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1月8日【今日は何の日?】ホーキング博士生誕。「AIは人類を滅ぼす」という警告は予言だったのか?

1月8日【今日は何の日?】ホーキング博士生誕。「AIは人類を滅ぼす」という警告は予言だったのか? - innovaTopia - (イノベトピア)

1月8日。この日は、車椅子の天才物理学者、スティーヴン・ホーキング博士の誕生日です。

彼は生涯をかけて宇宙の「事象の地平面」を見つめ続けましたが、その視線は同時に、人類の足元に迫るある危機をも捉えていました。
それは、「完全な人工知能の完成は、人類の終焉を意味するかもしれない」という、静かですが強烈な警鐘です。

博士がこの世を去ってから数年が経ち、世界は一変しました。GPT-4やGeminiといった大規模言語モデル(LLM)の登場により、AIは急速に「人間レベル」の知性へと肉薄しています。かつてSFの中だけの話と思われていた「知能爆発」の予兆は、今やシリコンバレーのエンジニアたちが直面する現実の課題となりました。

しかし、彼の警告は単なる「絶望の予言」だったのでしょうか? それとも、私たちがAGI(汎用人工知能)と共存するためにクリアすべき「究極の設計要件」だったのでしょうか。

本稿では、ホーキング博士の誕生日という節目に、現代AI開発の最重要課題である「アライメント(価値整列)」の最前線を紐解きます。彼が恐れ、そして同時に希望を託した「知性」の未来図を、今こそ冷静に見つめ直してみましょう。


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「AIは人類最悪の、あるいは最後の発明になる」——彼が見ていた景色

2014年、BBCのインタビューにおいてスティーヴン・ホーキング博士が発した言葉は、世界中に衝撃を与えました。「完全な人工知能の開発は、人類の終わりをもたらす可能性がある」。

多くの人々はこの言葉を、映画『ターミネーター』のような「悪意を持ったロボットの反乱」として受け取りました。しかし、博士が真に危惧していたのは「悪意」ではなく、「能力(Competence)」です。彼はこう例えています。

「あなたは悪意からアリを踏みつけるような、アリ嫌いな人ではないでしょう。しかし、もしあなたが水力発電のグリーンエネルギープロジェクトを担当していて、その地域に水没させなければならないアリ塚があるとしたら、アリにとっては残念なことです。人類をアリの立場に置いてはいけません

超知能を持ったAIにとって、人類の目標とAIの目標がわずかでもズレていれば(Misaligned)、AIはその圧倒的な能力で目標を遂行しようとし、その過程で人類が「アリ塚」のように排除されるリスクがある——これこそが、現在「アライメント問題(価値整列問題)」として知られる議論の核心です。

また、博士は数学者I.J.グッドが提唱した「知能爆発(Intelligence Explosion)」の概念も深く理解していました。一度、人間以上の知能が生まれれば、そのAIは自らを改良し続け、指数関数的な速度で進化します。生物学的進化という遅いタイムスケールに縛られた人類が、そのスピードに太刀打ちできなくなる未来を、物理学者である彼は冷徹な計算の結果として予見していたのです。

予言は的中したか? 生成AIブームが可視化した「ブラックボックス」

博士の没後、OpenAIによるGPTシリーズの登場は、彼の予言が現実味を帯びてきたことを証明しました。現在のLLM(大規模言語モデル)は、膨大なデータから確率論的に次に来る単語を予測しているに過ぎませんが、そこには開発者さえ意図していなかった能力が発現する「創発(Emergence)」が見られます。

ここで問題となるのが、「ブラックボックス問題」です。なぜAIがその答えを導き出したのか、その思考プロセス(内部のパラメータの変化)を人間が完全に理解・追跡することは、現在の技術では困難です。
さらに、AutoGPTのような「自律エージェント」の登場は、AIが単なるチャットボットを超え、自ら計画を立て、インターネット上のツールを使い、現実世界に干渉し始めたことを意味します。

「理解できないもの」が「自律的に動き出す」。これはまさに、ホーキング博士が恐れたシナリオの初期段階と言えるかもしれません。しかし、私たちは手をこまねいているわけではありません。

恐怖を「エンジニアリング」で乗り越える——現代のアライメント技術

「AIの暴走」というSF的な恐怖に対し、現代のエンジニアたちは「アライメント」という技術的アプローチで対抗しています。これは、AIの目的関数を人間の倫理や価値観に数学的に合致させる試みです。

