日本の金融市場が大きく動き出した。野村證券、大和証券、そして3メガバンクが手を組み、国債や上場株式といった「伝統的資産」をブロックチェーン上で取引する実証実験が、金融庁の支援を受けてスタートする。
野村證券、大和証券、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループの5社が協働して取り組む実証実験が、2026年2月13日に金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件として採択された。
本実証では、ブロックチェーン技術とデジタルマネーを活用し、国債、上場株式、投資信託、社債などの伝統的資産の取引、権利移転、決済の高度化を実証する。証券会社間取引において振替口座簿の記録とブロックチェーン上のデータを同期させ、スマートコントラクトを用いて法律上の権利を移転する仕組みを検証する。
決済には、参加する3行のグループ銀行が共同発行を検討するステーブルコイン「3メガSC」の活用を想定する。本実証は特定事業者の独占とならず、金融機関が自由に活用できる業界横断型の枠組みである。
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ブロックチェーン×デジタルマネーによる伝統的資産の取引と権利移転に係る実証実験が金融庁「FinTech実証実験ハブ」の支援案件に採択
【編集部解説】
今回の実証実験は、日本の金融市場にとって極めて重要な一歩となります。
これまで国内でブロックチェーンを活用した有価証券といえば、主にセキュリティトークンとして不動産証券化商品や一部の社債に限定されていました。対して今回は、国債や上場株式といった「伝統的資産」をブロックチェーンで扱う初の本格的な試みです。これらの資産は既に確立された振替機関による権利者管理と市場インフラが存在するため、単純にトークン化するだけでは済まない複雑さがあります。
本実証の技術基盤には、三菱UFJ信託銀行などが主導する「Progmat(プログマ)」が活用される見通しです。Progmatは日本最大のトークン化プラットフォームで、現在315の企業・団体が参加するDigital Asset Co-Creation Consortium(DCC)を運営しています。このプラットフォーム上で、従来の振替口座簿の記録とブロックチェーン上のデータを同期させ、スマートコントラクトを用いて法律上の権利を移転する仕組みを検証します。
決済手段として想定される「3メガSC」は、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行が2025年10月に共同発行を発表した円建てステーブルコインです。当初は三菱商事の社内・社外資金決済での利用から始まり、今年度内の実用化を目指しています。今回の実証では、このステーブルコインと振替有価証券をブロックチェーン上で同時移転させることで、決済の即時性と効率性を検証します。
国際的な文脈で見ると、海外では既に国債や株式のトークン化検討が進展しており、24時間365日取引や国境を越えた取引が現実のものとなりつつあります。日本政府も2026年の通常国会で地方債のデジタル化に関する法案提出を計画しており、官民を挙げたデジタル証券市場の整備が加速しています。
この実証実験の最大の特徴は、特定事業者の独占とならない「業界横断型」の枠組みである点です。金融機関が自由に参画できる共通インフラを目指すことで、日本の金融市場全体の国際競争力を高める狙いがあります。
実現すれば、証券取引のリードタイム短縮、コスト低減、決済リスクの軽減といった恩恵が期待できます。一方で、既存の市場インフラとの整合性、法的な権利関係の明確化、サイバーセキュリティ対策など、解決すべき課題も多く残されています。金融庁の「FinTech実証実験ハブ」による支援は期限を設けていないことから、十分な検証時間を確保しながら慎重に進められる見通しです。
【用語解説】
ブロックチェーン技術
データを暗号化して分散管理する技術。改ざんが極めて困難で、取引記録の透明性と信頼性を高める。金融取引だけでなく、サプライチェーン管理や医療記録管理など幅広い分野での応用が進んでいる。
スマートコントラクト
ブロックチェーン上で動作するプログラムで、事前に定めたルールに従って取引や状態更新を自動的に実行する。人の介在なしに契約条件を履行できるため、取引コストの削減と効率化が期待される。
ステーブルコイン
