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ユーロ建てステーブルコイン発行へ、EU財務相が協議―米ドルへの依存度を低減する狙い

[更新]2026年2月8日

ユーロ建てステーブルコイン発行へ、EU財務相が協議―米ドルへの依存度を低減する狙い

ユーロ圏財務相は2026年2月16日、ユーロ建てステーブルコインの発行とEU共同債の増発を通じて、ユーロの世界的な役割拡大と欧州の経済安全保障強化について協議する。

欧州委員会が作成した文書によると、ユーロは現在21カ国で使用され、世界の通貨準備の約20%を占める世界第2位の準備通貨である一方、ドルは約60%のシェアを持つ。ユーロ建て商品はステーブルコイン市場の1%未満にとどまり、今回の議論は、ドル優位体制に対する欧州の戦略的対応と位置づけることができる。EU共同債の残高は約1兆ユーロ規模とされているが、米国債の約27兆ドルと比べて流動性が低い。ドイツやその他の北欧諸国はEU共同債の増発に消極的または反対している。

ECB総裁のクリスティーヌ・ラガルドはEU首脳会議で改革のチェックリストを提示する予定である。文書は、欧州がVisaとMastercardから独立するために独自の決済システムを構築すべきだと述べている。

From: 文献リンクExclusive-Euro zone ministers to weigh euro-stablecoins, more joint debt issuance to boost role of euro, economic security

【編集部解説】

今回の動きは、単なる技術的な政策議論ではありません。欧州が金融の主権を取り戻そうとする、きわめて戦略的な試みと言えるでしょう。

ステーブルコイン市場におけるユーロの現状は、率直に言って厳しいものがあります。2025年時点で市場全体が約3000億ドル規模に成長する中、ユーロ建てステーブルコインのシェアは1%未満にとどまります。対照的に、ドル建てステーブルコインが市場の99%を占めており、その大半をTetherのUSDTとCircleのUSDCが占めている状況です。

この圧倒的なドル優位には構造的な理由があります。国際貿易の大半がドル建てで行われ、原油や穀物などの商品市場もドルで価格設定されています。さらに、米国債市場は約27兆ドルという桁違いの規模と流動性を誇り、ステーブルコインの裏付け資産として理想的な条件を備えているのです。

一方、EU共同債は約1兆ユーロの残高にとどまります。この規模の差は、単なる数字の問題ではありません。流動性の低さは取引コストの上昇を意味し、大規模な機関投資家にとっての魅力を損なう要因となっています。

ただし、欧州には独自の強みもあります。2024年に段階的に適用が開始されたMiCAR(暗号資産市場規制)は、世界で最も包括的なステーブルコイン規制の枠組みを提供しています。準備資産の管理、発行体の監督、運用基準について明確なルールが定められており、これは投資家保護の観点から評価できるでしょう。

実際、この規制の明確性を背景に、欧州の大手銀行によるQivalisというコンソーシアムが結成され、2026年後半にユーロ建てステーブルコインを発行する計画を進めています。ING、BNPパリバ、ユニクレディットといった銀行が参加するこのプロジェクトは、民間セクターからの具体的な回答と言えます。

潜在的なリスクも見逃せません。規制の厳格さが、逆に市場の柔軟性や革新を妨げる可能性があります。また、ドル建てステーブルコインにはすでに強力なネットワーク効果が働いており、後発のユーロ建て商品が市場シェアを獲得するには相当な困難が予想されます。

とはいえ、長期的な展望は必ずしも悲観的ではありません。S&Pグローバルの分析によれば、ユーロ建てステーブルコインの市場規模は2030年までに250億ユーロから最大1.1兆ユーロへと成長する可能性があるとされています。この成長を牽引するのは、現実資産(RWA)のトークン化と機関投資家による採用です。

欧州委員会が提案する独自決済システムの構築も、戦略の重要な柱となっています。現在、EU域内の電子決済のほとんどがVisaとMastercardで行われていますが、これは決済データや手数料収入が域外に流出していることを意味します。欧州独自のシステムがあれば、データ主権の確保とコスト削減の両面でメリットが期待できるでしょう。

今回の議論が示唆するのは、デジタル時代における通貨の地位が、単に経済規模だけでなく、決済インフラやデジタル資産のエコシステム全体によって決まるという現実です。2月16日の財務相会合は、その長い道のりの第一歩となるかもしれません。

【用語解説】

準備通貨
各国の中央銀行が外貨準備として保有する通貨を指す。国際取引や対外債務の決済、為替介入などに使用される。現在、米ドルが世界の準備通貨の約60%を占め、ユーロが約20%で第2位となっている。

【参考リンク】

欧州委員会(European Commission)(外部)
EUの執行機関。EU法案の起草、政策の実施、加盟国によるEU法の適用監視などを担う。

欧州中央銀行(European Central Bank)(外部)
ユーロ圏の中央銀行。主な任務はユーロ圏における物価の安定維持。金利政策の決定、外貨準備の管理などを行う。

Visa(外部)
米国を本拠とする世界最大級の決済ネットワーク企業。EU域内でも電子決済市場で大きなシェアを持つ。

Mastercard(外部)
米国を本拠とする国際的な決済ネットワーク企業。Visaと並んで世界の電子決済市場を支配している。

【参考記事】

Euro zone ministers eye stablecoin rules and joint debt to boost euro’s global role(外部)
ユーロ圏財務相がユーロ建てステーブルコインと共同債の発行を通じてユーロの国際的地位向上を目指す計画を詳述。

Europe’s finance chiefs will use euro-backed stablecoins and pooled debt to counter US dollar(外部)
欧州の財務責任者が2月16日に会合を開き、ドルの支配に対抗するユーロ建てステーブルコインと共同債の拡大を協議。

Stablecoins on the rise: still small in the euro area, but spillover risks loom(外部)
ECBの分析によれば、ステーブルコイン市場は2800億ドル超。ドル建てが99%を占め、ユーロ建ては約3億9500万ユーロ。

Euro-Backed Stablecoin Value Could Hit €1.1tn by 2030: S&P Global Ratings(外部)
S&Pグローバルの分析。ユーロ建てステーブルコインの総額は2030年までに250億~1.1兆ユーロに成長の可能性。

【編集部後記】

世界の準備通貨としてのドルの地位が揺らぎ始めているのかもしれません。EUがステーブルコインという新しい手段でユーロの存在感を高めようとしている今回の動き、みなさんはどのように受け止めますか。日本円もまた国際通貨としての立ち位置を持つ中で、こうした欧州の戦略的な取り組みから私たちが学べることはあるでしょうか。

決済システムの未来、デジタル通貨の可能性、そして通貨の国際的な力学―この記事をきっかけに、私たちの日常にも影響を及ぼすかもしれない国際金融の変化について、一緒に考えてみませんか。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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