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Tetherが5.4億ドル凍結、トルコ違法賭博捜査に協力──法執行との連携強化が示す「中央集権化」の矛盾

Tetherが5.4億ドル凍結、トルコ違法賭博捜査に協力──法執行との連携強化が示す「中央集権化」の矛盾

Tetherは2026年1月30日、トルコ当局の要請により5億4400万ドル相当のUSDTを凍結した。逃亡中のヴェイセル・シャヒンが運営する違法賭博ネットワークに関連する資産で、イスタンブール検察による地下賭博プラットフォームとマネーロンダリングの捜査に協力した。この押収はTetherによる単独の法執行措置として最大規模の一つで、トルコ当局による取り締まりでは関連捜査全体で10億ドル以上が凍結されている。

Tetherは62カ国で1,800件以上の捜査を支援し、34億ドルのUSDTを凍結してきたことを明らかにした。分析企業Ellipticによると、TetherとCircleは2025年末までに約5,700のウォレット、約25億ドル相当をブラックリストに登録した。ブロックチェーンコンプライアンス企業Bitraceは、2024年に6,490億ドルのステーブルコインが高リスクアドレスを通過し、ステーブルコイン取引総量の5.14%を占めたと報告している。

From: 文献リンクTether Freezes $544M In Turkish Betting Probe Amid Growing Law Enforcement Role

【編集部解説】

今回のトルコにおける5.4億ドル超の凍結は、ステーブルコインが抱える根本的な矛盾を鮮明に浮かび上げています。

Tetherが法執行機関への協力を加速させている背景には、ステーブルコインをめぐる規制環境の急激な変化があります。2025年だけで同社は12.6億ドル相当のUSDTを凍結し、4,163のアドレスをブラックリストに登録しました。これは2023年から2025年の累計凍結額33億ドルのうち、実に3分の1以上が直近1年間に集中していることを意味します。

特筆すべきは、違法活動がTronブロックチェーンに極端に集中している点です。2024年のデータでは、全違法仮想通貨活動の58%にあたる約260億ドルがTron上で行われました。低い手数料と高速な処理速度がその理由ですが、この特性は正当な利用者にとっても犯罪者にとっても等しく魅力的です。

USDTの総供給量の47.4%、約600億ドルがTron上に存在し、凍結されたアドレスの84.2%もTron上に集中しています。北朝鮮のハッカー集団、イランの革命防衛隊(IRGC)関連組織、そして東南アジアの詐欺ネットワークが、主にTron上のUSDTを選好していることが複数の調査で明らかになっています。

これに対しTetherは2024年9月、Tron、TRM Labsと共同でT3金融犯罪対策ユニットを設立しました。このユニットは設立から6ヶ月で1.3億ドル以上の違法資産を凍結するなど、具体的な成果を上げています。

しかし、ここに大きなパラドックスが存在します。仮想通貨の本来の理念は「検閲耐性」「非中央集権性」でした。ところがステーブルコインは、発行体が特定のアドレスを瞬時に凍結できる中央集権的な仕組みを持っています。Tetherはこの能力を活用し、凍結した資金を「バーン」(焼却)し、被害者や当局に「クリーンな」トークンを再発行するという、従来の仮想通貨では不可能だった手法を実現しています。

競合のCircleと比較すると、その差は歴然です。2023年から2025年の期間で、Tetherが33億ドルを凍結したのに対し、Circleは1.09億ドルと約30分の1です。Circleが裁判所命令などの法的手続きを厳格に要求するのに対し、Tetherは法執行機関からの要請に積極的に応じる姿勢を取っています。

この積極的な法執行協力は、Tetherにとって戦略的な意味を持ちます。同社は長年、準備金の透明性や規制コンプライアンスについて批判を受けてきました。しかし今、世界62カ国、300以上の法執行機関と協力する「規制当局の味方」としてのポジションを確立しつつあります。2026年2月時点で報道された200億ドルの資金調達計画(後に50億ドルに縮小)は、5,000億ドルという驚異的な企業評価額を示唆しており、法執行協力の実績がその正当性を支えています。

一方で、USDTは四半期で4.4兆ドルという膨大な取引を処理し、月間アクティブウォレット数は2,480万、世界のステーブルコイン保有アドレスの約70%を占めています。2025年第4四半期には市場規模が1,873億ドルに達し、他のステーブルコインが苦戦する中で124億ドル成長しました。

つまりTetherは、圧倒的な市場支配力を持つ決済インフラでありながら、同時に法執行機関が犯罪資金を遮断できる「チョークポイント」という二重の役割を担っているのです。

この構造が投げかける問いは重大です。中央集権的な凍結能力は、犯罪対策として必要不可欠である一方、プライバシーと検閲への懸念も生じさせます。2025年には、ブルガリア警察の要請で4,470万ドルのUSDTが凍結された件で、Tetherが訴訟を起こされた事例もあります。

