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百度ERNIE 5.0、MAU2億人突破──AIが中国人海外旅行者の「検索」を「対話」に変える

[更新]2026年2月14日

AIアシスタントに話しかけるだけで、航空券の手配から現地の穴場スポットまで旅の全工程が組み上がる。月間2億人が使う中国発のAI旅行エコシステムが、世界の観光マーケティングの前提を塗り替えようとしています。


百度の公式海外販売パートナーであるChina Search Asiaは2026年1月28日、中国人海外旅行者向けのAI駆動型マーケティング戦略に関するレポートを公開した。百度は中国のインターネットユーザーの97.5%をカバーし、百度アプリのMAUは7億2400万人である。2026年1月、ERNIE 文心 5.0搭載のERNIEアシスタントがMAU2億人を突破し、LMArenaで世界第8位にランクインした。

百度の2025年ベンチマークによると、海外旅行者の72%が18〜44歳、94%が中〜高支出層、トラフィックの42%が一線都市および新一線都市から発生している。旅行前の検索行動は、旅行先調査が29%、旅程・観光スポットが24%、ビザ政策が21%である。2026年の新ツールとして、百度地図の予測型O2Oナビゲーション、マーチャントエージェント(商家智能体)、AI MAXが提供されている。

From: Byond the Baidu Search Bar: Navigating the 2026 AI-Driven Journey of Chinese Outbound Travelers

【編集部解説】

今回のレポートの発行元であるChina Search Asiaは、百度の公式海外販売パートナーです。内容はマーケティング資料としての性格が強く、百度エコシステムへの広告出稿を促す構成になっています。そのため、記事中の主要な数値とテクノロジーに関する主張を独自に検証しました。以下、読者のみなさまに知っておいていただきたい文脈を補足します。

2026年1月22日、百度はERNIE 文心 5.0を正式に発表しました。2.4兆パラメーターを持つオムニモーダル基盤モデルで、超スパースMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用し、推論時にはパラメーター全体の3%未満のみを活性化させる設計です。South China Morning Post(SCMP)1の報道によれば、LMArenaの2026年1月15日付ランキングでERNIE-5.0-0110はスコア1,460を獲得し、テキスト部門でグローバル8位、中国モデルとしては1位を記録しています。

ERNIEアシスタントのMAU2億人突破も、Wall Street Journalが2026年1月20日に報じており、複数の金融メディアが裏付けています。ただし、文脈として押さえておくべきは中国AI市場の激しい競争環境です。元記事ではこの点がほぼ触れられていません。Alibabaの通義千問(Tongyi Qianwen)はローンチからわずか2カ月でMAU1億人を突破し、ByteDanceの豆包(Doubao)もMAU1億人超を達成しています。さらに、百度は2025年にDeepSeekが引き起こした価格戦争の影響で、ERNIEの有料サブスクリプションモデルを撤廃せざるを得なかったという経緯もあります。

また、百度アプリのMAU「7億2400万人」という数値は、2025年第1四半期(3月時点)の決算発表に基づくものです。しかし、2025年第3四半期(9月時点)の決算では7億800万人に減少しています。元記事がピーク時の数値を採用している点には留意が必要でしょう。

技術面では、ベンチマーク性能と実際の使用感との間にギャップがあるとの指摘も出ています。技術メディアAiholaの報道では、初期ユーザーから「ツール呼び出しの不具合」や「指示追従性の問題」が報告されており、百度の開発者サポートも修正対応中であることを認めています。LMArenaでの高スコアが実用場面でそのまま再現されるかは、引き続き検証が求められます。

一方、中国人海外旅行市場そのものの成長は確かです。China Trading Deskの推計では、2025年の中国人越境旅行は約1億5500万回、2026年には1億6500万〜1億7500万回に拡大する見通しです。中国人の海外渡航数はすでにコロナ前の2019年水準を超えており、ビザ免除政策の拡大と人民元高がさらなる追い風となっています。

注目すべきポイントは、「検索行動の対話化」というパラダイムシフトです。旅行者が従来の検索ボックスではなくAIアシスタントとの対話を通じて旅程を組み立て、予約まで完結させるようになると、ブランドの可視性はSEOの順位ではなくAIのレコメンデーションロジックに依存することになります。これはGoogleのAI Overviewsが引き起こしているSEO変革と本質的に同じ構造であり、百度エコシステムでは一足先にそれが進行しているといえます。

百度地図のAI予測型プッシュ通知やマーチャントエージェント(商家智能体)といった新ツールは、旅行者の位置情報と行動履歴を組み合わせてリアルタイムに購買を誘導する仕組みです。マーケティングの精度向上という点では革新的ですが、行動予測に基づくプッシュ通知には、パーソナルデータの収集範囲やプライバシーの観点から慎重な議論が必要です。とりわけ日本市場においては、こうした中国発プラットフォームのデータ取り扱いに対する規制動向も注視すべきでしょう。

最後に、本レポートは百度エコシステムの優位性を強調する構成ですが、中国人旅行者の情報行動は急速に多様化しています。小紅書(Xiaohongshu/RED)がインスピレーションから共有までの旅行ジャーニー全体で影響力を拡大しており、抖音(Douyin)も旅行コンテンツの主要なプラットフォームとして成長を続けています。中国インバウンド戦略を検討する際は、百度だけでなくこれらのプラットフォームを含めた複合的なアプローチが不可欠です。

