欧州連合は2026年1月1日からDAC8指令と呼ばれる新しい暗号資産税務報告ルールを開始する。この指令は全27加盟国を対象とし、すべての暗号資産サービスプロバイダー(CASP)に対して、詳細なユーザーおよび取引データを各国の税務当局に報告することを義務付ける。
対象には取引所、ウォレットプロバイダー、その他の暗号資産取引を促進するプラットフォームが含まれる。
ルールは2026年1月1日に適用され、CASPは同日以降の取引について報告に必要なデータを収集・管理する義務を負う。最初の報告対象期間は2026年暦年であり、税務当局間での情報交換はその翌年に行われる。
DAC8は暗号資産市場規制であるMiCAとは異なり、MiCAが市場行動、ライセンス、消費者保護を管理するのに対し、DAC8は税務報告と当局間の情報交換のみに焦点を当てる。DAC8は税務当局間の情報交換を強化するものであり、これにより未申告・未納税の暗号資産取引を各国当局が把握しやすくなる。実際の課税や徴収、資産の差押え等は、各国の税法や別途定められた徴収制度に基づいて行われる。
この権限は資産が別のEU国のプラットフォームに保有されている場合でも適用される。
From:
Essential Guide: The EU’s New Crypto Tax Reporting Rules Start January 1
【編集部解説】
今回のDAC8指令は、2023年10月にEU理事会で採択され、加盟国は2025年12月31日までに国内法化を完了させる必要があります。実際の報告義務は2026年1月1日から開始されます。
この規制が注目される理由は、暗号資産取引の「匿名性」という特性が税務当局にとって長年の課題だったからです。従来の金融システムでは銀行が顧客情報を税務当局と共有する仕組みが確立されていましたが、暗号資産はその枠外に置かれていました。
DAC8とMiCAの関係性について整理しておく必要があります。MiCAは2024年12月30日に完全施行された市場規制で、暗号資産企業の営業許可や消費者保護を定めています。一方、DAC8は税務報告に特化しており、両者は補完的な関係にあります。
特筆すべきは、DAC8がOECDの暗号資産報告フレームワーク(CARF)と整合性を持つよう設計されている点です。これにより、EU域内だけでなく、将来的には国際的な税務情報交換の基盤となる可能性があります。
事業者側の負担は決して軽くありません。各CASPには10桁の固有IDが付与され、登録抹消後も12ヶ月間のデータ保持義務が課されます。顧客データの収集・検証・報告システムの構築には相応の投資が必要でしょう。
ただし、この透明性向上は業界の成熟にとってプラスに働く側面もあります。規制の明確化により機関投資家の参入障壁が下がり、長期的には市場の安定化につながる可能性があります。
一方で、プライバシーの観点からは懸念の声も上がっています。すべての取引データが自動的に国境を越えて共有されることへの抵抗感は、特に暗号資産コミュニティの中で根強いものがあります。
【用語解説】
DAC8指令
EUの行政協力指令(Directive on Administrative Cooperation)の第8次改正案。正式には2023年10月にEU理事会で採択され、暗号資産に関する税務情報の自動交換を義務付ける。加盟国間での税務情報共有を強化し、脱税や租税回避を防ぐことを目的とする。
CASP(Crypto-Asset Service Provider)
暗号資産サービスプロバイダーの略称。取引所、ウォレット提供者など、暗号資産の取引や保管を支援する事業者を指す。DAC8ではこれらの事業者に顧客情報と取引データの報告義務が課される。
CARF(Crypto-Asset Reporting Framework)
OECDが策定した暗号資産報告フレームワーク。国際的な税務情報の自動交換を実現するための標準規格。DAC8はこのCARFとの整合性を持つよう設計されており、将来的にグローバルな税務報告体制の基盤となる。
AEOI(Automatic Exchange of Information)
税務情報の自動交換制度。金融機関や暗号資産事業者が収集した顧客情報を、自動的に各国税務当局間で共有する仕組み。CRSやCARFなどの国際基準に基づいて運用される。
【参考リンク】
European Commission – DAC8(外部)
欧州委員会公式サイト。DAC8指令の詳細、加盟国間での暗号資産税務情報の自動交換に関する法的枠組みと実施スケジュールを掲載。
ESMA – Markets in Crypto-Assets Regulation (MiCA)(外部)
欧州証券市場監督局によるMiCA規制の公式ページ。暗号資産の発行と取引に関する透明性、開示、認可、監督のEU統一市場規則を提供。
OECD – Crypto-Asset Reporting Framework(外部)
OECD公式サイトで暗号資産報告フレームワーク(CARF)の詳細を掲載。国際的な税務情報交換の標準規格と各国の実施状況を提供。
【参考記事】
EU Expands DAC8 to Tighten Crypto Reporting and Tax Enforcement(外部)
2026年1月1日からのDAC8報告義務の詳細解説。各CASPの10桁固有ID付与や登録抹消後12ヶ月のデータ保持義務など。
From 2026 crypto providers will be required to share data(外部)
PwCによるDAC8の実務解説。2026年1月1日のデータ収集開始、2027年9月30日の最初の報告期限、OECDのCARFとの整合性を明示。
Euro Tax Flash from KPMG’s EU Tax Centre(外部)
KPMGによるDAC8税務専門家向け分析。加盟国の2025年12月31日までの国内法化期限、DAC8とMiCAの相互関係を詳細解説。
DAC8 Explained: EU Crypto & Marketplace Compliance(外部)
DAC8のコンプライアンス要件を技術的観点から解説。事業者が実装すべき顧客データ収集・検証・報告システムの実装ガイダンス。
EU crypto regulation MiCA comes fully into force(外部)
MiCAが2024年12月30日に完全施行されたことを報じる記事。DAC8との違いと、両者が補完的関係にあることを説明。
【編集部後記】
暗号資産の「自由」と「透明性」、この両立は可能なのでしょうか。DAC8によって税務報告が義務化される一方で、プライバシーへの配慮や技術革新の余地は残されるのか、皆さんはどう感じられますか。
日本でも同様の規制議論が進む可能性があります。投資家として、あるいは技術の未来を見守る立場として、規制と革新のバランスについて一緒に考えていけたらと思います。みなさんの暗号資産に対する考え方や、今後の展望についてもぜひ聞かせてください。































