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梶裕貴、VIMS退所で独立—音声AIプロジェクト「そよぎフラクタル」を自らのライフワークに

声優の梶裕貴は2026年2月26日、所属事務所VIMSを4月8日付で退所し独立すると発表した。4月9日からは自身の音声AIプロジェクト「そよぎフラクタル」のための新会社を設立し、代表取締役に就任する。退所の理由として、声優としての可能性を広げるためであり、「そよぎフラクタル」がその実現に不可欠な柱であると説明した。

梶はこのプロジェクトを「ライフワーク」と位置付け、人間とAIが共鳴し合う声の表現の革命を目指すとしている。同プロジェクトは2024年4月にクラウドファンディングサービスCAMPFIREで資金調達を実施し、目標額1000万円(約6万4090ドル)に対して907人の支援者から3倍以上の資金を集めた。

プロジェクトはクリエイターに梶の声を活用した創作手段を提供するとともに、声の不正利用防止も目的としている。

From: 文献リンクVoice Actor Yūki Kaji Leaves Talent Agency, Starts Own Company

【編集部解説】

梶裕貴氏は「進撃の巨人」のエレン・イェーガー、「僕のヒーローアカデミア」の轟焦凍、「七つの大罪」のメリオダスなど、数々の人気作品の主要キャラクターを演じてきた声優です。声優アワードで主演男優賞を2年連続受賞した唯一の声優でもあり、その影響力は業界内でも突出しています。

「そよぎフラクタル」の中核をなすのは、音声合成ソフト「梵そよぎ(そよぎそよぎ)」です。これはTechno-Speech社が開発する音声合成エンジン「CeVIO AI」および「VoiSona」上で動作し、梶氏の声を学習データとして歌声と会話音声の両方を生成できます。2024年11月21日に日本語版が、2025年12月10日には英語トーク版がリリースされており、すでに製品として市場に出ています。

注目すべきは、梶氏がこのプロジェクトを推進する一方で、2024年10月に始動した「NOMORE無断生成AI」有志の会にも名を連ねているという事実です。この活動は日本俳優連合と日本音声製作者連盟が筆頭賛同団体として参画し、声優26名が無断での音声AI生成に対する規制を求めるものでした。日本俳優連合の調査によると、少なくとも46作品、267人の声優の声が無断でAIコンテンツに利用されていた実態が報告されています。

つまり梶氏の立場は「AIそのものへの反対」ではなく、「無断利用には断固NOを突きつけつつ、権利者の同意に基づく正当なAI活用を自ら実践する」という、極めて戦略的なものです。AI時代におけるクリエイターの権利と創造性を両立させる具体的なモデルケースを提示しているといえます。

ビジネスモデルの観点からも、この動きは示唆に富んでいます。従来、声優は事務所に所属し、出演料というフロー型の収益構造に依存してきました。しかし「梵そよぎ」は買い切り販売(CeVIO AI版、トークボイス8980円〜)やサブスクリプション(VoiSona版、月額880円〜)という形で、声優自身の声がデジタルプロダクトとして継続的に収益を生む構造を実現しています。

プロジェクトにはキャラクターデザインに米山舞氏、漫画化ネームに「進撃の巨人」の諫山創氏が参画するなど、音声ソフトウェアの枠を超えたIPエコシステムの構築が進んでいます。2026年3月8日には東京ガーデンシアターで3Dライブ「そよぎEXPO」の開催も予定されており、バーチャルエンターテインメントとの融合も視野に入っています。

一方で、潜在的なリスクも考慮する必要があります。音声合成技術の精度が向上するほど、ディープフェイクやなりすましへの悪用リスクは高まります。日本では現在、「声」そのものを明確に保護する法律は整備されておらず、パブリシティ権による保護も判例に依存している状態です。「NOMORE無断生成AI」有志の会が求める「声の肖像権」の法制化は、今後の重要な論点となるでしょう。