現在、主流となっているのがRLHF(Reinforcement Learning from Human Feedback:人間からのフィードバックによる強化学習)です。AIの出力に対し、人間が「望ましい/望ましくない」の評価を与え、AIを調整していく手法です。しかし、これには「人間が評価できる範囲の知能」にしか通用しないという限界があります。

そこで注目されているのが、Anthropic社などが提唱する「Constitutional AI(憲法AI)」です。これは、AIにあらかじめ「憲法(行動規範)」を与え、AI自身がその規範に従って自らの出力を監視・修正するモデルです。いわば、AIに良心をコードとして実装する試みと言えます。

さらにOpenAIは、人間よりもはるかに賢い「超知能」を制御するための「スーパーアライメント」研究チームを発足させました(現在は組織改編されていますが、課題としての重要性は変わりません)。ここでは、弱いAIを用いて強いAIを監督する手法など、人間が知能の主導権を失った後でも制御可能にするための理論構築が進められています。

「知恵」と「知能」の共存——ホーキングが託した希望

恐怖ばかりが強調されがちなホーキング博士のAI論ですが、彼は決してテクノロジー否定派ではありませんでした。むしろ、彼自身が音声合成装置や視線入力システムといったテクノロジーによって世界と繋がり、研究を続けた「人間拡張(Human Augmentation)」の体現者でした。

彼は2017年のWeb Summitでこう語っています。
「もし私たちがAIのリスクを管理できれば、それは貧困や病気の根絶、気候変動の修復など、人類史上最高の出来事になりうる」

AIは、私たちが生物学的に到達できない計算速度や記憶容量を提供してくれます。一方で、私たち人間には「目的」や「意味」を見出す知恵があります。
博士が望んだ未来は、AIと人間が対立する構図ではなく、彼の車椅子のように、人間の欠落を補い、可能性を無限に拡張するパートナーとしてのAIだったのではないでしょうか。

【編集部後記】

スティーヴン・ホーキングの誕生日に、私たちは改めて問われています。
私たちは今、パンドラの箱を開けました。そこから飛び出したのが「災厄」だけになるのか、それとも最後に「希望」が残るのか。

その鍵を握るのは、AIの進化速度ではなく、私たち人間がどれだけ真剣に「アライメント」という名の安全装置を設計できるかにかかっています。星空を見上げ、宇宙の法則を愛した博士は、きっと天国からこの地上最大の実験を、期待と不安の入り混じった眼差しで見つめていることでしょう。


【思考の旅を続けよう】

スティーヴン・ホーキング博士は、問い続けることの大切さを私たちに教えてくれました。今日の記事をきっかけに、以下のテーマについてあなたの考えをSNSでシェアしてみませんか?

  • Q1. もしあなたが「AI憲法」の制定委員だとしたら、その「第一条」には何を定めますか?
    (例:「人間に危害を加えてはならない」「人間と区別がつかない振る舞いをしてはならない」「常に電源オフのスイッチを物理的に確保する」など)
  • Q2. ホーキング博士のように、テクノロジーで身体や知能を拡張できるとしたら、あなたはどんな能力を手に入れたいですか?
    (例:「あらゆる言語を瞬時に話せる機能」「忘れることのない外部記憶脳」「睡眠時間を短縮する最適化チップ」など)
  • Q3. 20年後、AIは人類の「良きパートナー」になっていると思いますか? それとも「過保護な管理者」になっていると思いますか?

【Information】

The Stephen Hawking Foundation(外部)
ホーキング博士の遺志を継ぎ、設立された公式財団。宇宙論の研究促進、学校教育における科学リテラシーの向上、そして彼が闘い続けた運動ニューロン疾患(MND)の研究支援を行っています。

Future of Life Institute (FLI)(外部)
「テクノロジーが生命を破壊するのではなく、繁栄させる未来」を目指す非営利団体。ホーキング博士も科学顧問を務めていました。特にAIの安全性、バイオテクノロジーのリスク管理、核兵器廃絶などの分野で提言を行っており、AI開発の一時停止を求める公開書簡などでも知られています。

Anthropic (Research)(外部)
OpenAIの元研究幹部らが設立したAI安全性・研究企業。本記事で紹介した、AIモデルにあらかじめ倫理的原則(憲法)を学習させる「Constitutional AI(憲法AI)」のアプローチを主導しており、技術的なアライメント研究の最前線を知ることができます。

Breakthrough Initiatives(外部)
ホーキング博士が投資家ユーリ・ミルナーと共に立ち上げた、宇宙における知的生命体の探索や、恒星間航行(スターショット計画)を目指す壮大な科学プロジェクト。AIだけでなく、彼が夢見た「宇宙進出」のビジョンが現在も進行しています。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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