営業DXが叫ばれて久しい。
SFAの導入はその象徴的な取り組みの一つだが、「入力は増えたが、営業は本当に変わったのか」「成果につながっている実感がない」と感じている現場は少なくない。
可視化、データ活用、標準化。
正しいはずの言葉が並ぶ一方で、なぜ“形だけのDX”は繰り返されてしまうのか。
なぜ、効果に疑問を抱きながらも、運用は止められないのか。
その背景には、ツールの問題だけでなく、営業という仕事の構造、そして企業と顧客の関係性に対する見落としがあるのかもしれない。
本稿では、デジタルセールスルーム「openpage」を展開する株式会社openpage 代表取締役の藤島誓也氏にインタビューを実施した。
SFAが抱える構造的な限界、「デキる営業」が見ている本質、そしてAI時代において営業活動はどこまでデータ化され、どこに人の役割が残るのか。
「なぜ形だけDXはやめられないのか」という問いを起点に、営業DXの現在地と、その先にある可能性を掘り下げていく。

藤島誓也
株式会社openpage代表取締役。キヤノンマーケティングジャパン、伊藤忠テクノロジーベンチャーズと資本提携。デジタルセールスルーム(DSR)による”眼前可視化営業”で日本企業の営業変革を推進。 2018年創業以来、前年比837%成長を実現。ビックカメラをはじめとする大手企業への導入実績を持ち、商談化率平均2.5倍、営業データ量10倍増加の成果を創出。国内DSRカテゴリーでトップシェアを確立している。 エンジニア、デジタルマーケティング、メディアビジネス、営業企画と10数年の横断的キャリアを構築。この多様な経験を活かし、データとデジタルを起点とした営業変革に取り組む。著書「実践カスタマーサクセス」(日経BP)、NHK Eテレ出演など情報発信も積極的に行っている。
株式会社openpage公式サイト:https://www.openpage.jp/
なぜ「形だけDX」は起きてしまうのでしょうか?企業はSFA導入時にどんな期待(幻想)を抱きがちですか?
藤島:
そうですね。やっぱり皆さん、営業でデジタル化やデータ、システムに投資するということは、営業活動の見える化を期待しているのかなと思っています。よく「営業が属人化している」という話をしますよね。凄腕営業マンは、その人の勘のようなものでやっている。それを組織として再現できる形にしたい、という期待はあります。
結構IT企業だと、例えばAWSを売るにしても選択肢が多すぎて、プレゼンするだけでは決まらなかったりします。顧客の法人取引の意思決定をどう引き出すのか。そこを見える化したい、噛み砕きたい、という発想はあると思うんですよね。
ただ、そもそもSFAに限らず、営業のツールを「可視化したいから入れる」みたいな感じで、ちょっと思考停止になるケースがある。顧客が何か発注したいと考えるときに辿る道筋や、考える情報、議論がまずあって、その上で営業として前に進めるための情報やアクションがある。その履歴をデジタル化して追うのが正しい順番なんですけど、ツールを入れると、それで見える化して顧客が動く、みたいに逆になってしまう。
どうして、利益につながっていないのに続けてしまうのでしょうか?
