2018年にBitcoin決済から撤退したStripeが、今度は暗号資産決済に本格復帰する。Crypto.comとの提携により、数百万の企業で顧客が保有する暗号資産から直接支払いができるようになり、暗号資産は「投資対象」から「日常の決済手段」へと変貌しようとしている。
Crypto.comとStripeは2026年1月6日、企業が暗号資産決済を受け入れるための製品アップデートを発表した。Stripeとの統合により、数百万の企業がCrypto.com Payを通じて暗号資産保有残高からの決済を受け入れることが可能になる。Crypto.comは、残高からの直接決済でStripeと統合された最初の暗号資産プラットフォームとなる。顧客は希望する暗号資産やステーブルコインで支払いができ、Stripeが決済を企業の希望する現地通貨に変換して銀行口座に入金する。
また、Crypto.comは顧客がクレジットカードやデビットカードで暗号資産を購入できるようにするためにStripeを利用する。これにより米国におけるCrypto.comのクレジットカードおよびデビットカードの処理がサポートされる。
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Crypto.com and Stripe Partner to Enable Better Crypto Payments
【編集部解説】
今回の提携が持つ意味を理解するには、Stripeの暗号資産への関わりの歴史を振り返る必要があります。
Stripeは2014年、大手決済企業として初めてBitcoin決済に対応しました。しかし2018年、取引時間の長期化や手数料の高騰、そして何より「Bitcoinが交換手段ではなく資産として機能するように進化した」という判断から、わずか4年でサポートを終了しています。この撤退は、暗号資産決済の実用性に対する業界の懐疑を象徴する出来事でした。
その後Stripeは段階的に暗号資産領域へ復帰します。2022年にTwitter創作者向けのUSDC支払い機能を導入し、2024年10月には米国内の数十万の企業に対してステーブルコイン決済の受付を正式に展開しました。そして今回、Crypto.comとの提携により、ステーブルコインだけでなく、顧客が保有するあらゆる暗号資産から直接支払いができる仕組みを実現しています。
この提携で特筆すべきは、Crypto.comが「残高からの直接決済」でStripeと統合された最初の暗号資産プラットフォームである点です。従来、暗号資産での支払いには、ウォレット接続や外部アプリでの署名など、複数のステップが必要でした。今回の統合では、顧客はCrypto.com Payを選択し、QRコードをスキャンして承認するだけで決済が完了します。
加盟店側の視点からは、この仕組みは極めて実用的です。暗号資産の価格変動リスク、保管の複雑さ、会計処理の煩雑さといった従来の課題から完全に解放されます。Stripeが暗号資産を加盟店の希望する法定通貨に即座に変換し、通常の決済と同じように銀行口座へ入金するためです。加盟店にとって、暗号資産は単なる「顧客側の資金源」であり、新たなリスクを負う必要はありません。
さらに、この提携は双方向の関係です。Crypto.comはStripeの決済代行サービスを利用し、顧客がクレジットカードやデビットカードで暗号資産を購入できる機能も強化します。米国におけるCrypto.comブランドのカード処理もStripeが担当することになり、両社の協力関係は単なる決済統合を超えた包括的なものとなっています。
展開は米国から始まり、その後他の市場へ拡大する予定です。Crypto.comは2025年10月に米国で国法銀行信託認可の申請を提出しており、規制遵守への姿勢を明確にしています。同社は2024年時点で120万人のアクティブトレーダーを抱え、機関投資家向けサービスも拡充していることから、今回の提携は消費者と機関投資家の両面で暗号資産の実用性を高める試みと言えます。
もちろん、暗号資産決済が主流になるかどうかは未知数です。ボラティリティ、税務上の複雑さ、そして何より「保有するより使う」という心理的なハードルは依然として存在します。しかし、少なくとも「加盟店が受け入れない」という障壁は、この統合によって取り除かれました。
【用語解説】
Crypto.com Pay
