ByteDanceは2026年2月16日、AI動画生成ツールSeedance 2.0のセーフガードを強化すると表明した。同ツールはテキストプロンプトからリアルな動画を生成できるが、著作権保護されたキャラクターや有名人の肖像を含む動画がオンラインで拡散し、知的財産権の侵害が問題となった。
Netflix、Paramount Skydance、Sony、Universal、Warner Bros. Discovery、Disneyを代表するMotion Picture Association(MPA)は、ByteDanceに対し侵害行為の即時中止を要求する声明を発表。MPA会長兼CEOのチャールズ・リブキンは、Seedance 2.0が米国の著作権保護作品を大規模に無断使用したと述べた。Disneyは金曜日にByteDanceへ差し止め通告書を送付し、著作権キャラクターの海賊版ライブラリをあらかじめ組み込んでいると主張した。Paramount Skydanceも同様の差し止め通告書を送付した。
なお、DisneyはOpenAIとはライセンス契約を締結しており、Star Wars、Pixar、MarvelのキャラクターをSoraで使用することを許可している。
From:
ByteDance says it will add safeguards to Seedance 2.0 following Hollywood backlash
【編集部解説】
Seedance 2.0をめぐる今回の騒動は、AI動画生成技術と知的財産権保護の衝突が、いよいよ本格的な法的闘争の段階に入ったことを示しています。
この問題を理解するうえで重要なのは、2025年9月に起きたOpenAI「Sora 2」のケースとの比較です。Sora 2のリリース直後にも、ユーザーがハリウッド映画のキャラクターや日本のアニメキャラクターを大量に生成し、MPAが非難声明を出す事態となりました。OpenAIは当初「オプトアウト方式」(権利者が個別に除外を申請する仕組み)を採用していましたが、わずか約3日で「オプトイン方式」(権利者の事前同意が必要)への方針転換を余儀なくされています。
注目すべきは、その後のDisneyの動きです。2025年12月、DisneyはOpenAIと3年間のライセンス契約を締結し、10億ドルの出資も行いました。この契約により、Soraでは200体以上のDisney、Marvel、Pixar、Star Warsキャラクターが公式に使用可能となっています。ただし、俳優の肖像や声は対象外であり、使用範囲はアニメーション・マスク・クリーチャーキャラクターに限定されています。両社は共同運営委員会を設置し、ブランドガイドラインに反するコンテンツを監視する体制も構築しました。
つまり、DisneyがByteDanceに差し止め通告を送りながら、OpenAIとは大型契約を結んでいるという構図は、「AI技術そのものへの反対」ではなく、「正当なライセンスと対価に基づくパートナーシップか、無断使用かの線引き」が本質的な争点であることを物語っています。
Seedance 2.0の技術的な特徴にも目を向ける必要があります。ByteDanceの公式発表によれば、同モデルはテキスト・画像・音声・動画の4つの入力モダリティに対応し、マルチショットの連続シーケンス生成、ネイティブ音声同期、最大60fpsでの出力に対応しています。映像のリアリズムとキャラクターの一貫性において、前バージョンから大幅に進化したとされます。
こうした性能の高さゆえに、生成されたコンテンツとオリジナルの著作物の区別がつきにくくなっている点こそが、権利者にとっての根本的な脅威となっています。Paramount Skydanceの差し止め通告書は、AI生成コンテンツが同社の著作物と「視覚的にも聴覚的にもほぼ区別がつかない」と明記しました。
日本への影響も見逃せません。小野田紀美AI戦略担当相は2月13日の記者会見で、「著作権者の許諾がなく、既存の著作物が活用される状況であれば看過できない」と述べ、関係省庁と連携した実態調査に着手する方針を示しました。SNS上では「ウルトラマン」「名探偵コナン」などの日本のキャラクターを用いたAI生成動画が多数確認されています。日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)もTikTok Japanに問い合わせを行い、「速やかに対応を進めている」との回答を得たと発表しています。
2025年10月のSora 2のときにも、講談社やKADOKAWAなど出版社17社と日本漫画家協会、日本動画協会が共同声明を発表し、日本政府もOpenAIに著作権侵害行為を行わないよう要請した経緯があります。わずか4か月で同種の問題が繰り返されている現実は、現行の対応策だけでは不十分であることを示唆しています。
