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Bithumb、620,000 BTC誤配布で韓国当局が調査開始─「ペーパーBitcoin」問題が浮き彫りに

Bithumb、620,000 BTC誤配布で韓国当局が調査開始──「ペーパーBitcoin」問題が浮き彫りに

韓国の金融監督院(FSS)は、Bithumbが620,000 BTC(428億ドル)をユーザーアカウントに誤って付与した件で調査を開始した。Yonhap Newsが2月10日に報じた。

Bithumbは土曜日にこの事件を認め、プロモーションイベント中に発生したと説明した。従業員が通貨単位として「ウォン」の代わりに「BTC」と誤入力し、2,000韓国ウォン(1.40ドル)を付与する予定がユーザーあたり2,000 BTCとなった。

取引所は誤付与されたBTCのほとんどを回収したが、約125 BTC(860万ドル)が未決済である。Bithumbの実際の保有は約41,798 BTCで、仮想的に付与された620,000 BTCを大きく下回る。

CryptoQuantのアナリスト、マールトゥンによると、約3,875 BTC(約2億6800万ドル)が取引所から引き出された。FSSはウォレット保有量とアカウント残高の不一致、内部統制の不備を指摘している。

From: 文献リンクSouth Korea probes Bithumb after $43B ‘phantom’ Bitcoin payout

【編集部解説】

今回のBithumbの事故は、暗号資産取引所が抱える構造的な脆弱性を白日の下にさらしました。

最も衝撃的だったのは、実際には保有していない資産を顧客口座に表示できてしまったという事実です。Bithumbの実際の保有量は約41,798 BTCでしたが、システム上では620,000 BTCという約15倍の量を一時的に「存在」させてしまいました。これは中央集権型取引所(CEX)における「残高の数字」と「実際の資産」の乖離が、いとも簡単に発生しうることを証明しています。

この事件で再び注目されているのが「ペーパーBitcoin」という概念です。ブロックチェーン上に実在しないBitcoinが、取引所の内部システムやETF、デリバティブといった金融商品として取引される現象を指します。2025年の暗号資産デリバティブ市場は86兆ドル規模に達し、現物取引の90-95%を占めるまでに成長しました。この巨大な「紙の上のBitcoin」市場が、実物資産の価格発見メカニズムにどのような影響を及ぼすのか、業界全体で懸念が高まっています。

事故発生時の対応スピードは評価に値します。Bithumbは35分で問題を認識し、99.7%を回収しました。しかし、それでも約125 BTC(860万ドル)が未回収であり、一人の従業員による入力ミスが数百万ドル規模の損失につながりうることを示しました。

韓国金融監督院が特に問題視しているのは、単一障害点(Single Point of Failure)の存在です。一人の担当者が承認プロセスなしに大規模な資産移動を実行できる体制は、明らかに内部統制の欠陥と言えます。

2022年のFTX破綻以降、業界では「準備金証明(Proof of Reserves)」の重要性が叫ばれてきました。定期的な第三者監査と暗号学的証明により、取引所が顧客資産を実際に保有していることを検証する仕組みです。しかし今回の事件は、準備金証明だけでは不十分であることを示唆しています。リアルタイムでの残高管理、複数承認プロセス、異常検知システムといった多層的な安全装置が必要です。

この事件が発生した2026年2月は、Bitcoin市場が激しく揺れ動いていた時期でもあります。2025年10月のピークから約43%下落し、ETF投資家は70億ドル規模の含み損を抱えていました。市場の信頼が揺らいでいる最中にこのような事故が起きたことで、投資家の不安はさらに増幅されました。

今後、韓国だけでなく世界中の規制当局が、取引所に対してより厳格な内部統制と透明性を求めていくことは間違いありません。EUのMiCA規制や各国の仮想資産法制の強化により、業界は新たな成熟のフェーズに入りつつあります。

この事件は、暗号資産業界が「コードは法である」という理想と、「人間のミスは避けられない」という現実の間で、どのようにバランスを取るべきかという根本的な問いを投げかけています。

【用語解説】

ペーパーBitcoin
ブロックチェーン上には実在しないが、取引所の内部システムや金融商品(ETF、デリバティブなど)として取引されるBitcoinのこと。実物資産の裏付けなしに取引される「紙の上のBitcoin」を指し、価格形成や市場の透明性に影響を与える可能性がある。

中央集権型取引所(CEX: Centralized Exchange)
企業が運営する暗号資産取引所。ユーザーは資産を取引所に預け、取引所が管理する。利便性が高い反面、運営企業への信頼が必要であり、内部統制の不備やハッキングリスクが存在する。

準備金証明(Proof of Reserves)
取引所が顧客の預かり資産を実際に保有していることを、暗号学的手法や第三者監査によって証明する仕組み。2022年のFTX破綻以降、透明性確保の手段として重要視されている。

単一障害点(Single Point of Failure)
システムや組織において、一つの要素が故障・ミスした場合に全体が機能不全に陥る脆弱な構造のこと。今回の事件では、一人の従業員による入力ミスが大規模な誤配布につながった。

金融監督院(FSS: Financial Supervisory Service)
韓国の金融監督機関。銀行、証券、保険、暗号資産取引所などの金融機関を監督し、市場秩序の維持と投資家保護を担う。

【参考リンク】

Bithumb(外部)
韓国最大級の暗号資産取引所。今回のプロモーションイベント誤配布事件により内部統制体制の見直しを迫られている。

CryptoQuant(外部)
暗号資産市場のオンチェーンデータ分析プラットフォーム。取引所準備金やウォレット間資金移動を可視化する。

Cointelegraph(外部)
2013年設立の暗号資産専門ニュースメディア。ブロックチェーン技術、市場動向、規制情報を多言語で報道。

【参考記事】

South Korean crypto firm accidentally sends $44 billion in bitcoins to users(外部)
Reutersによる報道。620,000 BTC誤配布事件の概要と韓国金融当局の対応を詳細に報じている。

Bitcoin blunder: South Korean crypto exchange Bithumb investigated(外部)
韓国金融監督院院長のコメントを引用し「仮想データが実際に取引された」という問題の本質を指摘。

An “epic” blunder: Bithumb mistakenly sends 620,000 BTC(外部)
事故発生から35分で対応開始し99.7%回収したBithumbの対応を詳述。1,788 BTCが売却された。

Bitcoin’s Paper Supply Paradox(外部)
2025年の暗号資産デリバティブ市場が86兆ドル規模に達し現物取引の90-95%を占めると分析。

Bybit’s 29th Proof of Reserves(外部)
FTX破綻以降の準備金証明の重要性を解説。第三者監査と暗号学的証明による透明性確保を紹介。

【編集部後記】

今回の事件は、私たちが日常的に利用している取引所の「残高表示」が、必ずしも実物資産と一致していないかもしれないという現実を突きつけました。

みなさんは、ご自身が利用している取引所が定期的に準備金証明を公開しているか確認されたことはありますか?利便性と引き換えに、どこまでのリスクを許容するのか。あるいは、自己管理型ウォレットへの移行も視野に入れるべきなのか。

暗号資産が金融の未来を切り拓く可能性を信じるからこそ、こうした問題から目を背けず、一緒に考えていきたいと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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