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The Washington Post、編集部門の3分の1を解雇。AI検索がメディアを破壊する時代へ

The Washington Post、編集部門の3分の1を解雇。AI検索がメディアを破壊する時代へ

2026年2月4日、The Washington Postは編集部門の約3分の1に相当する300人以上のジャーナリストを解雇した。同紙は約800人のジャーナリストを雇用している。エグゼクティブ・エディターのマット・マレーはこの動きを「戦略的リセット」と呼んだ。

The Washington Postは2013年以来、Amazon創業者のジェフ・ベゾスが所有している。削減される部門にはスポーツ、書籍、日刊ポッドキャスト「Post Reports」が含まれ、メトロデスクは大幅に縮小される。

従業員を代表する労働組合Washington Post Guildは「編集部門を空洞化させれば、その信頼性、リーチ、将来に影響が出る」と批判した。元エグゼクティブ・エディターのマーティ・バロンはNPRを通じて「世界最高峰の報道機関の一つの歴史における最も暗い日の一つ」と声明を発表した。The Atlanticではアシュリー・パーカーがコラムを執筆し、2024年初頭に任命された発行人ウィル・ルイスとベゾスを批判した。

From: 文献リンクThe Washington Post Lays Off One Third of Its Newsroom

【編集部解説】

AI検索時代の到来が、150年の歴史を持つ報道機関を解体しています。

この解雇劇を単なるメディア企業の経営判断として片付けることはできません。エグゼクティブ・エディターのマット・マレーが社内メールで明言したように、オーガニック検索トラフィックは過去3年間で約半分に減少しました。その主因はGoogleのAI Overviewsをはじめとする生成AI検索の台頭です。

メディア業界全体で見ると、2024年5月から2025年5月の1年間で、検索後にどのリンクもクリックしない「ゼロクリック検索」の割合は56%から69%へと急増しました。ニュースサイト全体への月間訪問者数は23億から17億へと、わずか1年で6億以上(26%)が失われています。

The Washington Postの財務状況も深刻です。2024年に約1億ドルの損失を記録し、これは2023年の7700万ドルから30%の悪化でした。デジタル訪問者数は2020年11月の1億1400万人から2024年11月には5400万人へと半減しています。

注目すべきは、これが単なる一時的な変動ではなく、構造的な転換点であることです。Reuters Institute for the Study of Journalismの調査によれば、メディアリーダーたちは今後3年間でさらに43%の検索トラフィック減少を予測しています。

ベゾスの資産は約2600億ドル(世界第4位)で、理論上は年間1億ドルの損失を何十年も吸収できる財力を持っています。しかし彼が選んだのは、スポーツ・書籍部門の完全廃止、海外支局の大幅削減、メトロデスクの40人から12人への縮小、そして全フォトジャーナリストの解雇という、報道機関としての骨格を破壊する道でした。

2024年初頭に任命された発行人ウィル・ルイスが推進する「戦略的リセット」は、政治と国家安全保障に特化し、他の領域を切り捨てる方針です。しかし元エグゼクティブ・エディターのマーティ・バロンが指摘するように、この縮小戦略は購読者をさらに遠ざける「デススパイラル」を引き起こすリスクがあります。

実際、2024年の大統領選挙での候補者不支持決定後、約25万人が購読をキャンセルしました。この3年間で累計400人以上のスタッフが削減されており、今回の300人解雇で編集部門は2013年のベゾス買収時よりも小規模になります。

技術進化が人類の情報インフラを根本から変えつつある現在、私たちは、この問いと向き合わざるを得ません。AI検索は利便性を提供しますが、その代償として、調査報道や現地取材といった民主主義の基盤を支えてきたジャーナリズムの経済的持続可能性を破壊しつつあります。

The Washington Postの縮小は、テクノロジーによる人類の進化が、必ずしも全ての人類の営みにとって前進を意味しないことを示す象徴的な事例といえるでしょう。