この問題の背景には、構造的な課題があります。日本の著作権法には「属地主義」の原則があり、海外サーバーで運用されるAIサービスに対する法的執行力には限界があります。ハリウッドのスタジオが数日で差し止め通告を送付したのに対し、日本の権利者の対応は相対的に時間を要する傾向があり、グローバルなAI開発競争のなかで日本のIPが標的になりやすい構造的リスクが浮かび上がっています。
長期的には、AI動画生成市場は「無断使用」と「ライセンス型」の二つのモデルが併存する過渡期を経て、Disney-OpenAI型のライセンスフレームワークが業界標準となっていく可能性が高いと考えられます。しかし、その過程でByteDanceのような中国企業がハリウッドや日本のIP権利者と同等のライセンス交渉に応じるかどうかは、依然として不透明な部分が残ります。
【用語解説】
差し止め通告(Cease-and-Desist)
権利者が侵害行為の即時停止を求めて送付する法的警告書。訴訟の前段階として用いられ、相手方に任意の対応を促すもの。法的拘束力はないが、無視した場合は訴訟に発展する根拠となる。
オプトアウト方式 / オプトイン方式
オプトアウトは「権利者が個別に除外を申請しない限り使用を許可する」仕組み。オプトインは「権利者の事前同意がなければ使用できない」仕組み。2025年のSora 2リリース時、OpenAIはオプトアウトからオプトインへの転換を余儀なくされた。
属地主義
著作権法が原則としてその国の領域内でのみ効力を持つという法原則。海外サーバーで運用されるAIサービスに対し、日本の著作権法を直接適用することが困難になる構造的課題を生む。
テキストプロンプト
AI動画生成ツールに対してユーザーが入力するテキスト形式の指示文。この指示に基づいてAIが映像を生成する。
【参考リンク】
Seedance 2.0公式ページ(ByteDance Seed)(外部)
ByteDanceのAI研究チームによる公式サイト。技術仕様やベンチマーク結果を掲載している。
Motion Picture Association(MPA)(外部)
Disney、Netflix、Paramountなどハリウッド主要スタジオを代表する業界団体の公式サイト。
SAG-AFTRA(外部)
全米映画俳優組合の公式サイト。AI技術による肖像権・声の無断使用問題にも積極的に取り組んでいる。
Disney・OpenAI Soraライセンス契約に関する公式発表(外部)
2025年12月発表の3年間ライセンス契約の詳細。200体以上のキャラクター使用許諾と10億ドル出資を記載。
日本アニメフィルム文化連盟(NAFCA)(外部)
アニメ業界の持続的発展を目的とする業界団体。Seedance 2.0問題でTikTok Japanへの問い合わせを実施。
【参考記事】
The Walt Disney Company and OpenAI Reach Agreement to Bring Disney Characters to Sora(外部)
Disney-OpenAI間の3年ライセンス契約・10億ドル出資・200体以上のキャラクター使用許諾の公式発表。
Paramount Sends ByteDance Seedance AI Cease-and-Desist Letters(外部)
Paramount Skydanceの差し止め通告書の詳細。侵害対象作品名とAI生成物の精度に関する主張を報道。
After AI Video of ‘Tom Cruise’ Fighting ‘Brad Pitt’ Goes Viral, MPA Denounces Seedance 2.0(外部)
MPAによるSeedance 2.0非難声明の初報。バイラル動画の拡散経緯とクリエイターの反応を掲載。
コナンやウルトラマンがAI動画に――小野田大臣「実態把握急ぐ」(外部)
小野田紀美AI戦略担当相の記者会見詳細。Sora 2問題との連続性についても報じている。
Sora, Not Sorry: OpenAI Backtracks on Opt-Out Copyright Policy(外部)
2025年10月Sora 2リリース時の著作権問題を分析。約3日でのオプトイン転換の背景を詳述。
Hollywood isn’t happy about the new Seedance 2.0 video generator(外部)
TechCrunchによる包括的報道。Disney・MPA・SAG-AFTRAの各声明と業界への影響を網羅。
【編集部後記】
AI動画生成の品質が驚異的な速度で向上するなか、「技術の進歩」と「創作者の権利保護」をどう両立させるかという問いが、私たちの目の前に突きつけられています。
DisneyがOpenAIとはライセンス契約を結び、ByteDanceには差し止め通告を送ったという事実は、この問題の答えが「AI反対か賛成か」という単純な二項対立ではないことを示しているように思えます。みなさんは、AIと創作の未来にどんな共存の形を思い描きますか?






































