2月13日の報道によると、ブロックチェーン分析プラットフォームArkham Intelligenceのデータから、ブータン王国政府が100BTC(約670万ドル相当)を売却したことが明らかになった。
送金先はQCP関連のWBTCマーチャント入金アドレスと特定されている。これで3週連続のビットコイン売却となり、過去数週間には184BTCや100BTC単位での移動も確認されている。Arkhamは2025年9月にも同国が少なくとも1億ドル相当のBTCを売却したと報告しており、構造的な売却戦略が継続していることが示唆される。
ブータンのビットコイン準備金は国家支援のマイニング事業に由来し、Bitdeer Technologiesとの提携で最大600メガワットへの拡大計画を発表していた。しかし2024年4月の半減期以降、マイニング流入は減速している。現在もブータンは約5,600BTC(約3億7,200万ドル相当)を保有しており、世界有数のソブリン・ビットコイン保有国に位置づけられている。
From:
Bhutan’s Bitcoin sales enter third straight week with $6.7M BTC offload
(編集部ファクトチェック及び校正済み)一部不適切な表現があったため修正致しました。お詫び申し上げます。
【編集部解説】
今回の売却を正しく理解するためには、ブータンがなぜビットコインを保有しているのか、その背景から知る必要があります。
ブータンは2019年頃から、国家の投資機関であるDruk Holding and Investments(DHI)を通じて、余剰の水力発電エネルギーを活用したビットコインマイニングを開始しました。ヒマラヤの豊富な水資源から生まれるクリーンな電力を、デジタル資産に変換するという発想です。人口約80万人の国が、化石燃料に頼らず「グリーンマイニング」を国策として実践してきた点は、世界的にも注目に値します。
この戦略は具体的な成果をもたらしています。2023年には1億ドル相当のビットコインを売却し、公務員の給与を大幅に引き上げる原資に充てました(引き上げ幅については、首相インタビューを報じたAl Jazeeraは「倍増」、他の複数メディアは「50%増」と報道)。パンデミック後の観光業低迷や若年層の海外流出(2022年には熟練労働者の約10%が出国)という深刻な課題に対し、ビットコインが「経済安定装置」として機能した形です。実際に2024年第1四半期の公務員の離職者数は約500人へと減少し、2023年同期の約1,900人から大幅に改善しました。
今回報じられた3週連続の売却は、こうした文脈の中で読み解くべきものです。670万ドルという金額はビットコインの1日の取引高に対してごくわずかであり、市場への影響は限定的と見られます。QCP Capitalなどのマーケットメイカーを経由した構造的な送金パターンからも、パニック的な投げ売りではなく、計画的な国庫管理であることがうかがえます。
ただし、注視すべき点もあります。2024年10月時点で約13,295BTCあった保有量は、現在約5,600BTCにまで減少しています。2024年4月の半減期でブロック報酬が半減し、マイニングコストが実質的に倍増したことで、新規のビットコイン蓄積が鈍化しているためです。収入が減る中で支出(公務員給与やインフラ整備)が増えれば、準備金の取り崩しペースは加速します。
ブータンのこの取り組みには、より広い視点から見た意義があります。「国家がビットコインをバランスシート上の資産としてどう管理するか」という問いに対する、一つの実証実験になっているということです。エルサルバドルのようなビットコインの法定通貨化とは異なり、ブータンはマイニングで自ら生成したビットコインを外貨準備に近い形で運用しています。
一方で、ビットコイン価格の急落は国家財政に直接影響を与えるリスクを常にはらんでいます。公式な情報開示が限定的で、オンチェーンデータからの推測に依存している点も課題として残ります。再生可能エネルギーとデジタル資産の組み合わせという先進的なモデルが、長期的に持続可能かどうかは、今後のビットコイン市場の動向とブータンの財政規律にかかっているといえるでしょう。
【用語解説】
オンチェーンデータ
ブロックチェーン上に記録されたすべての取引情報のこと。送金額、送金先アドレス、タイムスタンプなどが含まれ、誰でも閲覧・検証できる。今回のブータン政府の売却もこのデータから特定された。
WBTC(Wrapped Bitcoin)
