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三菱重工業「DIAVAULT」発表—クラウドを超える、現場密着型AIデータセンターの衝撃

三菱重工業は2026年2月24日、独自開発した産業向けエッジデータセンターのブランド「DIAVAULT(ディアヴォルト)」を立ち上げた。DIAVAULTはオンプレミス環境で現場データとAIの活用を可能にするデジタルインフラであり、小規模から数MW規模の推論データセンターまでをカバーする。

製造現場・研究施設・防衛関連分野への対応を想定し、5G接続による低遅延ソリューションも提供する。三菱重工業は横浜製作所(横浜市中区)内のYokohama Hardtech Hub(YHH)敷地に実証用AIデータセンターをオープンした。同施設は新世代GPUを搭載したサーバーに二相式ダイレクトチップ冷却を採用し、低PUEを実現する。

サーバー室は20フィートコンテナ2個分の規模で、常時給電型の無停電電源装置を備える。入退室には二要素認証を導入し、設備全体の遠隔監視による無人運転を図る。

From: 文献リンクAIを活用し情報を早く安全に処理、エッジデータセンターブランド「DIAVAULT」を立ち上げ|三菱重工業

三菱重工グループ公式プレスリリースより引用

【編集部解説】

三菱重工業が2026年2月24日に発表した「DIAVAULT(ディアヴォルト)」は、単なる製品発表ではありません。「AIをどこで動かすか」という問いに対して、日本の重工業メーカーが本気で答えを出した、産業インフラ再設計の宣言です。

クラウドで「できないこと」がある、という現実

生成AIの普及が進むにつれて、「クラウドにデータを送って処理する」という従来モデルの限界が見えてきました。製造ラインや防衛関連施設では、ミリ秒単位の遅延すら許されない場面や、機密データを外部サーバーに送ること自体がリスクになるケースが存在します。DIAVAULTはその答えとして、処理をデータの発生源の近くに置く「エッジコンピューティング」を、産業グレードで実装したものです。

「二相式ダイレクトチップ冷却」が意味すること

技術面で注目したいのが冷却方式です。今回採用された「二相式ダイレクトチップ冷却」は、水を使わずに絶縁性冷媒を液体・気体の二相で循環させる方式で、従来の空冷と比べて冷却エネルギー消費を大幅に削減できます。この技術によりPUE(電力使用効率)を1.0に近づけることが可能で、電力コストの削減と環境負荷の低減を同時に実現します。100MWクラスのデータセンターでは1日あたり約110万ガロンもの水を消費するとされる中、水を使わない冷却を実現できるこの技術は、水資源の観点からも注目に値します。

「フィジカルAI」時代の到来と接続する

三菱重工業がDIAVAULTのターゲットに「フィジカルAI」を明示している点は重要です。フィジカルAIとは、AIの判断能力をロボットや自律機械など物理的な「身体」と統合した技術で、製造・物流・医療・建設など、あらゆる現場で自律的な動作を可能にします。このAIは推論をリアルタイムで行う必要があり、クラウドへの往復遅延を前提にした設計では対応できません。DIAVAULTのようなオンプレミス型エッジ推論基盤は、フィジカルAI時代の「神経系」として機能する存在になりえます。

市場の追い風は本物か

エッジコンピューティング市場はグローバルで見ると2025年時点で約180億ドル規模と推定され、2030年には約372億ドルへ成長すると予測されています。日本国内でも、2024年の約8億2,350万ドルから2033年には約59億1,817万ドルへ、年平均成長率23.70%での拡大が見込まれています。DIAVAULTが参入するのは、まさにこの高成長フェーズの入り口です。

ポジティブな側面

DIAVAULTが産業界にもたらしうるメリットは明確です。データを外部に出さないオンプレミス処理はデータ主権の確保につながり、特に防衛・研究開発分野での採用障壁を下げます。小規模から数MW規模まで柔軟にスケールできる設計は、大企業だけでなく中規模の製造拠点への展開も視野に入れています。さらに5G接続への対応は、工場の自動化やロボット制御との統合を加速させるでしょう。

潜在的なリスクと課題

一方で、課題も見えます。オンプレミス型インフラは初期導入コストが高く、運用・保守に専門的な人材を必要とします。無人運転を謳ってはいますが、遠隔監視体制の品質がシステム全体の信頼性を左右します。また、クラウドとの連携が必要なハイブリッド構成を取る場合、セキュリティポリシーの設計がより複雑になるリスクがあります。

