1890年創業のオフィス家具大手イトーキが、全社4,000名体制で”AI経営”への転換を宣言しました。年間3万枚の設計データと160社超の導入実績を武器に、オフィス空間をリアルタイムで最適化する3つのAIエージェントを年内に投入します。
株式会社イトーキ(本社:東京都中央区、代表取締役社長:湊 宏司)は2026年2月20日、3つのAIエージェント群で構成されるOffice 3.0の新ソリューション「ITOKI OFFICE AI AGENTS」を発表した。年内より順次提供を開始する。
同社は全社約4,000名でAIを経営の中核に据える”AI経営”への転換に取り組む。本ソリューションは、160社超のデータドリブンなオフィス構築・運用実績、年間約3万枚の設計データ、ファシリティマネジメントの知見を基盤に開発された。
構成する3つのAIは、拠点再編をシミュレーションする「Facility Portfolio AI」、非構造データを含む多様な情報からオフィスの課題を構造的に抽出しROI試算まで行う「Workplace Insight AI」、空きスペースをリアルタイムで判定し利用者に即時案内する「Space Matching AI」である。開発段階で30件超のPoCを実施している。
【編集部解説】
今回の発表で注目すべきは、1890年創業のオフィス家具メーカーが「AI経営」への全社的転換を宣言した点です。イトーキは単にAIツールを提供するのではなく、全社約4,000名の体制でAIを経営の中核に据えるという、事業構造そのものの変革に踏み込んでいます。
この動きの背景には、オフィスの位置づけ自体が大きく変わりつつあるという現実があります。ハイブリッドワークの定着により、OfficeSpace Softwareが2026年2月に公表したBuilt World Market Reportによれば、多くのオフィスが日々の潜在稼働率の半分以下で運用されているとされ、「作ったら終わり」のオフィスから、データに基づいて継続的に最適化する経営資源へとパラダイムが移行しています。不動産コストは人件費に次ぐ企業の大きな支出項目であり、その費用対効果を定量的に示す手段へのニーズは高まる一方です。
技術的に興味深いのは、3つのAIエージェントがそれぞれ異なるレイヤーの課題をカバーしている点です。Facility Portfolio AIは経営層向けの拠点戦略シミュレーション、Workplace Insight AIは総務・管理部門向けの課題抽出とROI試算、Space Matching AIは現場の従業員向けのリアルタイム空間マッチングを担います。TECH+の報道によれば、Facility Portfolio AIとWorkplace Insight AIは2026年7〜9月、Space Matching AIは同年10〜12月に提供開始予定で、いずれもWebアプリとして提供されます。また、Space Matching AIには人の有無をセンシングして予約を自動開放する専用デバイス「Table Box」も用意されており、ソフトウェアとハードウェアの両面からアプローチしている点が特徴的です。
グローバルな文脈で見ると、2026年はAIエージェント元年ともいえる状況にあります。OpenAIが企業向けエージェントプラットフォーム「Frontier」を発表し、Microsoftも「Agent Factory」構想を打ち出すなど、AIエージェントを業務の中核に組み込む動きが加速しています。米国NISTも2026年2月に「AI Agent Standards Initiative」を立ち上げ、自律的に行動するAIエージェントの標準化に乗り出しました。イトーキの発表は、このグローバルトレンドの中で日本のオフィス・ファシリティ領域から具体的なプロダクトとして打ち出された事例として位置づけられます。
一方で、留意すべきリスクもあります。Gartnerは2027年までにアジェンティックAIプロジェクトの40%以上が頓挫すると予測しており、その原因はモデルの性能ではなく、セキュリティ、権限管理、監査証跡、既存システムとの統合といった運用面の課題にあるとしています。オフィスの利用データには従業員の行動パターンや位置情報といったセンシティブな情報が含まれるため、プライバシー保護とデータガバナンスの設計が導入企業にとって重要な検討事項となるでしょう。
イトーキが強調する「社内と社外の循環モデル」、つまり自社で検証した知見を顧客サービスに反映し、その成果を再び自社に還元するというアプローチは、30件超のPoCを経て構築されたものであり、単なるコンセプトの提示にとどまっていない点は評価に値します。同社の約100名規模のITエンジニア体制と、年間約3万枚の設計データという独自の資産がどこまで差別化要因として機能するかが、今後の注目点となります。
【用語解説】
AIエージェント
