「売上」の定義が部門ごとに違う──そんな組織の混乱が、AIエージェント時代には致命的なリスクになります。Snowflakeが発表した「Semantic View Autopilot」は、データの「共通言語」を自動構築し、数日かかっていた作業を数分に短縮。AIハルシネーションを最小化しながら、エンタープライズAIの信頼性を根本から支える基盤技術として注目を集めています。
Snowflakeは2026年2月3日、ロンドンで開催されたBUILD London 2026において、Semantic View Autopilotの一般提供開始を発表した。同製品はセマンティックビューの作成とガバナンスを自動化するAI駆動サービスで、セマンティックモデルの作成時間を数日から数分に短縮する。
dbt Labs、Google CloudのLooker、Sigma、ThoughtSpotとの統合をサポートする。eSentire、HiBob、Simon AI、VTSがすでに利用している。また、Snowflake NotebooksとSnowsightのCortex Codeの統合により、自然言語プロンプトでMLパイプラインを構築可能となった。
Online Feature StoreとOnline Model Inferenceも一般提供を開始し、ミリ秒単位での特徴提供と予測配信を実現する。
Cortex Agent Evaluationsは近日一般提供予定で、AIエージェントの動作を追跡可能にする。


【編集部解説】
今回のSnowflakeの発表は、エンタープライズAIの導入における長年の課題に正面から取り組むものです。特に注目すべきは「セマンティックレイヤー」の自動化という、地味ながら極めて重要な領域への挑戦でしょう。
セマンティックレイヤーとは、データベースの物理的な構造とビジネス上の概念を橋渡しする中間層のことです。例えば「売上」という言葉一つとっても、営業部門は契約ベース、経理部門は入金ベース、マーケティング部門はキャンペーン別と、組織ごとに異なる定義で使っています。AIエージェントがこうした曖昧さを抱えたまま動作すると、部門ごとに異なる数字を報告してしまい、信頼性が失われます。
これまで、この統一的な定義を作成・維持する作業は、データエンジニアが何日もかけて手動で行ってきました。Semantic View Autopilotは、既存のクエリやBIツールの使用パターンから学習し、この作業を数分に短縮します。「AIハルシネーション(誤情報生成)の最小化」という表現が使われているのは、まさにこの文脈です。正確な定義がなければ、AIは誤った前提で推論を進めてしまいます。
興味深いのは、Snowflakeが独自規格ではなくOpen Semantic Interchange(OSI)という業界標準に準拠している点です。dbt Labs、Google Cloud、Sigma、ThoughtSpotといった主要BIツールとの統合が発表されているのは、この標準化の成果と言えるでしょう。データエコシステム全体での相互運用性を重視する姿勢は、ベンダーロックインを懸念する企業にとって安心材料になります。
一方で、セマンティックビューの「自動生成」には慎重な検証が必要です。AIが既存のクエリパターンから学習するということは、過去の誤った使い方も学習する可能性があるためです。発表では「ガバナンス」という言葉が繰り返し登場していますが、自動化と人間による監督のバランスが実運用では問われるでしょう。
また、Online Feature StoreやOnline Model Inferenceといったリアルタイム機能の一般提供は、これまでバッチ処理中心だった企業のML運用を、ミリ秒単位のレスポンスが求められるリアルタイムアプリケーションへと拡張します。不正検出やパーソナライゼーションといったユースケースでは、この速度差が競争優位性に直結します。
Cortex Agent Evaluationsによる「AIエージェントの透明性と監査可能性」の追求も重要です。AIが自律的に判断を下す時代において、その思考プロセスをトレースできることは、規制対応や説明責任の観点から不可欠になっていくでしょう。
BUILD London 2026という開発者向けイベントでの発表タイミングも示唆的です。Snowflakeは、データウェアハウスベンダーからAIプラットフォーム企業への転換を加速させています。「Tech for Human Evolution」という私たちのコンセプトに照らせば、人間がデータの物理構造から解放され、ビジネス上の意味により集中できる環境を整えようとする試みと言えます。
【用語解説】
セマンティックレイヤー(Semantic Layer)
