OpenAIのサム・アルトマンは2026年2月19日、インド・ニューデリーで開催されたIndia AI Impact Summit 2026の基調講演に登壇し、AIの国際的な規制の必要性を強く訴えました。アルトマンはIAEA(国際原子力機関)をモデルとした国際的な監視・調整機関の設立を提唱し、「AIの民主化こそが人類の繁栄を確保する最善の方法である」と述べる一方、「この技術が一企業や一国に集中すれば、破滅を招きかねない」と警告しました。
インド市場に関しては、ChatGPTの週間アクティブユーザーが1億人に達し、その3分の1以上が学生であることを明らかにしました。インドはOpenAIにとって世界で最も急成長している市場であり、コーディングエージェント「Codex」においても最速の成長を記録しています。また、「OpenAI for India」構想を発表し、Tata Groupとの提携によるデータセンターインフラの構築、ChatGPT Eduの10万件以上のライセンス提供など、インド市場への本格的な投資計画を打ち出しました。
アルトマンは超知能(スーパーインテリジェンス)の出現時期についても踏み込んだ予測を示し、現在の軌道が続けば2028年末までにデータセンター内の知的能力が人間の知的能力を上回る可能性があると述べました。AIによる雇用への影響を認めつつも、「テクノロジーは常に雇用を破壊するが、我々は常に新しく、よりよいことを見つけてきた」と楽観的な見方も示しています。
From:
Sam Altman, At Delhi Summit, Shares One Thing He Agrees With Others On AI
【編集部解説】
今回のサミットは、2023年の英国ブレッチリーパーク、2024年の韓国ソウル、2025年のフランス・パリに続く、第4回目のグローバルAIサミットです。グローバルサウスの国がホスト国を務めるのは初めてであり、110か国以上、約20名の首脳級リーダーが参加した過去最大規模の開催となりました。
注目すべきは、サミット名称の変遷が示す力点の移り行きです。第1回は「AI Safety Summit」、第2回は「AI Seoul Summit」、第3回は「AI Action Summit」、そして今回は「AI Impact Summit」と、安全性の議論から実装と社会的インパクトへの軸足移動が読み取れます。
そうした文脈の中で、アルトマンがAI規制の緊急性に言及し、IAEAをモデルとした国際監視機関の必要性を訴えたことは、単なるリップサービスではないでしょう。同サミットでは、カリフォルニア大学バークレー校のスチュアート・ラッセル教授が「主要なAI企業のCEOたちはほぼ全員が人類への巨大なリスクを認めている」と証言し、Anthropicのダリオ・アモデイについては唯一公にそれを認めた人物だと名指ししています。規制を求める声が業界内部から上がっている点は、見過ごせません。
ただし、アルトマンの発言には戦略的な二面性が存在します。同じ講演の中で彼は、2028年末までにデータセンター内の知的能力が人間の知的能力を上回る可能性があるという予測を示し、超知能(スーパーインテリジェンス)の初期バージョンが数年以内に出現しうるとも述べました。Fortune誌によれば、MicrosoftのAI責任者ムスタファ・スレイマンも「ホワイトカラーの業務が完全に自動化されるまであと1年から1年半」と述べており、業界全体が急速な変化を前提としたメッセージを発信し始めています。
アルトマンがIAEA型の国際機関を提案した背景には、国家レベルの規制だけでは対応しきれないという認識があります。核エネルギーの国際管理と同様、AIもまた国境を越えて影響を及ぼす技術だからです。一方で、規制の枠組みが各国バラバラに策定されれば、技術革新が停滞するリスクもあり、業界側には統一的な国際ルールのもとで競争環境を維持したいという思惑も透けて見えます。
インド市場に関する発表も、戦略的に重要な意味を持ちます。OpenAIはTata Groupと提携し、TCSのデータセンター事業「HyperVault」の初の顧客として100メガワットの容量を確保、将来的には1ギガワットへの拡張を目指しています。TechCrunchの報道によれば、この取り組みはOpenAIのグローバルインフラ構想「Stargate」の一環であり、Stargateは総額5,000億ドル規模の複数年にわたるデータセンター建設計画とされています。また、TCSの数十万人の従業員にChatGPT Enterpriseを展開し、10万件以上のChatGPT Eduライセンスをインドの教育機関に提供する計画も含まれます。
こうした動きは、AI覇権をめぐるインフラ競争が新たな局面に入ったことを意味します。Google、Amazon、Meta、Microsoftに加え、インド国内のRelianceやAdani Groupもデータセンター投資を拡大しており、インドはAIインフラの新たな集積地として急速に浮上しつつあります。
日本の読者にとって、この動向は対岸の火事ではありません。AI規制の国際的な枠組みがどのような形で合意されるかは、日本企業のAI開発・導入戦略に直結します。また、インドが14億人という巨大市場とITエンジニアの層の厚さを背景にAIインフラの一大拠点となれば、グローバルなAI開発の重心がさらにアジアへ移行する可能性も考えられます。