藤島:
法人営業の顧客側の購買プロセスの理解や整備をしていない状態で、「入れれば見えるんでしょう」「こういうのを入れるのが当たり前なんでしょう」って流されるように導入する。でも入れたところで、「どういう提案をすれば顧客が動くのか」を無視した状態になってしまって、「これこれを管理したい」という方向に向かって、結局形骸化して、顧客不在のシステムになっている。
SFAのベンダーもコンサル会社も、「ルールを作りましょう」「会議で認識を合わせるんだ」みたいな話になって、引きのクリティカルシンキングがない。もやっとしてるけど、そういうものなのかな、みたいな感じで進む。
営業企画やIRの観点で、営業を数値管理して見える化するのは価値がある。でも、SFAって体重計とか体組成計みたいなものです。数字は見えるけど、体重計に乗りまくっても何も生まれない。測ったところで、食事制限や運動がないとダイエットにはならない。計測器の限界です。
SFAって高機能になりすぎて、どんな情報も入れられる。入れる選択肢が多すぎるがゆえに、入れなくてもいいものまで「入れよう」ってルールに設定してしまう。不毛な入力率を上げる話になって、入力項目が増え続けて、基本の営業数値の可視化からも離れていく。それどころか、入力率を上げるためにAIを使うか、みたいな話になる。でも、データが充実したところで何も変わらない。なのにやり続ける。なんで?って話です。
そこの「なんで」を会社組織内でも伝えられていないし、セールステクノロジー市場全体でも「そういうもんだよね」になって、クリティカルシンキングがない。SFAで儲かるベンダーやパートナー、コンサルが神輿を担いでいるので、乗っかる方が多い。だから企業としても、「うちが悪いだけで、できてないのかな」ってなって、入力率を上げる方に行く。集団で変な状態になってしまっている。
その結果、導き出される答えが「頑張れ」になってしまう。SFAばかり見てると、定量的な項目だけ頑張るようになっちゃうんですよね。もっと電話しよう、もっと会いに行け、みたいな話しか言えなくなる。でも、営業で重要なのはそういうことだけではないし、SFAが営業における最重要ツールということでもない。
そもそも、「デキる営業」には何が必要なのですか?
藤島:
法人営業で着目すべきフレームワークはいろいろ出ていて、統計的に証明されているのは「MEDDIC」かなと思ってます。トップ営業とローパフォーマーで、会話で押さえているポイントが違う。
例えば、数値指標で語れているかどうか。費用対効果をシミュレーションできるかどうか。ベテランはその場でできるけど、新人だと「よく分かりません」みたいな差がある。
あとは顧客の購買プロセス。法人営業だと顧客は組織の合議で意思決定するので、誰がどういう基準を持ってるか、どんな人が関わっているか。その集団を説得することを論点にしてトップ営業は動いてる。一方で、そうじゃない営業はそれが分からない。目の前の人にプレゼンすれば決まると思ってる。ここが差です。
トップ営業は顧客課題や顧客の購買基準をちゃんと押さえてる。顧客も社内で何か新たに取り組みたいと思った時に、「取り組みたいです」だけでは通らない。重要な課題で投資すべき領域がどこで、どういう基準でパートナーを探している、という論法で企画が上がる。そういった顧客側の論点を押さえている。
DSRは何を見えるようにしてくれるのですか?
藤島:
顧客の課題感、課題に対してどう取り組むのか、どういう社内説得が必要なのか、効果はどれくらいか、決裁者はどうなのか。こちら側の提案ロジックが顧客からして納得度がいくものなのか。顧客が動くようになっているか。
それが刺さっているなら、顧客の社内で回覧されるはず。いろんなステークホルダーに見られるはずで、そこを測るデータが顧客の視聴データだと思ってます。提案の有効性が、顧客がどれだけ真剣に向き合っているかで見える。これが営業において一番大事なデータだと思ってます。
SFAにはその「顧客第一」がない。本来は営業活動を管理するもので、営業の主観を入力する。重要なのは営業の主観ではなく、顧客が「どこに課題を抱えているのか」「どう社内稟議を通すか」を、企業としてデータ化しているか。そこをやった方がSFAに投資するより投資対効果は高い、というのが私の発見です。実際に、視聴数と受注に相関があるんですよ。
視聴数を見ると、「この会社は決まるな」「これは決まらないな」とかが見えてくるようになります。逆に、視聴数が悪いところがあれば、そこを改善していけばいい。見てもらいたかったら、良い資料を見せればいい。当たり前だけど、良いものを見せればいい反応が目に見えて起きる。これがツール活用の動機づけになっていくんですよね。

画像提供:株式会社openpage
AIを使うのに、求められるリテラシーはどれぐらいなんですか?