【用語解説】

ERNIE 文心 5.0(文心大模型5.0)
百度が開発した最新のオムニモーダル基盤モデル。2.4兆パラメーターを持ち、テキスト・画像・音声・動画を統合的に処理する。超スパースMixture-of-Experts(MoE)アーキテクチャを採用し、推論時にはパラメーター全体の3%未満のみを活性化させる設計である。2025年11月にプレビュー公開、2026年1月に正式リリースされた。

LMArena
旧称LMSYS Chatbot Arena。AIモデルの性能を、ユーザーによるブラインド対戦投票で評価するオープンなリーダーボードである。静的ベンチマークと異なり、実際の人間の選好を反映する点が特徴で、AIモデルの実力比較において業界標準の指標の一つとなっている。

MAU(Monthly Active Users)
月間アクティブユーザー数。1カ月間にサービスを1回以上利用したユニークユーザーの数を指す。アプリやプラットフォームの利用規模を測る代表的な指標である。

O2O(Online to Offline)
オンラインでの情報接触や広告をきっかけに、実店舗への来店や購買といったオフラインの行動につなげるマーケティング手法である。百度地図のプッシュ通知による来店誘導がその典型例にあたる。

POI(Point of Interest)
地図サービスにおいて、店舗・観光地・施設などユーザーにとって関心のある特定の地点を指す。百度地図は全世界1億8000万以上のPOIをカバーしている。

MoE(Mixture-of-Experts)
大規模言語モデルのアーキテクチャの一種。複数の専門的なサブネットワーク(エキスパート)を持ち、入力に応じて一部のエキスパートのみを活性化させることで、パラメーター総数を大きく保ちつつ推論コストを抑える手法である。

一線都市・新一線都市
中国の都市ランク分類。一線都市は北京・上海・広州・深圳の4都市を指す。新一線都市は成都・杭州・重慶・武漢など経済発展が著しい15都市前後を指し、消費力の高い市場として注目される。

小紅書(Xiaohongshu / RED)
中国発のライフスタイル系SNSプラットフォーム。写真・動画を中心とした口コミ投稿が特徴で、旅行・美容・ファッション分野で強い影響力を持つ。中国人旅行者の情報収集と旅行体験の共有において主要なプラットフォームの一つとなっている。

【参考リンク】

百度(Baidu, Inc.)(外部)
中国最大の検索エンジン運営企業。AI、クラウド、自動運転など幅広いAI関連事業を展開。NASDAQ: BIDU上場。

ERNIE Bot(文心一言)(外部)
百度が提供するERNIEモデル搭載のAIアシスタント。ERNIE 5.0を含む最新モデルを無料で体験できる公開プラットフォーム。

China Search Asia(中国搜索亜洲)(外部)
百度の公式海外販売パートナー。香港拠点で海外ブランド向けに百度エコシステム活用のマーケティングサービスを提供。

LMArena(旧LMSYS Chatbot Arena)(外部)
AIモデルをユーザーのブラインド投票で評価するオープンなリーダーボード。テキスト・ビジョン等の複数カテゴリで評価。

百度地図(Baidu Maps)(外部)
百度が提供する地図・ナビゲーションサービス。全世界1億8000万以上のPOIをカバーし、O2Oマーケティングにも活用。

【参考記事】

Baidu launches Ernie 5.0 as the firm’s AI assistant users reach 200 million a month(外部)
百度がERNIE 5.0を正式発表。2.4兆パラメーターのオムニモーダルモデルでMAU2億人突破を報道。(SCMP、2026年1月22日)

Baidu’s (BIDU) Ernie AI Assistant Tops 200M Users as China’s AI Race Heats Up(外部)
ERNIEのMAU2億人突破と、Alibaba通義千問など中国AI市場の競争環境を報道。(TipRanks、2026年1月20日)

China’s outbound travel set to soar by 10 million trips in 2026 – but halve in Japan(外部)
2026年の中国人越境旅行が1億6500万〜1億7500万回に拡大する見通しを報道。(SCMP、2026年1月11日)

Baidu’s AI bot Ernie surpasses 200M monthly active users(外部)
WSJ報道を引用しERNIEのMAU2億人突破を速報。中国テック大手間のAI競争激化を報道。(Seeking Alpha、2026年1月20日)

Baidu Announces First Quarter 2025 Results(外部)
百度の2025年Q1決算。百度アプリMAUが7億2400万人(前年同期比7%増)に達したことを開示。(百度IR、2025年5月21日)

Baidu ERNIE-5.0-0110 Officially Released, Ranking Second in Mathematical Ability Globally(外部)
ERNIE 5.0のベンチマーク性能と実使用の乖離、DeepSeekによる価格戦争の影響を詳報。(Aihola、2026年1月)

【編集部後記】

旅の計画を立てるとき、検索エンジンにキーワードを打ち込む代わりに、AIと会話しながら旅程が出来上がっていく。そんな体験が、中国ではすでに2億人規模で広がり始めています。

この変化は「検索」という行為そのものの再定義ともいえるかもしれません。AIが旅行者の意思決定に深く入り込むとき、私たちが目にする情報はどのように選ばれるのか。みなさんはどうお考えになりますか。ぜひご意見をお聞かせください。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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