ビットコインをEthereum上で利用可能にしたERC-20トークン。1WBTCは1BTCと同等の価値を持ち、DeFiプロトコルでの運用を可能にする。ブータンの送金先がWBTCマーチャントアドレスとされている点から、BTCをWBTCに変換して流動性を確保している可能性がある。
ビットコイン半減期(Halving)
約4年ごとにマイニング報酬が半分に削減されるビットコインのプログラム上の仕組み。2024年4月の半減期では、ブロック報酬が6.25BTCから3.125BTCに減少した。これによりマイニングの収益性が低下し、ブータンの売却戦略にも影響を与えている。
ソブリン・ビットコイン保有国
国家(政府)としてビットコインを保有する国のこと。米国や英国は主に法執行機関による押収を通じて取得しているのに対し、ブータンはマイニングにより自ら生成している点が特徴的である。
マーケットメイカー
金融市場において売買の流動性を提供する業者。記事に登場するQCP Capitalはシンガポール拠点の暗号資産トレーディングファームで、ブータンのBTC送金先として特定されている。
【参考リンク】
Arkham Intelligence公式サイト(外部)
ブロックチェーン上のウォレットやトランザクションを追跡・分析するプラットフォーム。政府や機関投資家のオンチェーン活動の可視化に強みを持つ。
Druk Holding and Investments(DHI)公式サイト(外部)
ブータン王国政府の商業投資部門。2019年からビットコインマイニング事業を開始し、国内6カ所以上の施設を運営。
Bitdeer Technologies公式サイト(外部)
Nasdaq上場のマイニングテクノロジー企業。2023年にDHIと5億ドル規模の提携を結びカーボンフリーマイニングを推進。
QCP Capital公式サイト(外部)
シンガポール拠点の暗号資産トレーディングファーム。ブータン政府のBTC送金先として複数回特定されている。
Bitcoin Treasuries(外部)
各国政府や企業のビットコイン保有量を一覧で追跡するデータサイト。ブータンの保有状況も掲載されている。
【参考記事】
Bhutan Sells $6.7M in Bitcoin, Still Holds $372M(外部)
ブータンの平均取得コストが1BTC約8,000ドルと推定。アナリストが計画的売却と分析したCoinpediaの報道。
Bhutan Continues Bitcoin Sales(外部)
2019年以降のマイニング利益が7億6,500万ドル超、エネルギーコスト約1億2,000万ドルと報じたBitcoin Magazine記事。
Bhutan Continues Strategic Bitcoin Sell-Off With Latest 100 BTC Sale(外部)
2024年10月の保有量約13,295BTCや2023年のマイニング生産量約8,200BTCなどの詳細を報じたThe Crypto Times記事。
Can Bitcoin save Bhutan’s struggling economy?(外部)
首相インタビューをもとに公務員給与倍増と離職者減少を報じたAl Jazeeraの包括的特集記事。
Bhutan’s Sustainable Bitcoin Mining Fuels Salary Hikes, Healthcare Initiatives(外部)
2023年6月にBTC保有から7,200万ドルを充当し公務員給与50%引き上げを実施したと報じたAiCoinの記事。
Bhutan moves Bitcoin to trading firms and exchanges as BTC drops(外部)
3カ月の沈黙後に184BTCがQCPやBinanceへ送金された経緯を報じたCoinDeskの市場分析記事。
Gambling to develop: A small, landlocked economy takes the plunge(外部)
ブータンの10X経済ビジョンとマイニング・GMC戦略を分析したBrookings Institutionの研究レポート。
【編集部後記】
「国の幸福度」を重視することで知られるブータンが、水力発電とビットコインマイニングという組み合わせで国家経済を支えている——この事実に驚かれた方も多いのではないでしょうか。
再生可能エネルギーの余剰分をデジタル資産に変換するという発想は、資源に恵まれた国ならではの生存戦略とも言えます。みなさんは、国家がビットコインを「戦略的準備資産」として運用するこの流れ、どこまで広がると思いますか?






