【用語解説】
IAEA(国際原子力機関)
核エネルギーの平和利用促進と軍事転用の防止を目的とする国連の関連機関。1957年設立。アルトマンはAIの国際的な監視・調整においてIAEAをモデルとした機関の必要性を提唱した。
Stargate
OpenAIが推進するグローバル規模のAIインフラ構築構想。複数の主要投資家が支援する総額5,000億ドル規模の複数年プロジェクトで、AI訓練・推論用のデータセンター建設を目的とする。
HyperVault
Tata Consultancy Services(TCS)が展開するAI対応データセンター事業。2025年11月にプライベートエクイティのTPGから出資を受けて立ち上げられた。OpenAIが最初の顧客となる。
Codex
OpenAIが提供するAIコーディングエージェント。ソフトウェア開発の高速化・効率化を支援するツールで、インドは同サービスにおいて世界最速の成長市場であるとされる。
ChatGPT Enterprise
OpenAIの法人向けChatGPTサービス。企業のセキュリティ・コンプライアンス要件に対応した環境でAI機能を利用できる。Tata Groupは数十万人の従業員への展開を計画している。
ChatGPT Edu
OpenAIの教育機関向けChatGPTサービス。インドではIIT Delhi、IIM Ahmedabad、AIIMSなどに10万件以上のライセンスが提供される計画である。
超知能(スーパーインテリジェンス)
人間のあらゆる認知能力を大幅に上回るAIの仮説的な発達段階。アルトマンは現在の軌道が続けば2028年末までに初期バージョンが出現しうると予測した。
グローバルサウス
主にアジア、アフリカ、中南米の新興国・途上国を指す概念。今回のサミットは、このシリーズで初めてグローバルサウスの国が開催したことに意義がある。
データレジデンシー
データが物理的に特定の国・地域内に保存・処理されることを要求する規制上の概念。政府や規制産業のワークロードにおいて重要視される。
【参考リンク】
Introducing OpenAI for India — OpenAI公式ブログ(外部)
India AI Impact Summit 2026で発表された「OpenAI for India」構想の公式発表ページ。Tata Groupとの提携やインド向け施策の全容を掲載。
India AI Impact Summit 2026 公式サイト(外部)
インド電子情報技術省のIndiaAI Missionが主催する第4回グローバルAIサミットの公式ページ。プログラムや参加者情報を掲載。
Tata Consultancy Services(TCS)公式サイト(外部)
インド最大のITサービス企業。OpenAIのHyperVaultデータセンター事業の最初の顧客として100メガワットの容量を提供。
OpenAI 公式サイト(外部)
ChatGPT、Codexなどを開発するAI研究・開発企業。インドに週間1億人のアクティブユーザーを持つ。
Anthropic 公式サイト(外部)
AIの安全性研究に注力し対話型AI「Claude」を開発する企業。India AI Impact Summit 2026ではダリオ・アモデイが講演した。
【参考記事】
OpenAI taps Tata for 100MW AI data center capacity in India, eyes 1GW — TechCrunch(外部)
OpenAIがTCSのHyperVault事業の初の顧客に。Stargate構想の一環で100メガワットを確保、将来的に1ギガワットへ拡張を目指す。
India’s Tata signs up OpenAI as customer for data centre business — Reuters(外部)
Stargateを5,000億ドル規模の複数年構想と報道。TCSが最大70億ドルを投じた1ギガワットのデータセンター事業の経緯にも言及。
Sam Altman says not even the CEO’s job is safe from AI — Fortune(外部)
アルトマンの「2028年末までに知的能力が人間を上回る」予測を詳報。スレイマンの「自動化まで1年から1年半」発言も紹介。
Sam Altman and Dario Amodei avoid holding hands at India AI summit — CNBC(外部)
サミットでのアルトマンとアモデイの確執エピソードを報道。ChatGPTへの広告導入をめぐるAnthropicとの対立を詳述。
【編集部後記】
AIの規制と民主化。この二つのバランスをどう取るべきか、明確な答えはまだ誰も持っていません。「IAEAのような国際機関が必要だ」という提案に対して、みなさんはどのような印象を持たれたでしょうか。
核エネルギーとの類比は適切なのか、それとも技術の性質が根本的に異なるのか。こうした問いを一緒に考えていけたら嬉しいです。みなさんの視点や考えを、ぜひSNSなどで聞かせてください。







