梶氏の独立は、声優という職業の在り方そのものを問い直す挑戦です。クリエイターがAI技術を自らの手でコントロールし、権利を保持しながら新たな表現と収益の可能性を開拓する。この試みが成功するかどうかは、音声AI分野における「人間とテクノロジーの共存モデル」の行方を左右する、一つの試金石となるかもしれません。

【用語解説】

音声合成ソフト
人間の声をAI技術で再現し、テキストから音声を生成するソフトウェアの総称である。歌声合成とトーク(会話)合成の2種類がある。

CeVIO AI
Techno-Speech社が開発した次世代音声合成エンジン。ディープラーニングやリカレントニューラルネットワーク(RNN)を用いて、人間の声質・癖・歌い方を高精度に再現する。「梵そよぎ」はこのエンジン上で動作する。

VoiSona
同じくTechno-Speech社が提供する音声合成プラットフォーム。CeVIO AIとは異なりサブスクリプション方式での利用が可能で、Mac OSにも対応している。

CAMPFIRE
日本最大級のクラウドファンディングプラットフォーム。「そよぎフラクタル」プロジェクトの資金調達に利用された。

パブリシティ権
著名人が持つ顧客吸引力(名前や肖像など)を保護する権利。日本では明文化された法律がなく、判例(ピンク・レディー事件最高裁判決)によって認められている。「声」がこの権利でどこまで保護されるかは現在も議論が続いている。

【参考リンク】

そよぎフラクタル公式サイト(外部)
梶裕貴が企画立案した音声AIプロジェクトの公式サイト。プロジェクト概要やニュースを掲載している。

VIMS(ヴィムス)公式サイト(外部)
梶裕貴がこれまで約13年間所属していた声優事務所の公式サイト。退所のお知らせも掲載されている。

NOMORE無断生成AI 公式サイト(外部)
日本俳優連合と日本音声製作者連盟が参画する、声優有志による無断AI音声生成への規制を求める啓発活動サイト。

CeVIO AI 公式サイト(外部)
「梵そよぎ」が動作する次世代音声合成ソフトウェアの公式サイト。製品情報やチュートリアルを掲載。

VoiSona 公式サイト(外部)
サブスクリプション方式で「梵そよぎ」が利用可能な音声合成プラットフォーム。Mac OSにも対応。

【参考動画】

【参考記事】

Voice Actor Yuki Kaji’s Voice AI Project Launches Official Voice Synthesis Software(外部)
2024年11月の「梵そよぎ」公式リリース報道。CF達成率341%、調達額3419万7702円の詳細を記載。

Attack on Titan Voice Actor Yuki Kaji Leaves Agency To Launch AI Project(外部)
無断AI利用反対と自身のAIプロジェクト推進を両立する梶氏の立場を解説した報道記事。

Yuki Kaji to Go Independent in April, Launches New Company(外部)
ORICON NEWS英語版による報道。VIMS側の公式声明や梶氏のコメント全文を掲載している。

Soyogi Soyogi English Talk Voice Now Officially Released(外部)
2025年12月10日に英語トークボイスがCeVIO AI・VoiSona Talk向けにリリースされた公式発表。

VoiSona — Soyogi Soyogi リリースプレスリリース(外部)
VoiSona版「梵そよぎ」の価格体系(月額880円〜買い切り9900円)を掲載した公式プレスリリース。

【編集部後記】

「自分の声がAIで再現される」と聞いたとき、みなさんはどう感じますか。

梶裕貴氏の挑戦は、クリエイターがAI技術を恐れるのではなく、自らの手で舵を取るという選択肢を示しています。声優に限らず、イラストレーター、音楽家、ライターなど、あらゆる表現者がこの問いに直面する時代が来ているのかもしれません。

みなさんがもし自分の「声」や「表現」をAIに託せるとしたら、どんな条件なら受け入れられますか。ぜひSNSで聞かせてください。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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