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OpenAI GPT-5が自律実験システムを実現、無細胞タンパク質合成のコストと収率を同時改善

[更新]2026年2月6日

OpenAI GPT-5が自律実験システムを実現、無細胞タンパク質合成のコストと収率を同時改善

AIが自ら仮説を立て、実験を設計し、結果から学んで次の実験を提案する──。OpenAIとGinkgo Bioworksが実現した「自律研究システム」は、人間が実験室で何ヶ月もかけて行う試行錯誤を、わずか6ヶ月で36,000回以上繰り返し、タンパク質生産コストを40%削減した。これは単なる効率化ではなく、科学研究そのもののあり方を変える歴史的な転換点だ。


2026年2月5日、OpenAIはGinkgo Bioworksと提携し、GPT-5をクラウドラボラトリーに接続して無細胞タンパク質合成(CFPS)の最適化を行ったと発表した。

6回のクローズドループ実験を通じて、システムは580枚の自動化プレート上で36,000以上の固有のCFPS反応組成をテストした。GPT-5はコンピューター、ウェブブラウザー、関連論文へのアクセスを提供された後、3回の実験ラウンドでタンパク質生産コストの40%削減と試薬コストの57%改善を達成し、新たな最先端を確立した。この成果はsfGFPという1つのタンパク質と1つのCFPSシステムで実証された。

GPT-5は実験バッチを設計し、ラボが実行し、結果がモデルにフィードバックされ、次のラウンドを提案するサイクルを繰り返した。先行研究であるOlsen et al. 2025の384ウェルプレートにおける基準と比較して、コスト削減を達成した。

From: 文献リンクGPT-5 lowers the cost of cell-free protein synthesis

OPENAI 公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

今回OpenAIが発表したのは、AIモデルが自律的に実験を設計・実行し、その結果から学習して次の実験を提案するという、真の意味での「自律研究システム」の実現例です。これまでAIは数学や物理学といった計算可能な領域で成果を上げてきましたが、物理的な実験を伴う生物学の領域では、実験の計画から実行、分析、次の仮説立案までのサイクル全体を自動化することが課題でした。

無細胞タンパク質合成(CFPS)は、生きた細胞を使わずにタンパク質を製造する技術です。医薬品の有効成分、診断試薬、産業用酵素など、現代のバイオテクノロジーの多くがタンパク質に依存しています。CFPSは迅速なプロトタイピングを可能にしますが、DNAテンプレート、細胞ライセート(細胞内の機械装置の混合物)、エネルギー源、塩類など、多数の相互作用する成分から構成されるため、最適化が極めて困難でした。

本システムの革新性は、GPT-5が単に実験を提案するだけでなく、Pydanticスキーマによる厳格な検証を通じて、ロボットラボで物理的に実行可能な実験のみを設計する点にあります。これにより、理論上は妥当でも実際には実行不可能な「ペーパー実験」を排除し、480枚以上のプレートのうち、根本的な設計欠陥があったのはわずか2枚という高い信頼性を実現しました。

特筆すべきは、GPT-5がインターネットアクセス、コンピューター、データ解析パッケージ、そして最新の研究論文(Olsen et al. 2025)へのアクセスを得た第3ラウンド以降、性能が飛躍的に向上した点です。モデルは既存の科学文献と実験データを統合し、人間が試していなかった低コストの反応組成を発見しました。さらに、緩衝液、エネルギー再生成分、ポリアミンといった、通常は最優先で調整されないパラメーターが、コストに対して大きな影響を持つことを明らかにしています。

コスト削減の内訳を見ると、タンパク質生産コストは$698/gから$422/gへと40%減少し、試薬コストだけで見れば57%の改善を達成しました。同時に、タンパク質収率も27%向上しており、コスト削減と性能向上を両立させた点が重要です。ただし、商業的なCFPSキット(例えばNEBExpressキットは約$800,000/g)と直接比較はできないものの、大幅なコスト優位性を示唆しています。