特定の目標に対し、人間の逐次指示なしに自律的にタスクを計画・実行するAIシステムのこと。従来のチャットボットとは異なり、複数のツールやデータソースを連携させながら、多段階のワークフローを処理できる点が特徴である。
PoC(Proof of Concept / 概念実証)
新しい技術やアイデアが実際に機能するかどうかを、本格導入の前に小規模な実験で検証するプロセスのこと。
ROI(Return on Investment / 投資利益率)
投資に対してどれだけの利益が得られたかを示す指標。オフィス投資の文脈では、空間改善にかけたコストに対する生産性向上や離職率低下などの効果を数値化する際に用いられる。
ファシリティマネジメント
企業が保有・利用するオフィスや施設を、経営戦略に基づいて総合的に企画・管理・運営する手法。不動産コストの最適化や従業員の生産性向上を目的とする。
非構造データ(非構造化データ)
図面・写真・動画・自由記述のアンケートなど、データベースの行列構造に収まらない形式のデータのこと。構造化されていないため、従来の手法では分析が困難だったが、生成AIの進化により活用可能になりつつある。
データドリブン
勘や経験ではなく、収集・分析されたデータに基づいて意思決定を行うアプローチのこと。
NIST(National Institute of Standards and Technology / 米国国立標準技術研究所)
米国商務省傘下の研究機関。技術標準の策定やサイバーセキュリティフレームワークの整備で知られ、2026年2月にAIエージェントの標準化イニシアティブを立ち上げた。
【参考リンク】
株式会社イトーキ 公式サイト(外部)
1890年創業のオフィス家具大手。ワークプレイス事業を軸にオフィス空間デザインやデータ分析サービスを展開。東証プライム上場。
ITOKI OFFICE AI AGENTS プレスリリース(英語版)(外部)
今回の記事のソースとなったイトーキ公式英語プレスリリース。3つのAIエージェントの概要や開発背景が掲載されている。
ITOKI Data Trekking 公式ページ(外部)
イトーキのOffice 3.0領域における第1弾コンサルティングサービス。センシングデータを活用したオフィス構築・運用支援の詳細を掲載。
NIST AI Agent Standards Initiative(外部)
米国NISTが2026年2月に発表したAIエージェントの相互運用性とセキュリティに関する標準化イニシアティブの公式発表ページ。
【参考記事】
OfficeSpace Software Releases Built World Market Report(外部)
多くのオフィスが潜在稼働率の半分以下で運用されている実態を指摘。空間利用データに基づく意思決定の重要性を分析。
AI Agents in 2026: From hype to enterprise reality(外部)
Gartnerが2027年までにアジェンティックAIプロジェクトの40%以上が頓挫すると予測。運用面の課題を詳細に分析している。
The future of AI agents: Key trends to watch in 2026(外部)
AIエージェント市場が2025年に76億ドル超、2030年に500億ドル超へ成長する見通し。IDCやGartnerの予測数値を多数掲載。
Smart Workspace Solution Market Outlook 2026-2034(外部)
スマートワークスペース市場が2025年の13.64億ドルから2034年に21.14億ドルへ成長(CAGR 6.5%)と予測。
AI agents arrived in 2025 – here’s what happened and the challenges ahead in 2026(外部)
MCPやAgent2Agentプロトコルなど、AIエージェントのインフラ標準化が2025年に急進した経緯と2026年の課題を概観。
Announcing the “AI Agent Standards Initiative”(NIST)(外部)
NISTが2026年2月にAIエージェントの標準化イニシアティブを立ち上げ。米国のAIエージェント規制の方向性を示す重要動向。
【編集部後記】
オフィスという物理空間が、AIによってリアルタイムに最適化される時代が近づいています。みなさんの職場では、会議室の空予約や使われていないスペースにストレスを感じることはありませんか?
今回のイトーキの取り組みは、オフィス家具メーカーという立場からその課題に切り込んだ点がユニークです。「働く場所」のあり方が変わるとき、私たちの働き方そのものも変わっていくのかもしれません。みなさんはオフィスにどんな進化を期待しますか?







