データベースの物理的な構造とビジネス上の意味を橋渡しする中間層のこと。同じ「売上」という言葉でも部門ごとに異なる定義で使われることがあるため、組織全体で統一された定義を提供する役割を担う。AIエージェントやBIツールが一貫した理解でデータを扱うための基盤となる。
AIハルシネーション(AI Hallucination)
AIが事実に基づかない情報を生成してしまう現象。正確な定義や文脈が与えられないまま推論を進めると、誤った前提で結論を導き出してしまう。セマンティックレイヤーの整備により、この問題を最小化できる。
BIツール(Business Intelligence Tool)
企業のデータを分析・可視化し、意思決定を支援するソフトウェア。ダッシュボードやレポート作成機能を持ち、非技術者でもデータから洞察を得られるようにする。Looker、Sigma、ThoughtSpotなどが代表例である。
MLパイプライン(Machine Learning Pipeline)
機械学習モデルの開発から本番環境への展開までの一連のワークフロー。データの前処理、モデルのトレーニング、評価、デプロイメント、モニタリングといった各工程を自動化・連携させることで、効率的なML運用を実現する。
【参考リンク】
Snowflake(公式サイト)(外部)
クラウドベースのデータプラットフォーム企業。AWS、Azure、Google Cloudで動作し、データウェアハウス、データレイク、AI開発を統合的に提供する。
dbt Labs(公式サイト)(外部)
データ変換ツール「dbt」の開発元。世界6万以上のデータチームが利用しており、データエンジニアリングとアナリティクスの標準ツールとして普及している。
Sigma Computing(公式サイト)(外部)
スプレッドシート風のインターフェースでクラウドデータウェアハウスを分析できるBIプラットフォーム。SQLの知識がなくてもデータ探索可能。
ThoughtSpot(公式サイト)(外部)
自然言語検索でデータ分析ができるBIプラットフォーム。2012年創業で、AIアナリスト「Spotter」を搭載し、エージェント型アナリティクスを提供。
Google Cloud Looker(公式情報)(外部)
Googleが提供するエンタープライズBIおよびアナリティクスプラットフォーム。データモデリング層を持ち、組織全体で一貫したメトリクスを共有可能。
Open Semantic Interchange(OSI仕様)(外部)
セマンティックモデルの相互運用性を実現するオープン標準仕様。Apache 2ライセンスで公開され、ベンダー中立の共通フォーマットを定義。
【参考記事】
Open Semantic Interchange (OSI) Specification Finalized – Snowflake Blog(外部)
2026年1月26日公開。OSI仕様の正式版がApache 2ライセンスで公開されたことを報告。ベンダー中立の拡張可能なモデルで、一貫した解釈を可能にする。
Snowflake、企業がデータとAIを試験段階から実運用により迅速に移行できるよう支援 – PR TIMES(外部)
2026年2月4日公開の日本語プレスリリース。Semantic View Autopilotを含む発表内容を包括的に紹介。ガバナンス、観測性、コストガバナンスについても詳述。
Is a Semantic Layer Necessary for Enterprise-Grade AI Agents? – Tellius Blog(外部)
2024年12月11日公開。エンタープライズグレードのAIエージェントにとってセマンティックレイヤーがなぜ必要かを解説。一貫したビジネスメトリクスの重要性を論じる。
How Semantic Layers Prepare Enterprises for AI Agents – AtScale Blog(外部)
2025年12月14日公開。セマンティックレイヤーが企業のAIエージェント導入準備にどう貢献するかを分析。データガバナンスと一貫性確保の技術的背景を説明。
【編集部後記】
皆さんの組織では、部門ごとに「売上」や「顧客数」の定義が微妙に違っていて、会議で数字が合わず困った経験はありませんか?
AIエージェントが本格的に業務に入り込む今、こうした「言葉の定義のズレ」は、人間同士の混乱だけでなく、AIの誤判断という新たなリスクを生み出します。今回のSnowflakeの発表は、その課題への一つの答えとも言えるでしょう。
一方で、AIに定義を任せることへの不安もあるはずです。皆さんは、データの「共通言語」をどこまで自動化すべきだと考えますか?完全な自動化と人間の監督、そのバランスについて、ぜひご意見をお聞かせください。






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