる制度。猟友会の高齢化に対応するため、政府が推進している。

【参考リンク】

株式会社Highlanders 公式サイト(外部)
東京大学発のロボットベンチャー。四足歩行ロボット「HLQ Pro」「HLQ Air」やヒューマノイド「HL Human」を開発している。

環境省 クマに関する各種情報・取組(外部)
クマによる人身被害の速報値、出没状況、捕獲数などの最新統計データを公開している。

日本クマネットワーク(外部)
クマ類の保護管理に関する研究者や実務者のネットワーク組織。科学的知見を提供している。

【参考記事】

クマによる死傷者数230人 4〜11月、通年で過去最多に(外部)
環境省が2025年4月から11月のクマによる人身被害が速報値で230人に達したと発表。

クマ被害の急増 専門家に聞く:「もはや災害級。個体数の削減に全力を」(外部)
森林総合研究所東北支所の大西尚樹氏が「この秋の状況は災害級」と指摘している。

【WWF声明】クマ被害対策において、緊急施策にとどまらない長期的視野での「自然と共生する社会」の実現を(外部)
2025年は東北で秋に市街地にクマが多く出没、死者数が全国で過去最多の13人に。

2025年のクマによる人身被害の増加とその対応について、NACS-Jの現状認識を整理しました(外部)
日本自然保護協会による現状整理。クマ類の分布域は過去40年間に約2倍に拡大。

「国産四足歩行ロボ」でクマを追い払う スタートアップが新プロジェクト「KUMAKARA MAMORU」開始(外部)
Highlandersが四足歩行ロボット「HLQ Pro」を活用したクマ対策プロジェクトを開始。

日本発AI搭載四足歩行ロボット “HLQ Pro” ベータ版提供開始-不整地や危険環境での重量物運搬を自動化(外部)
Highlandersが2025年5月12日より総重量約60kgの四足歩行ロボットのベータ版提供を開始。

国産AIロボットでクマ被害ゼロへ「KUMAKARA MAMORU」プロジェクト始動(外部)
政府が令和7年11月に公表した「クマ被害対策パッケージ」の詳細を報じている。

【編集部後記】

クマとの共存という課題に、ロボット技術がどこまで実効性のある解答を示せるのか。Highlandersの挑戦は、人口減少時代の日本が直面する国土管理の縮図ともいえます。駆除ではなく「距離感の回復」を目指すアプローチは、野生動物との関係を再構築する新たな視点を提示しています。

皆さんの地域では、野生動物との距離はどう変化していますか。テクノロジーが人と自然の境界線を守る未来について、ぜひ一緒に考えてみませんか。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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