2026年2月19日、ニューデリーのバーラト・マンダパムでIndia AI Impact Summit 2026の開幕式が行われた。テーマは「Sarvajan Hitaya, Sarvajan Sukhaya(すべての人の福祉、すべての人の幸福)」である。
本サミットはAIに関する国際会議の第4回目にあたり、2023年の英国、2024年の韓国、2025年のフランスに続く開催となる。6日間の会期中、20か国以上の首脳と約100人のCEO・創業者を含む500人超のAIリーダーが参加した。ナレンドラ・モディ首相、エマニュエル・マクロン仏大統領が出席し、OpenAIのサム・アルトマン、Anthropicのダリオ・アモデイ、Google DeepMindのデミス・ハサビス、Adobeのシャンタヌ・ナラヤン、Wiproのリシャド・プレムジらが登壇した。
アシュウィニー・ヴァイシュナウIT大臣は今後2年間で2000億ドル超の投資を見込むと発言した。Googleのサンダー・ピチャイは150億ドル規模のAIインフラ投資の一環として海底ケーブル敷設を約束した。
From:
PM Modi, Macron, Sundar Pichai, Top Tech Bosses At India AI Impact Summit
【編集部解説】
今回のIndia AI Impact Summit 2026は、2023年の英ブレッチリー・パーク、2024年のソウル、2025年のパリに続くAIサミットの第4回目であり、グローバルサウスで初めて開催された点に大きな意味があります。
注目すべきは、サミットの名称に見られる路線の変化です。第1回は「Safety(安全性)」、第2回はソウルで「安全かつ革新的で包摂的なAI」、第3回は「Action(行動)」、そして今回は「Impact(影響)」と銘打たれました。法律事務所Crowell & Moringが指摘するように、AIの安全性やガバナンスに重心を置いた議論から、実装と成果の測定へと焦点が移行しつつあります。
今回のサミットでは、インド国内外の企業から巨額の投資コミットメントが相次ぎました。Reliance Industriesのムケシュ・アンバニ会長が7年間で約1098億ドルのAIインフラ投資を表明し、Adani Groupは2035年までに再生可能エネルギーで稼働するAIデータセンターに1000億ドルを投じると発表しています。Microsoftは2030年までにグローバルサウス全体に500億ドルを投資する方針を示しました。これらを合算すると、サミット期間中に発表された投資総額は3600億ドルを超えるとの報道もあります。
海外AI企業のインド進出も加速しています。OpenAIはTata Groupと提携し、100メガワットのAIデータセンター容量をインドで展開する計画を発表しました。これはOpenAIのStargate構想の一環とされています。Anthropicはベンガルールに初のインドオフィスを開設し、Infosysとの提携によりインド企業へのClaude導入を進めると発表しました。両社ともインドを米国に次ぐ第2位のユーザー市場と位置付けています。
一方、サミットにはいくつかの批判的な視点も存在します。TechPolicy.Pressは、CEOラウンドテーブルとリーダーズ・プレナリーの構造が「多国籍企業に主権国家と同等の地位」を与えている一方、市民社会や労働者の代表に同等の発言機会が提供されていないと指摘しました。また、米国代表団が「協力」ではなく「支配」を前提にサミットに臨んだとの報道もあり、ホワイトハウスのマイケル・クラッツィオス氏は「AIのグローバルガバナンスを完全に拒否する」と明言しています。
サミットの成果文書として「デリー宣言」が採択される見通しで、少なくとも75か国が署名するとヴァイシュナウIT大臣は述べています。ただし、これは法的拘束力のない自主的な枠組みにとどまります。ブレッチリー宣言、ソウル宣言と同様に、実効性をどう確保するかは引き続き課題として残ります。
インドにとってこのサミットは、14億人の巨大市場と豊富なIT人材を武器に、AIの「開発拠点」としての地位を国際社会にアピールする場でもありました。モディ首相が掲げた「Design and develop in India. Deliver to the world.」というスローガンは、その意思を端的に表現しています。しかしThe New York Timesが指摘するように、インドにはAI人材は豊富ですが、それを統率するフロンティアAI企業はまだ少ないという構造的課題も残されています。
日本の読者にとって、このサミットが示す最大のメッセージは、AIインフラ投資の地政学的な重心が急速にインドへ移りつつあるという事実でしょう。インドが「グローバルサウスのAIハブ」として台頭することは、日本企業にとってパートナーシップの新たな機会であると同時に、アジアにおけるAI覇権の構図を大きく変える可能性を秘めています。
【用語解説】
グローバルサウス(Global South)
主に南半球に位置する新興国・途上国の総称。経済的・政治的に先進国(グローバルノース)と対比される文脈で使われる。今回のサミットはこのグローバルサウスで初めて開催されたAIサミットである。