藤島:
AIに「営業のやり方が分からない」って聞いても一般論が返ってくる。でも、openpageで「これまでこういう提案をしてきました、顧客の反応はこうで、ここで悩んでます、どうたらいいですか」って渡すと、コンテキストに合った形で回答してくれる。だからAIが使えません、ではなく、そもそも営業活動がデジタル化と言語化されてなくてデータソースになってない、という話なんですよね。
AIの性能は上がっていて、僕らの(openpageで得られる)データがあれば、データを入れて「次何すればいいですか」「決まりそうですか」「どんな提案すればいいですか」って聞くだけで結構いいものが出る。ただ、一発で全部出るとは限らないのでラリーは重要。「ちょっと違います」「こうしたいです」は必要だけど、複雑に設計するようなプロンプトは作らなくてもいい。リテラシーレベルが高くなくても全然使えると思います。
それよりもデータソースが優秀であることが大事。SFAのデータだけだと、顧客がどう動いたか、誰がいるかのデータがないので、ここまで分からない。データソースの勝利、という感じです。
最近だと提案書もAIで作れる時代で、僕は7割くらいAIで作ったりしてます。ヒアリング情報が入っていて、それをAIに渡す。こちら側で用意してる業界コンテンツと掛け合わせれば、すごいスピードで提案が作れて、納得度があって、会社の意思決定にも耐えられる論理になる。むしろAIの方が、変に人間がやるより論理的で、重厚なものになる。
ただ、そのスタートを整えるのが一番大事。結構アナログに見えるかもしれないんですけど、相手の言葉で発してもらわないとデジタルにならないので、対話で向き合って深掘りする力、対話力がデジタル化にとって一番重要なんです。

画像提供:株式会社openpage
これから営業を変えたい人が、明日からできることはなんですか?
藤島:
よく営業のプロとかが自慢や武勇伝を語り出してるんですけど、BtoBの営業なんで、顧客も頑張る必要がある。自分が頑張ってプレゼンする、ではなく、顧客がちゃんと動くかな、ということです。ここは意識転換として非常に重要。
そうなると、顧客のために、こういうデータ、こういう情報、こういう提案をデジタルに残そう、という話になるはず。メモ帳でもいいので、打ち合わせをしながらその場でヒアリングや提案を残す。
自社内向けの入力ではなく、顧客に動いてもらうためにデータを取って、入力して、渡してあげる。「課題はこうなんですね、じゃあこういう手立て、こういったことをやっていきましょう」と顧客のために情報整理してあげる。これくらいならツールを入れなくてもすぐできる。
それを組織的に、より効果的にやるなら僕たち(openpage)に相談してほしいですけど、その前段階として、営業が頑張って提案を作るより、顧客に頑張ってもらうように。発想転換と、それを意識した情報のメモみたいなところをやるだけで全然違うと思います。やってればデータが戻ってくるので、それをAIに投げれば良いものになってくる、という感じです。
【用語解説】
SFA(セールスフォースオートメーション)
営業活動を管理・可視化するためのシステム。
商談数、進捗フェーズ、売上見込み、担当者ごとの活動履歴などを一元管理し、営業組織全体の状況把握や数値管理を目的として導入されることが多い。
DSR(デジタルセールスルーム)
営業と顧客が同じ情報を共有しながら商談を進めるための仕組み、またはそのためのツール群を指す概念。顧客ごとに専用ページを用意し、提案内容、課題整理、資料、ROI試算、次のアクションなどを集約して共有する。
MEDDIC(メディック)
BtoB営業における商談管理・評価のためのフレームワーク。以下の6要素を押さえることで、商談の質や受注確度を高めることを目的とする。
Metrics:顧客が評価する数値指標(ROIなど)
Economic Buyer:最終的な意思決定権者
Decision Criteria:意思決定の判断基準
Decision Process:意思決定プロセス
Identify Pain:顧客が抱える本質的な課題
Champion:社内で推進役となる人物
【関連書籍】
『実践カスタマーサクセス』藤島誓也著(日経BP)- 顧客との長期的な関係構築とデジタル活用について
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/22/12/06/00539/
【編集部後記】
DXの定義は明確には定まっていませんが、多くの場面で「デジタル技術によって業務を根本から見直し、新たな価値を生み出すこと」として語られています。
一方で現場では、DXがいつしか目的化し、「ツールを入れたこと」自体が成果のように語られてはいないでしょうか。導入の先で、会社の利益はどう変わったのか。顧客の体験は、どれだけ前に進んだのか。
手順や運用を更新するのは簡単ではありません。それでも、仕事のあり方は時代とともに変わっていきます。今回のインタビューが、「何を目的に、何をデジタル化すべきなのか」を、もう一段だけ具体的に考えるきっかけになればと思います。
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