ソラナ財団は2025年12月24日、フィーリレイヤーおよび署名インフラであるKoraを立ち上げた。Koraはアプリケーションが取引手数料を完全にスポンサーすることを可能にし、ユーザーはソラナベースの製品を利用する際にSOLを保有する必要がなくなる。アプリケーションはUSDCやその他のステーブルコインを含む代替トークンで取引コストをカバーできる。
Runtime Verificationがインフラを監査した。KoraはAWS KMSやTurnkeyを含む複数のリモート署名者をサポートし、残高監視ツールも備える。SOLは現在約124ドルで取引されており、2025年1月のピークである293ドルから約58%下落している。ソラナのETPは価格の弱さにもかかわらず6900万ドルの純流入を集めた一方、ネットワーク収益は2025年に25億ドルから5億ドルに減少した。
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Solana Foundation Launches Kora Fee Infrastructure as SOL Tests $120 Support
【編集部解説】
ソラナ財団によるKoraの発表は、ブロックチェーン業界が長年抱えてきた「ユーザーエクスペリエンスの壁」に正面から取り組む重要な一手です。この動きの背景には、技術的な成熟と市場の厳しい現実が交錯する、ソラナの複雑な状況があります。
まず理解すべきは「フィー抽象化」という概念です。従来、ブロックチェーンアプリケーションを使うには、そのネットワークのネイティブトークンを保有し、取引手数料として支払う必要がありました。これは暗号資産に慣れたユーザーには当たり前でも、一般的なWebサービスの感覚からすれば大きな障壁となります。Koraはこの問題を、アプリケーション側が手数料を肩代わりする仕組みで解決しようとしています。
技術的な実装としては、Koraはフィーリレイヤーとリモート署名ノードの両方の機能を持ちます。開発者はUSDCなどのステーブルコインやゲーム内通貨で手数料を支払えるようになり、ユーザーはSOLを一切保有せずにソラナ上のアプリケーションを利用できます。AWS KMSやTurnkeyといったエンタープライズグレードのセキュリティソリューションとの統合により、秘密鍵をローカルに保存するリスクも軽減されています。Runtime Verificationによる監査も完了しており、セキュリティ面での配慮も見て取れます。
しかし、このインフラ強化の発表は、ソラナが直面する厳しい市場環境と対照的です。複数の報道によれば、ソラナのネットワーク収益は2024年の25億ドルから2025年には5億ドルへと約5分の1に急減しました。これは主にミームコイン取引の激減によるもので、月間アクティブトレーダー数は3000万人超から100万人未満へと97%も減少しています。SOL価格も2025年1月のピークである293ドルから約58%下落し、120ドル付近で推移しています。
興味深いのは、こうした価格低迷にもかかわらず、機関投資家の関心が継続している点です。ソラナのETP商品には6900万ドルの純流入があり、VisaやJPMorganといった伝統的金融機関もソラナ上での決済やトークン化プロジェクトを進めています。これは市場が短期的な投機と長期的な技術的価値を分けて評価し始めている兆候かもしれません。
Koraが実現するユーザー体験の改善は、単なる利便性の向上にとどまりません。ブロックチェーンゲームでは、プレイヤーが暗号資産ウォレットの存在すら意識せずにゲームを楽しめるようになります。DeFiアプリケーションでは、初心者が最初のハードルで躓くことなく参加できます。これらは、ブロックチェーン技術が真に大衆化するために不可欠な要素です。
一方で、フィー抽象化には潜在的なリスクも存在します。アプリケーション側が手数料を負担するモデルは、持続可能な収益構造を構築できなければ、サービスの継続性に疑問が生じます。また、ユーザーが手数料の存在を意識しなくなることで、取引の真のコストが見えにくくなる可能性もあります。
ソラナは現在、投機的な活動への依存から脱却し、実用的なユースケースを確立する転換点にあります。Koraは、その戦略の一環として位置づけられます。イーサリアムが提供するERC-4337による同様の機能と比較すると、ソラナはネイティブなアーキテクチャの利点を活かした実装が可能ですが、エコシステムの成熟度では課題が残ります。
今後、ブロックチェーン業界全体がフィー抽象化やアカウント抽象化といったUX改善に注力する流れが加速するでしょう。Koraの成否は、技術の優位性だけでなく、開発者コミュニティがこのツールをどれだけ活用し、実際にユーザーを引き付けるアプリケーションを構築できるかにかかっています。
【用語解説】
フィーリレイヤー(Fee Relayer)
ブロックチェーン上で、ユーザーに代わって取引手数料を支払う中継システム。ユーザーは直接ネイティブトークンを保有せずとも、アプリケーション側が手数料を負担することで取引を実行できる。
署名ノード(Signing Node)
