advertisements

トークン化預金DCJPYでセキュリティトークン決済を実証―SBI証券ら6社が国内初の協業開始

[更新]2025年12月28日

トークン化預金DCJPYでセキュリティトークン決済を実証―SBI証券ら6社が国内初の協業開始 - innovaTopia - (イノベトピア)

SBI証券、大和証券、SBI新生銀行、BOOSTRY、大阪デジタルエクスチェンジ、ディーカレットDCPの6社は、トークン化預金DCJPYを利用したセキュリティトークンのDVP決済の実証に関する協業を開始した。国内のセキュリティトークン市場は2020年の国内初のデジタル債発行以来拡大を続け、2025年11月末における公募発行総額は2,700億円に達している。ブロックチェーン上でセキュリティトークンの受け渡しが即座に行われる一方、資金決済は銀行振込で実施されており、決済リスクの管理強化と事務負担の軽減が課題となっていた。

本プロジェクトでは、BOOSTRYのブロックチェーン「ibet for Fin」で発行・管理されるセキュリティトークンと、SBI新生銀行が発行するDCJPYを用いてDVP決済を実証する。2025年8月に検証用データでの検証を実施し、システムイメージと業務フローの整理を概ね完了した。今後は実発行による検証に取り組む。

From: 文献リンク国内初のトークン化預金によるセキュリティトークン決済の実発行検証に関する協業開始について

【編集部解説】

国内のセキュリティトークン市場が急速な成長を遂げる一方で、その決済インフラには大きな課題が横たわっていました。本プロジェクトは、この課題を解決する画期的な取り組みとして注目に値します。

セキュリティトークン市場は2020年の国内初のデジタル債発行以降、わずか5年で2,700億円規模にまで拡大しています。不動産を裏付けとした受益証券や社債など、商品性の多様化も進んでいます。しかし、ブロックチェーン技術によって証券の受け渡しは瞬時に完了する一方、資金決済は従来通りの銀行振込で行われていました。

この非対称性が生み出す問題は深刻です。証券はすでに移転されたのに代金が支払われない、あるいはその逆のリスクが常に存在し、証券会社は決済の完了を確認するまで業務負担を抱え続けることになります。DVP決済とは、証券の引渡しと代金の支払いを相互に条件付けることで、一方が実行されない限り他方も実行されない仕組みです。既存の株式市場では証券保管振替機構を通じて実現されていますが、ブロックチェーン基盤のセキュリティトークンにはこの仕組みがありませんでした。

今回の実証で鍵となるのが、トークン化預金DCJPYです。ステーブルコインと混同されがちですが、両者には本質的な違いがあります。ステーブルコインが国債などで価値を裏付けるのに対し、トークン化預金は銀行預金そのものをブロックチェーン上でトークン化したものです。そのため預金保険の対象となり、会計上も預金として扱われます。

ディーカレットDCPが提供するDCJPYネットワークは、銀行が管理するフィナンシャルゾーンと企業がビジネスを展開するビジネスゾーンという2つのブロックチェーンネットワークから構成されています。2024年8月にはGMOあおぞらネット銀行が発行するDCJPYを用いて、環境価値のデジタルアセット化と決済取引が商用化第1弾として開始されています。また、ゆうちょ銀行も2026年度中のトークン化預金取扱開始を発表しており、約1億2,000万口座、200兆円規模の貯金が潜在的なベースとなることから、市場へのインパクトは計り知れません。

本プロジェクトでは、BOOSTRYのブロックチェーン「ibet for Fin」で管理されるセキュリティトークンと、SBI新生銀行が発行するDCJPYを連携させ、両プラットフォーム間でシステム連携を実現します。2025年8月には検証用データを用いた疑似的なDVP決済を実施し、システムイメージと業務フローの整理をほぼ完了しています。今後は実際の発行による検証に移行します。

興味深いのは、並行して進む別のアプローチです。三井住友銀行、大和証券、SBI証券など8社が「Project Trinity」を立ち上げ、ステーブルコインを活用したDVP決済の実証実験を進めています。トークン化預金とステーブルコイン、どちらが主流となるかは現時点では不透明ですが、複数のアプローチが競い合うことで、より優れたソリューションが生まれる可能性があります。

実用化に向けた道のりは平坦ではありません。異なるブロックチェーン基盤間の相互運用性、税制上の取扱い、規制の明確化など、解決すべき課題は山積しています。しかし、本プロジェクトが目指すのは単なる技術実証ではなく、大阪デジタルエクスチェンジが運営するセキュリティトークン二次流通市場「START」における共通決済基盤の構築です。

将来的には即時グロス決済の実現が視野に入ります。取引成立後、瞬時にDVP決済が完了し、24時間365日いつでも取引できる市場が誕生すれば、セキュリティトークン市場の流動性は飛躍的に向上するでしょう。これは単なる効率化にとどまらず、不動産やアート作品など、従来は流動性が低かった資産の証券化を促進し、新たな投資機会を創出する可能性を秘めています。

