Moonshot AIは2026年2月15日、オープンソースAIエージェントフレームワークOpenClawをkimi.comにネイティブ統合したクラウドサービス「Kimi Claw」を発表した。
Kimi Clawはブラウザ上で24時間365日稼働するAIエージェント環境を提供する。コミュニティ提供のスキルライブラリ「ClawHub」には5,000以上のスキルが収録されており、スキルの検索・呼び出し・連鎖が可能である。データワークフロー向けに40GBの専用クラウドストレージを備え、大規模データセットの保存に対応し、RAG用途にも利用できる設計である。
Yahoo Financeなどからリアルタイムデータを取得する「Pro-Grade Search」機能を搭載し、ハルシネーションの削減を図っている。既存のOpenClaw環境をkimi.comに接続できる「Bring Your Own Claw」(BYOC)機能や、Telegramなど外部メッセージングアプリへのブリッジ機能も提供しているという。
【編集部解説】
今回のKimi Claw発表を理解するには、その背景にあるOpenClawというプロジェクトの急速な台頭と、AIエージェント市場をめぐる米中の動きを押さえておく必要があります。
OpenClawは、オーストリアのソフトウェア開発者ペーター・シュタインベルガーが開発したオープンソースのAIエージェントフレームワークです。同氏はPDFツールキットPSPDFKitを13年間運営した経歴を持ち、OpenClawは2025年11月の公開後に急速に普及しました。もともと「Clawdbot」という名称でしたが、Anthropicから商標上の指摘を受けて「Moltbot」に改名し、最終的に「OpenClaw」となっています。ユーザーの代わりにカレンダー管理、メール整理、フライトのチェックインなど実際のタスクを自律的に実行できる点が支持を集め、GitHubで約20万スターを獲得しています。
注目すべきは、Kimi Clawの発表と同じ2026年2月15日に、シュタインベルガー本人がOpenAIへの参加を公表したことです。OpenAI CEOのサム・アルトマンは、シュタインベルガーが「次世代パーソナルエージェントの推進」を担うと表明しました。Meta CEOのマーク・ザッカーバーグがWhatsApp経由で直接接触するなど、複数の大手AI企業による激しい獲得競争があったことも報じられています。シュタインベルガー本人はブログで「大企業を作りたいのではなく、世界を変えたい」と記しており、OpenClawは独立した財団に移管され、オープンソースプロジェクトとして存続する方針です。
こうした中でのMoonshot AIによるKimi Clawのローンチは、OpenClawエコシステムの主導権をめぐる戦略的な動きと見ることができます。Moonshot AIはAlibaba主導で10億ドルの資金調達を実施した中国のAI企業で、2026年1月20日付の報道によれば評価額は約48億ドルに近づいたとされています。同社のKimi K2.5は1兆パラメータ規模のMoE(Mixture of Experts)モデルで、推論時にはその一部の専門家ネットワークが活性化される設計とされています。
技術的には、Kimi Clawの本質は「セルフホスト型のAIエージェントをブラウザで完結させる」という発想の転換にあります。従来、セルフホストで運用する場合は実行環境の構築や運用管理が必要になるのが一般的でした。Kimi Clawはこのセットアップの障壁を取り除き、クラウド上で容易にAIエージェントを展開できるようにしています。5,000以上のスキルライブラリは、セルフホスト運用と比べても大幅に拡充された形です。
一方で、利用に際しては慎重に検討すべき点もあります。Moonshot AIは中国の法律の下で運営されており、プライバシーポリシーでは、法的要件に基づいてユーザーデータを「規制当局、裁判所、法執行機関」と共有する可能性が明記されています。セキュリティ企業Harmonic Securityの調査では、企業従業員の約12人に1人が中国系AIツールを使用しており、Kimiの利用トラフィックはDeepSeekの約3.5倍に達しているとのデータもあります。
また、主要な外部セキュリティ認証やデータレジデンシー保証、エンタープライズ向け RBAC の公開情報は現時点では確認できません。ベータ版のアクセスはAllegrettoメンバー以上に限定されており、正式な料金体系も記事執筆時点では確認できません。
競合環境としては、米国にはY Combinator支援のEmergentが存在し、暗号化やサンドボックス実行環境など、エンタープライズ向けのセキュリティ機能を前面に打ち出しています。個人開発者の自動化用途ではデータ管轄権の問題が軽微でも、機密性の高い業務データを扱う企業にとっては、どのプラットフォームにデータを預けるかが重要な判断材料となります。
より広い視点で見ると、AIの競争軸はモデル性能そのものから、エージェントを構築・運用するためのエコシステムの充実度へと移りつつあります。Kimi Clawの登場は、オープンソースのエージェントフレームワークを軸にした「プラットフォーム囲い込み」が本格化した象徴的な出来事といえます。