ブロックチェーン取引に必要な暗号署名を、安全な環境で実行するためのノード。秘密鍵をローカルに保存せず、AWS KMSやTurnkeyなどの外部セキュリティサービスと連携して署名処理を行う。
フィー抽象化(Fee Abstraction)
ユーザーがブロックチェーンの取引手数料を意識せず、または別のトークンで支払えるようにする技術概念。ブロックチェーンのユーザーエクスペリエンス向上における重要な要素。
SOL(ソル)
ソラナブロックチェーンのネイティブトークン。従来、ソラナ上で取引を行うには手数料としてSOLが必要だったが、Koraの導入によりこの制約が緩和される。
ステーブルコイン
法定通貨(主に米ドル)に価格が連動するよう設計された暗号資産。USDCはその代表例で、1USDC=1米ドルとなるよう設計されている。価格変動が少ないため、決済手段として利用されることが多い。
ETP(Exchange Traded Product)
取引所で売買される金融商品の総称。暗号資産ETPは、投資家が直接暗号資産を保有せずとも、伝統的な証券口座を通じて暗号資産への投資エクスポージャーを得られる商品。
Runtime Verification
ソフトウェアやスマートコントラクトのセキュリティ監査を専門とする企業。形式検証などの高度な手法を用いて、システムの安全性を検証する。
AWS KMS(Amazon Web Services Key Management Service)
Amazonが提供する暗号鍵管理サービス。暗号化キーの生成、保管、管理を安全に行うためのクラウドサービスで、エンタープライズレベルのセキュリティ要件に対応する。
ミームコイン
インターネット上のミーム(ネタ)をテーマにした暗号資産。実用性よりも投機性やコミュニティの盛り上がりを重視する傾向があり、価格変動が極めて激しい。
【参考リンク】
Solana Foundation(ソラナ財団)(外部)
ソラナブロックチェーンの開発と普及を推進する非営利団体。高速かつ低コストなインフラを提供。
Kora Documentation(Kora公式ドキュメント)(外部)
Koraの技術仕様、実装方法、APIリファレンスを提供する公式ドキュメント。
USDC(USD Coin)(外部)
Circle社が発行する米ドル連動型ステーブルコイン。透明性の高い監査レポートを定期的に公開。
Turnkey(外部)
暗号資産ウォレットとデジタル資産管理のためのセキュリティインフラを提供する企業。
Runtime Verification(外部)
ブロックチェーンとスマートコントラクトのセキュリティ監査を専門とする企業。
【参考記事】
Solana Foundation Unveils Kora as SOL Tests Critical $120 Support(外部)
ソラナ財団がKoraを発表したことを報じる記事。手数料スポンサーシップとリモート署名の標準化について解説。
Kora Fee Relayer Enables Solana App Onboarding And Fees(外部)
Koraの技術的詳細と実装方法を解説。ゲームアプリでの実際の活用例を紹介している。
Solana Loses 97% Of Traders During 2025 As Institutional Money Exits(外部)
ソラナのネットワーク収益が25億ドルから5億ドルへと5分の1に減少したことを報告。
Solana’s Network Activity Decline: A Cautionary Tale for Crypto Investors(外部)
ソラナのネットワーク活動低下の詳細な分析。開発者エコシステムの堅調さと経済的価値創造の乖離を指摘。
Is it ‘over for Solana’? 97% network activity crash sparks fresh debate(外部)
ソラナの共同創業者のコメントを引用し、ミームコイン依存からの脱却の必要性を論じている。
Solana Flashes Bullish Divergence as Revenue Flippening Threatens ETH(外部)
ソラナの年間収益が2021年の2800万ドルから2025年には約25億ドルに成長したデータを提示。
Institutional Accumulation Defies Solana’s Price Weakness(外部)
価格低迷にもかかわらず、企業や機関投資家がソラナへの投資を継続している状況を詳述。
【編集部後記】
ブロックチェーン技術が本当に社会に浸透するためには、技術的な優位性だけでなく、誰もが使いやすい体験が不可欠です。Koraのようなフィー抽象化の試みは、その第一歩かもしれません。
みなさんは、暗号資産を使う上でどんな障壁を感じていますか。それとも、手数料を意識せずに使えることで、逆に見えなくなるリスクが気になるでしょうか。技術の進化と持続可能なエコシステムのバランスについて、ぜひみなさんの考えをお聞かせください。































