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TDK、AIグラス向け新会社「TDK AIsight」設立―視線意図追跡の超低消費電力DSP「SED0112」発表

TDK AIsight設立、視線から意図を読み取るAIグラス向けチップ「SED0112」をCES 2026で発表 - innovaTopia - (イノベトピア)

視線を動かすだけで、あなたが「何をしたいか」までAIが理解する―そんなSF映画のような世界が、2026年のCESで現実のものとなりつつあります。日本のTDKが発表した新技術は、スマートフォンに続く次世代インターフェースの扉を開くかもしれません。


TDK株式会社(東証:6762)は2026年1月6日、新会社TDK AIsightの設立とAIグラス向け次世代超低消費電力DSPプラットフォーム「SED0112」を発表した。TDK AIsightは物理的AIと生成AIの交差点に対応し、視線意図・追跡ソリューションの提供に注力する。SED0112はマイクロコントローラー、ステートマシン、ハードウェアCNNエンジンを統合したデジタル信号プロセッサで、4.6mm x 4.6mmの正方形パッケージを採用する。

カメラサポートとして4基のSES0111アイセンサーと1基のSES0113コンテキストセンサーを搭載する。商用サンプルはTDK AIsightウェブサイトを通じて入手可能である。同社のソリューションは2026年1月6日から9日まで米国ネバダ州ラスベガスで開催されるCES 2026のTDKブース#15803で実演される。

From: 文献リンクTDK establishes TDK AIsight and announces new ultra-low power DSP platform for AI Glasses

【編集部解説】

今回のTDK AIsight設立は、AIグラス市場における重要な転換点を示しています。注目すべきは、TDKが「物理的AI」と「生成AI」という2つの異なるAI領域を融合させる戦略を明確に打ち出した点です。

物理的AIとは、センサーやアクチュエーターからのデータを直接処理することで、機械が物理世界を知覚し理解する技術を指します。一方、生成AIは会話や画像、動画などの新しいコンテンツを創造する技術です。TDK AIsightはこの両者を組み合わせることで、ユーザーの視線や身体の動きといった物理情報を読み取りながら、それに応じて適切なAI生成コンテンツを提供するという、これまでにない体験を目指しています。

SED0112の技術的な革新性は、「視線意図追跡(eye-intent tracking)」に特化したハードウェアCNNアーキテクチャにあります。単に視線がどこを向いているかを追跡するだけでなく、ユーザーが「何をしようとしているか」という意図まで推測する点が従来の視線追跡技術との違いです。たとえば、ユーザーが果物を見ているとき、単に見ているだけなのか、栄養情報を知りたいのか、購入を検討しているのかまで判断できる可能性があります。

超低消費電力設計の重要性も見逃せません。4.6mm角という小型パッケージで複数のセンサーを統合しながら、ホストプロセッサを低消費電力状態に保てる設計は、AIグラスの実用化における最大の課題であるバッテリー寿命問題に直接アプローチしています。従来のウェアラブルデバイスでは、常時稼働するAI処理がバッテリーを急速に消耗させる問題がありました。SED0112は関心のあるイベントが検出されるまでホストプロセッサをオフ状態に保つことで、この問題を解決しようとしています。

応用範囲は消費者向けスマートグラスだけでなく、AR、産業用グラスまで広がります。特に産業分野では、作業者の視線から作業意図を読み取り、適切なタイミングで必要な情報を表示することで、ハンズフリーでの複雑な作業支援が可能になるでしょう。

一方で、視線追跡技術には当然プライバシーの懸念が伴います。ユーザーが何を見て、何に関心を持っているかという情報は極めて個人的なものであり、その取り扱いには慎重な配慮が必要です。TDKがエッジ処理を重視している点は、データをクラウドに送信せずデバイス内で処理することでプライバシーリスクを軽減する意図があると考えられます。

TDKの90年にわたる部品メーカーとしての実績を活かし、センサー、バッテリー、パッシブコンポーネントなど複数の自社技術を統合したシステムソリューションとして展開する戦略は、単なるチップベンダーとは一線を画します。これは、AIグラス市場がまだ黎明期にあり、個別部品ではなく統合ソリューションが求められている現状を反映しています。