【用語解説】
OpenClaw(オープンクロー)
オーストリアの開発者ペーター・シュタインベルガーが開発したオープンソースのAIエージェントフレームワーク。ユーザーのデバイス上で動作し、WhatsAppやTelegram、Slackなどのメッセージングアプリを通じてタスクを自律的に実行する。もともと「Clawdbot」、次いで「Moltbot」という名称だったが、商標上の理由などを経て現名称となった。
ClawHub(クローハブ)
OpenClawのスキルディレクトリ。コミュニティが開発した機能拡張(スキル)を検索・導入できるレジストリである。
RAG(検索拡張生成 / Retrieval-Augmented Generation)
大規模言語モデルが応答を生成する際に、外部のデータソースから関連情報を検索・取得し、それを文脈として組み込む手法。ハルシネーション(事実と異なる出力)の低減に有効とされる。
MoE(Mixture of Experts)
大規模言語モデルのアーキテクチャの一つ。総パラメータ数は巨大だが、推論時にはその一部(専門家ネットワーク)のみを活性化させることで、計算効率と性能を両立させる仕組みである。
BYOC(Bring Your Own Claw)
Kimi Clawが提供する機能で、ユーザーが自身で構築・運用しているOpenClaw環境をkimi.comに接続し、ローカルの設定を維持しながらクラウドインターフェースを利用できる仕組みである。
ハルシネーション
大規模言語モデルが、事実に基づかない情報をあたかも正しいかのように生成する現象。RAGやリアルタイムデータ取得はこの問題の軽減策として用いられる。
RBAC(ロールベースアクセス制御 / Role-Based Access Control)
ユーザーの役割(ロール)に応じてシステムへのアクセス権限を管理する仕組み。エンタープライズ向けプラットフォームでは標準的なセキュリティ要件とされる。
【参考リンク】
Moonshot AI 公式サイト(外部)
中国・北京拠点のAI企業。Kimiチャットボットおよび大規模言語モデルKimi K2シリーズを開発・提供している。
Kimi Open Platform(Moonshot AI 開発者プラットフォーム)(外部)
Kimi K2.5のAPI提供やOpenClawとの連携方法などの技術ドキュメントを公開する開発者向けプラットフォーム。
OpenClaw GitHub リポジトリ(外部)
OpenClawのソースコード・ドキュメント・インストール手順を公開。MITライセンス、GitHubスター数は約20万。
ClawHub GitHub リポジトリ(外部)
OpenClaw用スキルのディレクトリ。コミュニティが開発した機能拡張の登録・検索・導入が可能である。
OpenAI 公式サイト(外部)
OpenClaw開発者シュタインベルガーが2026年2月に参加したAI企業。ChatGPTやGPTシリーズを開発・提供。
【参考記事】
OpenClaw creator Peter Steinberger joins OpenAI(外部)
OpenClaw開発者のOpenAI入社を報じたTechCrunch記事。改名経緯やAnthropicの商標指摘、本人の発言を掲載。
OpenClaw creator Peter Steinberger joining OpenAI, Altman says(外部)
CNBCの報道。OpenClawの中国での普及状況やBaiduの統合計画、セキュリティ研究者の懸念を報じている。
A Year After DeepSeek Launch: 1 in 12 Employees Used China-Based AI Tools(外部)
Harmonic Securityの調査。企業従業員の中国系AIツール使用率やKimiのトラフィック、データ漏洩リスクを報告。
OpenClaw, OpenAI and the future | Peter Steinberger(外部)
シュタインベルガー本人のブログ。OpenAI参加の経緯、財団移管の方針、開発者としての動機を記している。
OpenAI hires OpenClaw founder Peter Steinberger in push toward autonomous agents(外部)
SiliconANGLEの分析記事。OpenAIのエージェント戦略とオープンソースとの均衡について見解を示している。
Kimi Claw: Moonshot AI’s AI Agent Platform Launch(外部)
Kimi Clawのエンタープライズ対応を分析。セキュリティ認証やRBACの欠如を指摘し、課題を評価している。
【編集部後記】
AIエージェントが「自分で動いてくれるアシスタント」として身近になりつつある今、その便利さの裏側にある「データをどこに預けるか」という問いは、私たち一人ひとりに関わるテーマではないでしょうか。
皆さんは、AIエージェントにどこまで任せたいですか?そして、その相手をどう選びますか?ぜひご意見をお聞かせください。






