Crypto.comが提供する決済サービス。ユーザーがCrypto.comアカウント内の暗号資産残高を使って、オンライン加盟店での支払いを行える仕組み。QRコードをスキャンしてアプリ内で承認するだけで決済が完了する。
ステーブルコイン
特定の法定通貨(主に米ドル)に価値が連動するよう設計された暗号資産。価格変動が小さいため、決済手段としての利用に適している。代表的なものにUSDC、USDT、USDPなどがある。
USDC(USD Coin)
米ドルに1対1で価値が連動するステーブルコイン。Circle社が発行し、準備資産として米ドルや短期米国債を保有している。Ethereum、Solana、Polygonなど複数のブロックチェーン上で利用可能。
法定通貨
政府や中央銀行が発行し、法律で通貨として認められた貨幣。日本円、米ドル、ユーロなどを指す。暗号資産と対比して使われる用語。
決済代行サービス(ペイメントアクワイアラー)
加盟店に代わってクレジットカードやデビットカードの決済処理を行うサービス。カード会社との契約、決済承認、資金の入金処理などを一括して担う。
【参考リンク】
Crypto.com(外部)
2016年設立の暗号資産取引プラットフォーム。世界中で数百万人のユーザーを持ち、規制遵守とセキュリティを重視した運営で知られる。
Stripe(外部)
オンライン決済処理の世界的大手企業。2023年には1兆ドル以上の取引を処理。2024年にステーブルコイン決済で暗号資産領域へ復帰した。
Crypto.com Pay(外部)
Crypto.comの決済ソリューション。今回のStripe統合により、数百万の加盟店で利用可能になった。
Circle(USDC発行元)(外部)
USDCステーブルコインの発行企業。透明性の高い準備資産管理と規制遵守を特徴とする。
【参考記事】
Stripe Integrates Crypto.com to Facilitate Crypto Payments(外部)
2025年10月のCrypto.comによる国法銀行信託認可申請や、UAE向けアプリとの統合など最近の動向を詳述。
Stripe’s Crypto.com Deal Lets You Pay in Crypto While Merchants Get Cash(外部)
顧客が暗号資産で支払い、加盟店は法定通貨を受け取る仕組みを解説。主流のコマースとデジタル資産の融合を強調。
Stripe Integrates Crypto.com to Enable Crypto Payments for Global Merchants(外部)
Crypto.comが2024年時点で120万人のアクティブトレーダーを抱えることを報告。国際展開への野心を詳述。
Ending Bitcoin support(Stripe公式ブログ)(外部)
2018年にStripeがBitcoin決済サポートを終了した際の公式声明。歴史的な経緯を理解するための重要文書。
Stripe reintegrates crypto payments in the US(外部)
2024年10月のStripe暗号資産決済再開を報道。再開初日に70カ国以上からの支払いがあったことを報告。
Crypto.com Partners with Stripe to Enable Convenient Crypto Payments(外部)
Stripeの公式顧客事例ページ。2026年1月から米国で展開開始し、その後他国へ拡大予定であることを明記。
Stripe Adds Crypto.com Pay To Checkout For Millions Of Merchants(外部)
Crypto.comがStripeを決済代行サービスとしても利用する双方向の包括的提携関係を説明。
【編集部後記】
暗号資産を「保有する」から「使う」への転換は、私たちの日常にどのような変化をもたらすのでしょうか。今回の提携は、技術的には大きな一歩ですが、実際に暗号資産で支払いをするかどうかは、結局のところ私たち一人ひとりの選択に委ねられています。
ボラティリティへの懸念、税務処理の煩雑さ、そして何より「今使うべきか、それとも保有し続けるべきか」という心理的な葛藤は簡単には消えません。みなさんは、もし手元の暗号資産で日常の買い物ができるようになったら、実際に使ってみたいと思いますか?それとも、やはり投資対象として持ち続けるでしょうか。
