商用サンプルが既に入手可能という点も重要です。これは製品が概念段階ではなく、実際に量産に向けた準備が整っていることを示しており、2026年中にもSED0112を搭載したAIグラス製品が市場に登場する可能性があります。

【用語解説】

DSP(デジタル信号プロセッサ)
音声や画像などのアナログ信号をデジタル処理するための専用プロセッサである。汎用CPUに比べて特定の信号処理タスクを高速かつ低消費電力で実行できる特徴を持つ。

CNN(畳み込みニューラルネットワーク)
画像認識や視覚情報の処理に特化したディープラーニングの一種である。人間の視覚野の仕組みを模倣し、画像の特徴を段階的に抽出する構造を持つ。

物理的AI
センサーやアクチュエーターからのデータを直接処理することで、機械が物理世界を知覚し、理解し、相互作用できるようにする人工知能の一分野である。ロボティクスやウェアラブルデバイスに応用される。

生成AI
会話、ストーリー、画像、ビデオ、音楽などの新しいコンテンツやアイデアを創造できるAI技術である。ChatGPTやMidjourneyなどが代表例である。

視線意図追跡(eye-intent tracking)
単に視線の方向を追跡するだけでなく、ユーザーが何をしようとしているかという意図まで推測する技術である。従来の視線追跡技術に機械学習を組み合わせることで実現される。

エッジ処理
データをクラウドサーバーに送信せず、デバイス内部で処理を完結させる技術である。通信遅延の削減やプライバシー保護の観点で重要視されている。

ホストプロセッサ
システム全体を制御するメインのプロセッサである。SED0112の文脈では、必要なときだけ起動させることで消費電力を抑える設計となっている。

CES(Consumer Electronics Show)
毎年1月に米国ラスベガスで開催される世界最大級の家電・テクノロジー見本市である。最新の技術トレンドが発表される場として注目を集める。

【参考リンク】

TDK株式会社 公式サイト(外部)
日本を代表する電子部品メーカー。フェライトコア、センサー、バッテリーなど幅広い製品を展開。2025年度売上高144億米ドル。

TDK AIsight 公式サイト(外部)
TDKが新設したAIグラス向けソリューション専門会社。視線意図追跡技術とTDKの各種技術を統合したシステムを提供。

CES 2026 公式サイト(外部)
世界最大級のテクノロジー見本市。毎年1月ラスベガス開催。AI、自動車、ウェアラブル、IoTなど最新技術が一堂に会する。

【参考記事】

TDK Unveils AI-Powered Wearable Technologies at CES 2026(外部)
TDKがCES 2026で発表したAIパワードウェアラブル技術について詳述。SED0112の技術仕様や物理的AIと生成AIの融合を解説。

AI Smart glasses – the new wearable assistant for daily life(外部)
AIスマートグラスにおける視線追跡技術の重要性とプライバシー課題を論考。エッジ処理の必要性や産業向け応用事例を紹介。

The Role of Generative AI in Wearable Experiences(外部)
ウェアラブルデバイスにおける生成AIの役割を詳細分析。物理センサーデータと生成AIの組み合わせによるパーソナライズ体験を説明。

DSP extends battery life in wearables(外部)
ウェアラブルデバイスにおける超低消費電力DSPの重要性を解説。AI処理がバッテリー寿命に与える影響と省電力化技術を詳述。

【編集部後記】

AIグラスが日常に溶け込む未来は、思っているより早く訪れるかもしれません。視線の動きから私たちの意図を読み取り、必要な情報を適切なタイミングで提示してくれる―そんな体験は、スマートフォンに続く次のコンピューティング革命になるでしょうか。

一方で、自分が何を見ているかを常に記録されることへの不安も拭えません。便利さとプライバシーのバランスについて、皆さんはどう考えますか?AIグラスを日常的に使いたいと思える条件は何でしょうか。この技術が社会にもたらす変化を、一緒に見守っていきたいと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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