【用語解説】

AI Overviews
Googleが2024年5月から本格展開した生成AI機能。検索結果ページの最上部に、複数のWebサイトから情報を統合したAI生成の要約を表示する。ユーザーは元のWebサイトにアクセスせずに回答を得られるため、メディアサイトへのトラフィックが大幅に減少している。

オーガニック検索トラフィック
検索エンジンの検索結果から広告を経由せずに直接Webサイトに流入する訪問者数。多くのメディアにとって最大の外部トラフィック源であり、通常は全体の20〜40%を占める。AI検索の台頭により2024年から2025年にかけて劇的に減少している。

ゼロクリック検索
検索エンジンで検索を行った後、どのWebサイトのリンクもクリックせずに検索結果ページ内で完結する検索行動。AI Overviewsの導入により、2024年5月の56%から2025年5月には69%へと急増した。

メトロデスク
新聞社において地元地域(首都圏や都市圏)のニュースを取材・編集する部門。The Washington Postの場合、ワシントンD.C.、メリーランド州、バージニア州を担当していた。今回の削減で40人から12人へと大幅縮小された。

エグゼクティブ・エディター
新聞社における編集部門の最高責任者。編集方針の決定、取材・報道の指揮、人事管理などを担当する。日本の「編集局長」に相当する職位。

【参考リンク】

The Washington Post(外部)
1877年創刊の米国日刊紙。ウォーターゲート事件の報道で知られ、数十のピューリッツァー賞を受賞。2013年以来ベゾスが所有。

Amazon(外部)
1994年創業の世界最大級Eコマース・クラウド企業。創業者ベゾスは2013年にThe Washington Postを個人で買収した。

Reuters Institute for the Study of Journalism(外部)
オックスフォード大学のジャーナリズム研究機関。世界のメディア動向調査を行い年次レポートを発表している。

【参考記事】

Washington Post lays off one-third of its newsroom(外部)
約800人のジャーナリストのうち約3分の1が解雇され、過去3年間で400人のスタッフが削減されたと報告。

2025 Organic Traffic Crisis: Zero-Click & AI Impact Report(外部)
2025年にGoogle検索の60%がゼロクリックとなり、メディアサイトのトラフィックが中央値で10%減少したと報告。

Global publisher Google traffic dropped by a third in 2025(外部)
2024年11月から2025年11月の1年間で、グローバルでオーガニック検索トラフィックが33%減少、米国では38%減少。

Bezos orders layoffs at ‘Washington Post’(外部)
発行人ルイスが2024年6月に「2年間で1億7700万ドルの損失」と述べたことを報告している。

Washington Post lost $100 million last year amid staff shakeups(外部)
2024年に約1億ドルの損失を記録し、デジタル訪問者数が2020年11月の1億1400万人から2024年11月の5400万人へ半減。

Google AI Overviews 2025: Top Cited Domains & Traffic Shifts(外部)
ニュースサイトへの月間訪問者数が2024年半ばの23億から2025年5月の17億未満へと、1年で6億以上減少したと分析。

The AI Search Reckoning Is Dismantling Open Web Traffic(外部)
Business Insiderが2022年4月から2025年4月の間にオーガニック検索トラフィックを55%失ったことなどを報告。

Washington Post announces sweeping layoffs amid financial distress(外部)
2024年初頭にベゾスがウィル・ルイスを発行人兼CEOに任命したこと、およびルイスの在任期間中の論争について報告。 

【編集部後記】

私たち自身の検索行動が、報道機関の未来を左右しているのかもしれません。AI検索で即座に回答を得る利便性と、調査報道を支える経済基盤の崩壊。このトレードオフについて、みなさんはどう感じますか。

便利さを享受しながら、同時に質の高いジャーナリズムを求めることは矛盾しているのでしょうか。あるいは、新しい時代にふさわしい情報インフラのあり方があるのでしょうか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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