デリー宣言(Delhi Declaration)
India AI Impact Summit 2026の成果文書として採択される非拘束型の国際宣言。AI開発に関する共通目標を示すもので、少なくとも75か国が署名する見通しである。過去のブレッチリー宣言、ソウル宣言と同様に法的拘束力は持たない。
Stargate
OpenAIが主導する最大5000億ドル規模のAIデータセンター建設構想。世界各地にAIインフラを展開する民間資金による大規模プロジェクトである。今回のTata Groupとの提携はこの構想の一環とされる。
Pax Silica
米国が主導するAIおよび半導体サプライチェーンの安全保障に関する国際イニシアチブ。サミット期間中にインドが正式に参加を表明し、経済安全保障における同盟国間の協力強化を目指す枠組みである。
バーラト・マンダパム(Bharat Mandapam)
ニューデリーにあるインド最大級の国際会議施設。2023年のG20サミットも同会場で開催された。
【参考リンク】
India AI Impact Summit 2026 公式サイト(外部)
インド政府運営のサミット公式ページ。プログラム詳細、登壇者一覧、ライブ配信リンクを掲載している。
OpenAI 公式サイト(外部)
ChatGPTを開発・運営するAI企業。サミットではTata Groupとの提携やインド新拠点の開設を発表した。
Anthropic 公式サイト(外部)
AI安全性研究を重視する企業。サミット期間中にベンガルールへの初のインドオフィス開設を発表した。
Google DeepMind 公式サイト(外部)
Googleが運営するAI研究部門。デミス・ハサビスがCEOを務め、科学分野での応用研究で知られる。
Reliance Industries 公式サイト(外部)
インド最大級のコングロマリット。7年間で約1098億ドルのAIインフラ投資計画を発表した。
Adani Group 公式サイト(外部)
インド大手複合企業。2035年までに再生可能エネルギー駆動のAIデータセンターに1000億ドルを投資する計画を表明。
TechPolicy.Press(外部)
テクノロジーと民主主義の交差点に焦点を当てる独立系メディア。サミットの構造的課題を批判的に分析している。
【参考動画】
IndiaAI 公式YouTubeチャンネル(外部)
サミット全セッションのライブ配信およびアーカイブを公開しているインド政府公式チャンネルである。
【参考記事】
All the important news from the ongoing India AI Impact Summit(外部)
TechCrunchによるサミット総合まとめ。OpenAIとTata Groupの提携、Anthropicのベンガルール進出、各社の投資額を網羅的に報じている。
Microsoft, TCS, Reliance, Adani, Yotta and others commit over $360 billion to India at AI Impact Summit 2026(外部)
サミット期間中の投資コミットメント総額が3600億ドル超に達したと報道。各社の個別投資額を詳細に確認できる。
World Leaders Near Declaration on AI, Indian Government Says(外部)
TIME誌によるサミットの政治分析。デリー宣言の署名見通し、米国のグローバルAIガバナンス拒否姿勢、中国の不在を詳報している。
Reliance unveils $110B AI investment plan as India ramps up tech ambitions(外部)
Reliance Industriesの約1098億ドルAI投資計画の詳細。ジャムナガルのデータセンター建設などを報じている。
Big Tech announces multibillion-dollar deals at India’s AI summit(外部)
SiliconRepublicによる各社投資発表のまとめ。Stargate構想との関連やL&TとNvidiaの協業などを横断的にカバーしている。
【関連記事】
パリAIサミット2025:マクロン大統領が示す欧州型AI戦略、原子力で実現するグリーンAI開発
第3回にあたるパリAI Action Summit(2025年2月)の記事。マクロン大統領の欧州型AI戦略、原子力によるグリーンAI、米欧の方針対立などを取り上げている。「安全性」(ブレッチリー)→「行動」(パリ)→「インパクト」(デリー)というサミットの進化を辿る際の参考に。
【編集部後記】
AIをめぐる国際的な議論の軸足が「安全性」から「実装と影響」へと移り、その舞台がグローバルサウスへ広がっています。
数千億ドル規模の投資が飛び交うなか、日本はこの地殻変動のなかでどんな立ち位置を取りうるのか。みなさんはどうお感じになりましたか?ぜひSNSなどで考えを聞かせていただけるとうれしいです。







