仮想通貨エコシステムは今、「純粋な非中央集権性」と「実用的な規制順守」の間で新たなバランスを模索しています。Tetherの選択は、ステーブルコインが主流金融システムに統合されるための代償として、一定の中央集権的管理を受け入れるというものです。この選択が業界全体の将来を形作る可能性があります。

【用語解説】

ステーブルコイン
法定通貨(主に米ドル)に価格が連動するよう設計された暗号資産。価格変動が激しいビットコインなどと異なり、1トークン=1ドル程度の価値を維持する。USDTやUSDCが代表例で、仮想通貨取引の基軸通貨や国際送金の手段として広く利用されている。

ブロックチェーン
取引記録を分散管理する技術。複数のコンピュータが同じ取引履歴を共有し、改ざんが困難な仕組みを実現する。EthereumやTronなど、異なる設計思想を持つ複数のブロックチェーンが存在し、それぞれ手数料や処理速度が異なる。

バーン(焼却)
暗号資産を永久に使用不可能にする処理。Tetherは凍結したUSDTをバーンし、同額の新しいトークンを被害者や法執行機関に再発行する独自の仕組みを持つ。これによりブロックチェーン上から違法資金を完全に除去できる。

アドレス
暗号資産を送受信するための識別番号。銀行口座番号に相当するもので、ブロックチェーン上では公開情報として記録される。法執行機関はこのアドレスを追跡することで資金の流れを把握できる。

IRGC(イラン革命防衛隊)
イランの軍事組織で、米国などから経済制裁の対象とされている。調査によると、IRGC関連組織は主にTron上のUSDTを使用し、2023年から2025年の間に約10億ドル相当の取引を行ったとされる。

【参考リンク】

Tether(外部)
世界最大のステーブルコイン発行体。時価総額1,873億ドルで62カ国300以上の法執行機関と協力。

Circle(外部)
USDCを発行するステーブルコイン企業。裁判所命令など法的手続きを厳格に要求する保守的アプローチ。

Elliptic(外部)
ブロックチェーン分析専門企業。金融機関や法執行機関にコンプライアンスソリューションを提供。

TRM Labs(外部)
ブロックチェーンインテリジェンス企業。Tether、Tronと共同でT3金融犯罪対策ユニットを運営。

Bitrace(外部)
ブロックチェーンコンプライアンス企業。2024年のステーブルコイン高リスク取引を分析報告。

【参考記事】

Crypto Giant Tether Aided Turkey in Billion Dollar Crackdown(外部)
Tether CEOへのインタビューを含む主要報道。トルコ当局の捜査への協力を確認。

$1.26 Billion Frozen: USDT Blacklisting on Ethereum and Tron in 2025(外部)
2025年にTetherが12.6億ドルを凍結、4,163アドレスをブラックリスト化した詳細分析。

Stablecoin Freezes 2023–2025: Data Analysis of USDT vs USDC(外部)
2023〜2025年のTetherとCircleの凍結活動を比較。約30倍の規模差を報告。

Over half of illicit crypto activity in 2024 was on Tron: TRM Labs(外部)
2024年の違法仮想通貨活動の58%(260億ドル超)がTron上で発生したことを報告。

2026 Crypto Crime Report – Illicit Crypto Trends & Typologies(外部)
TRM Labsの年次報告書。イランIRGC関連組織のTron上USDT使用を詳述。

Tether Freezes $3.3 Billion in USDT, Blacklists 7,268 Addresses (2023–2025)(外部)
2023〜2025年にTetherが33億ドル凍結、7,268アドレスをブラックリスト化。

Nearly $1.26 Billion Frozen: How to Prevent USDT Freeze Risks(外部)
2025年の凍結資金の55.6%が永久バーン、3.6%のみ凍結解除という詳細分析。

Attorney on Why Tether Might Freeze USDT and How to Respond(外部)
Tetherの凍結ポリシーと法執行機関との協力関係について法的観点から詳述。 

【編集部後記】

ステーブルコインが「検閲耐性」という仮想通貨の本来の理念と、「犯罪対策」という社会的要請の間で揺れています。Tetherの積極的な凍結姿勢は、私たちにとって安心材料なのでしょうか、それとも懸念すべき中央集権化なのでしょうか。月間2,480万のアクティブウォレットを持つUSDTは、もはや単なる投機的な資産ではなく、多くの人々の日常決済や国際送金を支える「インフラ」になりつつあります。

この巨大なインフラに対して、一企業がアドレスを瞬時に凍結できる仕組みは、果たして持続可能なのか。みなさんはどう考えますか。私たち編集部も、この問いへの明確な答えを持っているわけではありません。ただ、この構造的な矛盾が、今後の金融システムの形を大きく左右していくことは間違いないでしょう。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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