日本の重工業メーカーとして問われる真価

三菱重工業はこれまで、発電プラントや防衛装備、航空宇宙など「社会インフラ」を支えてきた企業です。その信頼と実績を、AIインフラという新領域に転用する戦略は合理的と言えます。Yokohama Hardtech Hub(YHH)での実証を起点に、国内外パートナーとの協業が現実になれば、日本発のAIインフラ標準を世界に提示する可能性も秘めています。今後はどの業界・どの企業がDIAVAULTを採用するかに注目です。

【用語解説】

エッジコンピューティング
データが生成されるデバイスやユーザーの近くにコンピューティング資源を配置し、情報を高速・分散処理する技術。クラウドへのデータ送信を最小化することで、遅延の低減と機密性の確保を同時に実現する。

フィジカルAI(Physical AI)
AIの判断能力をロボットや自律機械など物理的な「身体」と統合した技術。製造・物流・建設・医療などの現場でリアルタイムの自律動作を可能にし、クラウドへの通信遅延を許容しない推論環境が必要となる。

PUE(Power Usage Effectiveness)
データセンターの電力効率を示す指標。データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値で、1.0に近いほど効率が高い。業界全体の平均は約1.5とされ、冷却や照明などに電力の約3分の1が使われている状態を意味する。

オンプレミス
クラウドサービスを使わず、自社・工場・研究所などの施設内にサーバーを設置してデータを管理・処理する方式。外部ネットワークを介さないため、機密性とレイテンシー面でクラウドを上回る場面がある。

AIアクセラレーター
AIの推論・学習処理に特化したハードウェア。GPUをはじめとするAI専用チップが該当し、汎用CPUに比べて並列演算処理を大幅に高速化する。推論データセンターの中核を担う。

【参考リンク】

三菱重工業 公式ウェブサイト(外部)
三菱重工グループの事業・技術・ニュースリリースを掲載する公式サイト。1884年創立の総合重工業メーカーとしての情報を発信している。

DIAVAULT 英語版プレスリリース(MHI公式)(外部)
三菱重工業によるDIAVAULT発表の英語版プレスリリース。技術仕様や導入背景、YHHでの実証開始など日本語版と同内容を英語で確認できる。

Yokohama Hardtech Hub(YHH)(外部)
三菱重工業横浜製作所(横浜市中区)内に設立されたハードテック系の共創・実証拠点。DIAVAULTの実証AIデータセンターが設置されている施設だ。

二相式ダイレクトチップ冷却の仕組み解説(Datacentre.solutions)(外部)
冷却液が液体・気体の二相で循環する仕組みを図解で解説した技術ブログ。PUEへの影響や水使用量の削減効果、AIファクトリーへの適用可能性まで詳述している。

【参考動画】

【参考記事】

MHI Unveils “DIAVAULT,” a Secure, High Performance Edge Data Center Platform(MHI公式・英語)(外部)
三菱重工業によるDIAVAULT発表の英語版一次ソース。技術仕様・背景・将来展望を網羅し、編集部解説の事実確認の基盤として使用した。

日本エッジコンピューティング市場規模:成長と分析 2033年(IMARC Group)(外部)
日本市場は2024年に8億2,350万米ドル、2033年には5,918.17百万米ドルへ拡大し、年平均成長率23.70%を予測。製造業・防衛・5G統合が主要牽引力とされる。

Under the Hood: How Two-Phase, Direct-to-Chip Liquid Cooling Works(Datacentre.solutions)(外部)
100MWデータセンターは1日約110万ガロンの水を消費すること、同技術でPUEが1.04まで低下可能なことなど、数値で冷却技術の将来性を示した解説記事。

Mitsubishi launches edge data centre platform for on-premises AI processing(Telecompaper)(外部)
欧州テレコム専門メディアによる報道。通信業界の視点からDIAVAULTのオンプレミスAI処理プラットフォームとしての意義を位置づけている。

Mitsubishi Heavy Industries Launches Industrial Edge Data Center(IT Business Today)(外部)
製造業・産業テックの視点からDIAVAULTを取り上げた英語メディアの記事。製造現場でのAI推論環境構築に向けた三菱重工業の戦略的な位置づけを解説している。

【編集部後記】

AIの話題というと、どうしてもクラウドやソフトウェアの世界に目が向きがちです。でも今回のDIAVAULTを見ていると、「AIをどこで動かすか」という問いが、これからの産業の形そのものを変えていくような気がしてなりません。みなさんの職場や身近な現場では、リアルタイム処理や情報の機密性について、どんな課題を感じていますか?ぜひ一緒に考えていけたら嬉しいです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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