金融インフラのデジタル化は、人類の経済活動における新たな地平を切り開く試みです。その最前線で展開される本プロジェクトの行方から、目が離せません。

【用語解説】

セキュリティトークン(ST)
ブロックチェーン技術で発行・管理されるデジタル化された有価証券。従来の株式や社債などをデジタル化したもので、権利の移転や取引記録がブロックチェーン上で管理される。小口化や24時間取引などのメリットがある。

DVP決済
Delivery Versus Paymentの略。証券の引渡しと代金の支払いを相互に条件付け、一方が行われない限り他方も行われないようにする決済方式。決済リスクを大幅に低減できる仕組みで、既存の株式市場では証券保管振替機構を通じて実現されている。

トークン化預金
銀行預金をブロックチェーン技術を用いてデジタルトークン化したもの。預金トークン(Deposit Tokens)とも呼ばれる。ステーブルコインと異なり、預金保険の対象となり、会計上も預金として扱われる点が特徴。

DCJPY
ディーカレットDCPが提供する円建てトークン化預金。銀行預金をブロックチェーン上でトークン化したデジタル通貨で、1円=1DCJPYの価値固定で発行される。DCJPYネットワーク上で発行・送金・償却が可能。

ibet for Fin
BOOSTRYが開発を主導し、コンソーシアム事務局として運営・維持を行うブロックチェーンプラットフォーム。セキュリティトークンの発行と流通に特化したコンソーシアム型ブロックチェーンで、国内ST市場における主要なインフラの一つ。

スマートコントラクト
ブロックチェーン上で自動的に実行されるプログラム。あらかじめ設定された条件が満たされると、自動的に取引や契約が執行される仕組み。DVP決済の実現において重要な役割を果たす。

二次流通市場
既に発行された証券が投資家間で売買される市場。株式市場でいう証券取引所に相当する。セキュリティトークンの二次流通市場として、大阪デジタルエクスチェンジが運営する「START」がある。

即時グロス決済
取引が成立した瞬間に、個別の取引ごとに即座に決済を行う方式。従来のネッティング決済(一定期間の取引をまとめて差額決済)と異なり、リアルタイムで決済が完了するため、決済リスクが最小化される。

【参考リンク】

BOOSTRY(外部)
ブロックチェーン基盤「ibet for Fin」の開発・提供企業。国内ST市場でトップシェアを持つ。

ディーカレットDCP(外部)
トークン化預金「DCJPY」のプラットフォーム提供企業。デジタル通貨フォーラム事務局。

大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)(外部)
セキュリティトークン市場「START」を運営する私設取引システム(PTS)事業者。

SBI証券(外部)
国内大手ネット証券。セキュリティトークンなど新金融商品の取扱いに積極的。

大和証券(外部)
日本を代表する総合証券会社。ST発行や流通の実証実験を積極推進。

SBI新生銀行(外部)
SBIグループの銀行。本プロジェクトでDCJPYの発行・償却を担当。

デジタル通貨フォーラム – セキュリティトークン決済実務/制度検討分科会(外部)
STとデジタル通貨間の効率的で安全な決済実現を検討する分科会。

【参考記事】

日本のセキュリティ・トークン市場総括レポート(2023年度)(外部)
2023年度の国内ST市場は発行額976億円で前年度の5.8倍。国内株式市場の年間発行額の16%に相当。

デジタル通貨DCJPYの法的解釈と会計処理(外部)
トークン化預金DCJPYの特徴。預金保険対象、会計上預金扱い、本人確認済利用者間の安全取引が可能。

ゆうちょ銀行におけるトークン化預金の取扱に向けた検討について(外部)
ゆうちょ銀行が2026年度中にトークン化預金取扱開始。約1億2,000万口座、200兆円規模が基盤に。

国内初の決済スキームによるデジタル債の発行、及び国内初のデジタル通貨による証券決済の概念実証における協業について(外部)
野村総研らがデジタル債で国内初のDVP決済実現。デジタル通貨による代替可能性を実証。

三井住友銀行など8社、セキュリティトークン市場の決済効率化へ「Project Trinity」を開始(外部)
三井住友銀行ら8社がステーブルコイン活用のDVP決済実証開始。トークン化預金と異なるアプローチ。

セキュリティトークン最新事情と将来展望:2024年夏(外部)
SBI金融経済研究所のST市場分析。2023年12月ODXの「START」開設で本格市場取引開始。

【編集部後記】

金融インフラのデジタル化は、私たちの資産運用や投資の選択肢を大きく広げる可能性を秘めています。トークン化預金とステーブルコイン、どちらがセキュリティトークン決済の主流となるのか、あるいは両者が共存していくのか。2026年度のゆうちょ銀行の参入により、この分野は大きな転換点を迎えそうです。

みなさんは、不動産やアート作品といった従来は流動性が低かった資産が、小口化されて気軽に売買できる未来をどう捉えますか。新しい投資機会として期待されますか、それとも慎重な見極めが必要だと感じますか。ぜひご意見をお聞かせください。

投稿者アバター
Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。