一方で、本研究の制約も明確です。結果はsfGFPという1種類のタンパク質と1つのCFPSシステムで実証されており、他のタンパク質やシステムへの一般化はまだ示されていません。実際、12種類のタンパク質パネルでテストした結果、6種類はSDS-PAGEで可視化できる十分な収率を示しましたが、すべてのタンパク質で成功したわけではありません。また、酸素濃度や反応形状がスケールによって大きく異なるため、条件への感受性を理解することが次の課題となります。

OpenAIはPreparedness Frameworkを通じてバイオセキュリティへの影響を評価・軽減することを明言しています。モデルがウェットラボでプロトコルを改善できる能力は、潜在的なデュアルユース(両用性)のリスクを伴います。自律研究システムの能力が向上するにつれ、適切なガードレールの構築が不可欠になります。

長期的な視点では、この成果は自律ラボが「通常科学」の領域を大きく拡張できることを示しています。研究者は実験の設計と実行から解放され、より困難で創造的な問題に集中できるようになるでしょう。モジュール式のラボオートメーションが普及し、推論モデルがさらに強力になれば、数年以内に自律実験が従来のラボワークに取って代わる可能性があります。

【用語解説】

クローズドループ実験
AIが実験を設計し、ロボットラボが実行し、その結果をAIにフィードバックして次の実験を提案するという循環的なプロセス。人間の介入を最小限に抑えながら、反復的に最適化を進める手法。

sfGFP(superfolder Green Fluorescent Protein)
緑色蛍光タンパク質の改良版で、折り畳み安定性が高く、タンパク質合成の評価に広く用いられる標準的なベンチマークタンパク質。蛍光測定により生産量を定量化できる。

Pydanticスキーマ
Pythonのデータ検証ライブラリで、AIが設計した実験が物理的に実行可能かどうかを検証するための構造化された仕様。プレートレイアウト、試薬の利用可能性、容量制約などをチェックする。

SDS-PAGE
タンパク質を分子量によって分離する電気泳動技術。生成されたタンパク質の存在と純度を視覚的に確認するための標準的な分析手法。

【参考リンク】

OpenAI(外部)
GPT-5などの大規模言語モデルを開発する人工知能研究企業。本研究では推論モデルGPT-5を提供した。

Ginkgo Bioworks(外部)
細胞プログラミングの水平統合プラットフォームを運営するバイオテクノロジー企業。RAC技術を提供。

OpenAI Preparedness Framework(外部)
AIシステムの潜在的なリスクを評価・軽減するためのフレームワーク。

論文: Using a GPT-5-driven autonomous lab to optimize the cost and titer of cell-free protein synthesis(外部)
本研究の詳細な手法、結果、データを記載した学術論文。

【参考記事】

GPT-5 Reduces Protein Synthesis Costs 40% in Autonomous Lab – AdwaitX(外部)
GPT-5が6回の実験で$698/gから$422/gへコスト削減した詳細な数値データを報じている。

Ginkgo Bioworks GPT-5 lab cuts protein costs 40% – DNA Stock News(外部)
Ginkgo Bioworksのプレスリリースをベースにした報道。商業的可能性にも言及。

Ginkgo Bioworks’ Autonomous Laboratory Driven by OpenAI’s GPT-5 – MarketScreener(外部)
580枚のプレート、36,000の反応組成、150,000データポイントを生成した詳細を報じている。

【編集部後記】

AIが自律的に仮説を立て、実験し、学習するサイクルを回せるようになった今、科学研究のあり方そのものが変わろうとしています。みなさんはこの変化をどう受け止めますか。

研究者が実験の設計と実行から解放され、より創造的な問いに集中できる未来は魅力的に映る一方で、科学の営みにおける人間の役割がどう再定義されるのか、私たちも関心を持って見守っています。この技術が医薬品開発や材料科学など他の領域にも広がったとき、どんな発見が待っているのでしょうか。一緒に考えていけたら嬉しいです。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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