ステーブルコイン発行会社のTether(テザー)が、同社のビットコインマイニング用オペレーティングシステム「MOS(Mining OS)」を2025年第4四半期までにオープンソース化すると、CEO(最高経営責任者)のパオロ・アルドイーノ氏が2025年6月9日にX(旧Twitter)で発表した。
MOSはピアツーピアのIoT(モノのインターネット)アーキテクチャを採用したスケーラブルでモジュラーなシステムで、小規模なRaspberry Piセットアップから数十万台のマイナーを管理する大規模施設まで対応する。このオープンソース化により、新しいマイニング会社が高額なサードパーティベンダーに依存せずに市場参入でき、上場企業と小規模事業者の格差縮小を目指す。同社は4月にOceanマイニングプールと提携してブロック構築の分散化を支援している。また、TetherはAIプラットフォーム「QVAC」をMOSに統合し、リアルタイムデータによる性能分析機能も提供予定である。
From: https://cointelegraph.com/news/tether-bitcoin-mining-software-open-source
【編集部解説】
今回のTetherによるビットコインマイニングOSのオープンソース化は、暗号通貨業界における重要な転換点となる可能性があります。これまでマイニング業界は大手企業による寡占状態が続いており、小規模事業者の参入障壁が非常に高い状況でした。
技術的な革新性について
MOSの最大の特徴は、Raspberry Piのような小規模セットアップから数十万台のマイナーを管理する大規模施設まで対応できるスケーラビリティにあります。ピアツーピアのIoTアーキテクチャを採用することで、従来の中央集権的なマイニング管理システムとは一線を画しています。
また、モジュラー設計により開発者が独自のプラグインを作成できる点も注目に値します。これにより、特定のハードウェアや環境に最適化されたソリューションが生まれる可能性があります。
業界構造への影響
現在のマイニング業界では、Marathon Digital、Riot Platforms、CleanSparkなどの上場企業が圧倒的な優位性を持っています。これらの企業は資金力、電力契約の交渉力、そして高度なソフトウェアツールへのアクセスにおいて小規模事業者を大きく上回っています。
Tetherのオープンソース化により、この格差が縮小される可能性があります。特に自家発電設備を持つ中小企業にとって、余剰電力をマイニングに活用する道筋が開かれることになります。
AI統合による付加価値
TetherはAIプラットフォーム「QVAC」をMOSに統合し、リアルタイムデータによる性能分析機能を提供予定です。これにより、マイニング効率の最適化が自動化され、技術的知識が限られた事業者でも高度な運用が可能になります。
潜在的なリスクと課題
一方で、マイニングの民主化には潜在的なリスクも存在します。技術的知識が不十分な事業者の参入により、セキュリティリスクが高まる可能性があります。また、小規模事業者の急激な増加は、ビットコインネットワークの安定性に予期しない影響を与える可能性も否定できません。
Tetherの戦略的意図
Tetherは近年、ステーブルコインUSDT事業を超えて、人工知能、ビットコインマイニング、教育分野への多角化を進めています。このオープンソース化は、単なる業界貢献ではなく、Tetherのエコシステム拡大戦略の一環と捉えるべきでしょう。
長期的な展望
2025年第4四半期のリリース予定により、来年にはマイニング業界の構造が大きく変化する可能性があります。このような技術の民主化は、ビットコインネットワークの分散化という本来の理念に立ち返る動きとして評価できる一方で、既存の大手マイニング企業のビジネスモデルに大きな変革を迫ることになるでしょう。
【用語解説】
MOS(Mining OS)
Tetherが開発したビットコインマイニング用オペレーティングシステム。ピアツーピアのIoTアーキテクチャを採用し、小規模なRaspberry Piセットアップから大規模施設まで対応可能なスケーラブルなシステムである。
ハッシュレート(Hashrate)
ビットコインマイニングにおいて、マイナーが1秒間に実行できる暗号学的ハッシュ計算の回数を示す指標。EH/s(エクサハッシュ毎秒)で表され、数値が高いほどマイニング能力が高い。
オープンソース化
ソフトウェアのソースコードを一般に公開し、誰でも自由に使用、修正、配布できるようにすること。透明性と協力的な開発を促進する手法である。
IoT(Internet of Things)
モノのインターネットと呼ばれる概念で、様々な物理デバイスがインターネットに接続され、相互に通信・制御を行う技術体系を指す。
ピアツーピア(P2P)
アーキテクチャ中央サーバーを介さず、参加者同士が直接通信・データ交換を行うネットワーク構造。分散化と耐障害性の向上を実現する。
QVAC
Tetherが開発したAIプラットフォーム。MOSに統合され、リアルタイムデータによる性能分析とマイニング最適化機能を提供する。
半減期(Halving)
約4年ごとに発生するビットコインの新規発行量が半分になるイベント。マイニング報酬が減少するため、マイナーの収益性に大きな影響を与える。
【参考リンク】
Tether公式サイト(外部)
世界最大のステーブルコインUSDTを発行する企業の公式サイト。同社のビジネス展開やプロダクト情報を提供
OCEAN マイニングプール(外部)
Luke Dashjr氏が共同創設した分散型ビットコインマイニングプール。透明性と検閲耐性を重視
HIVE Digital Technologies(外部)
カナダを拠点とするビットコインマイニングとAIコンピューティング企業。グリーンエネルギーを活用
Cango Inc.(外部)
中国発の自動車ローン事業からビットコインマイニング事業に転換した企業。急成長を遂げている
【参考動画】
【参考記事】
Tether to democratize Bitcoin mining with open-source software debut(外部)
TetherのMOSオープンソース化がマイニング業界の民主化に与える影響について分析した記事
Tether to open-source Bitcoin Mining Operating System to empower small, mid-sized miners(外部)
TetherのMOSオープンソース化について詳細に報じた記事。小中規模マイナーへの影響を解説
How Chinese Lending Firm Cango Became a Bitcoin Mining Powerhouse(外部)
中国の自動車ローン会社Cangoがビットコインマイニング大手に転身した経緯を詳しく解説
【編集部後記】
ビットコインマイニングの世界が大きく変わろうとしています。これまで大手企業の独壇場だったこの分野に、小規模事業者や個人でも参入できる道筋が見えてきました。
皆さんは、この技術革新をどのように捉えていますか?オープンソース化によって生まれる新たな可能性と、一方で懸念される課題について、ぜひご意見をお聞かせください。また、分散化が進むビットコインネットワークの未来について、どのような展望をお持ちでしょうか?