AI Newsは1月5日、世界最大級の化粧品企業ロレアルが月に50,000枚の画像と500本以上の動画をAIで生成している実態を報じた。同社は「AI生成の人間の顔は使わない」という厳格なルールを設けながら、デジタル広告制作の効率化を推進している。
ロレアルは、デジタル広告制作の日常業務にAI生成クリエイティブツールを導入している。AIは動画やビジュアルコンテンツの制作を支援し、特定のデジタルチャネルに適合するコンテンツの生成や適応に使用されている。具体的には、映像の磨き上げ、フォーマットの変更、異なるプラットフォーム向けのバージョン作成などが含まれる。
ロレアルは、AIを人間チームの代替としてではなく、サポート層として位置づけている。AI生成のアウトプットは既存のワークフローで検査、調整、承認され、人間のチームがクリエイティブの方向性と最終アウトプットを監視し続ける。この取り組みの目的は、高コストな制作サイクルを繰り返すことなくコンテンツの流れを維持し、追加アセットの生産における限界費用を下げることである。AIはブランドボイスの定義ではなく、制作プロセスを支援する役割を担っている。
From:
L’Oréal brings AI into everyday digital advertising production
【編集部解説】
今回のロレアルの取り組みで特筆すべきは、その規模と体系性です。同社は「CREAITECH」と呼ばれる社内ラボを運営しており、月に最大50,000枚の画像と500本以上の動画を生成しています。これは単なる実験ではなく、すでにグローバルマーケティングの中核インフラとして機能していることを意味します。
技術基盤としては、Google CloudのImagen 3とGeminiモデルを画像生成に、Veo 2を動画生成に活用しています。さらにAdobe Fireflyとも提携し、40以上のモデルとサービスを統合した、いわばAIツールのエコシステムを構築しました。このマルチベンダー戦略により、各ツールの強みを組み合わせた柔軟な運用が可能となっています。
最も注目すべきは、ロレアルが設けた倫理的な境界線でしょう。同社は2021年から責任あるAIフレームワークを確立しており、「AI生成の人間の顔、体、髪、肌を広告に使用しない」という厳格なポリシーを掲げています。美容ブランドであるにもかかわらず、あるいはだからこそ、人間のイメージを人工的に生成することのリスクを理解し、製品ビジュアルや環境設定にのみAIを活用する判断は示唆に富んでいます。
実務面では、キャンペーンの制作期間を数週間から数時間へと劇的に短縮しました。EMEA地域の20市場でTikTokやInstagram向けにローカライズされたコンテンツを展開する際、同じ製品写真を日本庭園やパリの街角など、異なる環境に瞬時に配置できるようになっています。これにより、制作コストを抑えながら市場ごとの文化的な共鳴を実現しているわけです。
一方で、この変化が意味するのは、従来の制作ワークフローの根本的な再編です。外部エージェンシーへの依存度が下がり、社内チームがAIツールを使いこなす必要が生じています。ロレアルは新たにAI業務を中心とした部門横断チームを編成し、クリエイティブ、パフォーマンス、データ運用を統合する組織改革を進めています。
日本企業にとって、この事例が示すのは「AIは代替ではなく増幅装置」という明確なビジョンです。ロレアルはクリエイティブの意思決定を人間に残し、AIを制作プロセスの効率化に特化させることで、ブランドリスクを最小限に抑えながら規模の拡大を実現しました。グローバル展開を目指す日本のブランドにとって、この慎重かつ戦略的なアプローチは参考に値するでしょう。
【用語解説】
CREAITECH(クレアイテック)
ロレアルが2024年に立ち上げた社内生成AIコンテンツラボ。Google、Adobe、OMIなどのパートナー企業と提携し、40以上のAIモデルとサービスを統合したプラットフォームである。マーケティングチームの創造性を拡張し、ブランドに適合した画像、テキスト、動画を大規模に生成することを目的としている。
Imagen 3(イマジェン3)
Google Cloudが提供する画像生成AIモデル。テキストプロンプトから高品質な画像を生成する機能を持ち、ロレアルのCREAITECHで製品ビジュアルや背景画像の生成に活用されている。
Gemini(ジェミニ)
Google Cloudのマルチモーダルな大規模言語モデル。テキスト、画像、音声などの複数の入力形式を処理できる。ロレアルではImagen 3と組み合わせて使用されている。
Veo 2(ヴェオ2)
Google Cloudの動画生成AIモデル。静止画像を8秒間のアニメーション動画に変換する機能を持つ。ロレアルではマーケティング用動画アセットの制作に活用されている。
EMEA地域
Europe(ヨーロッパ)、Middle East(中東)、Africa(アフリカ)の略称。ロレアルはこの地域の20市場でAI生成コンテンツを活用したローカライズ戦略を展開している。
【参考リンク】
ロレアル公式サイト(外部)
世界最大級の化粧品企業。39のブランドを展開し、2024年の売上高は434.8億ユーロ。
CREAITECH – ロレアル公式ページ(外部)
生成AIコンテンツラボの公式説明ページ。Google、Adobe、OMIとの提携を推進。
Google Cloud(外部)
Imagen 3、Gemini、Veo 2などの生成AIモデルを提供するクラウドサービス。
Adobe Firefly(外部)
商業利用が安全な画像、動画、音声、ベクターグラフィックスの生成AIツール群。
TikTok(外部)
短尺動画共有プラットフォーム。ロレアルがローカライズコンテンツを展開。
Instagram(外部)
Meta社が運営する写真・動画共有SNS。AI生成コンテンツの配信先の一つ。
【参考記事】
L’Oréal partners with Google Cloud on generative AI content creation to enhance marketing(外部)
月50,000枚の画像と500本以上の動画制作を報じる記事。倫理フレームワークも詳述。
L’Oréal is putting AI at the center of its global marketing strategy(外部)
キャンペーン制作を数週間から数時間に短縮。EMEA20市場での展開を詳報。
How L’Oréal Groupe pioneers responsible AI visuals with Veo and Imagen(外部)
Google Cloud公式ブログ。制作時間短縮とコスト効率向上の具体例を紹介。
L’Oréal accelerates content creation with Adobe Firefly generative AI(外部)
Adobe公式ブログ。40以上のモデル統合と制作量30%増加を数字で報告。
L’Oréal taps Google’s generative AI tools for content creation(外部)
小売業界の視点から分析。2025年4月Google Cloud Nextでの発表内容をまとめる。
【編集部後記】
ロレアルの取り組みで印象的だったのは、「人間の顔を生成しない」という明確な線引きでした。AIを導入する際、皆さんの組織ではどこまでを許容し、どこからを禁止するのか、その基準を議論されていますか。
効率化は魅力的ですが、ブランドの信頼性や倫理的な配慮とのバランスをどう取るかは、これから多くの企業が直面する課題です。月に50,000枚の画像を生成する規模感と、それを支える厳格なガバナンス体制。この両立こそが、Tech for Human Evolution」の実践例ではないでしょうか。
