法定通貨や資産に価値を連動させた暗号資産。価格変動が激しいビットコインなどと異なり、価値が安定しているため決済手段として利用しやすい。今回の「3メガSC」は円建てのステーブルコインである。
振替口座簿
有価証券の権利者を管理するための電子的な帳簿。証券保管振替機構(ほふり)などの振替機関が管理し、証券の所有権移転はこの口座簿への記録によって行われる。日本の証券市場の基幹インフラである。
セキュリティトークン
ブロックチェーン上で発行されるデジタル証券。不動産や社債など、従来の有価証券をトークン化したもの。小口化や24時間取引が可能になるなど、従来の証券にはない特性を持つ。
業界横断型
特定の企業や団体が独占するのではなく、業界内の複数の事業者が共同で利用できる仕組み。今回の実証実験では、金融機関が自由に参画できる共通インフラを目指している。
DCC(Digital Asset Co-Creation Consortium)
デジタル資産の共創を目指すコンソーシアム。Progmatプラットフォームを中心に、2026年時点で315の企業・団体が参加し、日本のデジタル証券市場の標準化を推進している。
【参考リンク】
野村ホールディングス(外部)
日本を代表する総合金融グループ。証券、アセットマネジメント、投資銀行業務を展開し、今回の実証実験で主導的役割を担う。
大和証券グループ(外部)
国内大手証券会社。リテールからホールセール業務まで幅広く展開し、デジタル証券分野でも積極的な取り組みを進めている。
みずほフィナンシャルグループ(外部)
三大メガバンクの一角。銀行、信託、証券を中心とした総合金融サービスを提供し、3メガSCの共同発行に参画している。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(外部)
日本最大の金融グループ。Progmatプラットフォームの開発を主導する三菱UFJ信託銀行を傘下に持つ。
三井住友フィナンシャルグループ(外部)
三大メガバンクの一角。国内外で銀行、証券、リース、クレジットカード事業を展開し、3メガSCと実証実験に参画。
【参考記事】
金融庁、ステーブルコイン決済の実証実験を支援 株式・国債など(外部)
ロイターによる本実証実験の報道。金融庁が支援案件として採択したこと、5社が参画することを報じている。
3メガ銀と連携しステーブルコイン活用の証券即時決済を実証へ(外部)
ビジネス+IT誌による詳細記事。3メガバンクのステーブルコインと証券決済の連携実証を技術的側面から解説。
ブロックチェーン活用の国債・上場株取引で実証実験を開始(外部)
FinWaveによる解説記事。振替制度とブロックチェーン連携、業界横断型の枠組みである点を詳述している。
メガ3行がステーブルコインを発行へ(外部)
野村総合研究所による分析記事。3メガバンクの円建てステーブルコイン共同発行計画の背景と今後の展望を解説。
Nomura, Daiwa, Japan’s big 3 banks to test stablecoin securities settlement(外部)
Ledger Insightsによる英語記事。本実証実験を国際的な文脈で分析し、世界的トレンドとの連動を指摘。
Japan’s Progmat, backed by big 3 banks, plans tokenized stocks in 2026(外部)
Progmatプラットフォームの詳細と315企業が参加するDCCについて解説。2026年の上場株式トークン化計画にも言及。
Japan to tokenize local government bonds(外部)
日本政府による地方債デジタル化計画を報道。2026年通常国会での法案提出など官民のデジタル証券市場整備の動きを伝える。
【編集部後記】
今回の実証実験は、私たちが日常的に触れる株式や国債といった「当たり前」の金融商品が、根本から変わり始める転換点かもしれません。24時間365日取引できる証券市場、即時決済される投資信託――そんな未来が現実味を帯びてきました。
一方で、既存の金融インフラとの共存や、セキュリティ面での課題など、まだ見えていない部分も多くあります。みなさんは、この「伝統と革新の融合」にどんな可能性を感じますか?また、どんな不安や疑問を持たれるでしょうか。ぜひSNSで、率直なご意見をお聞かせいただけると嬉しいです。






































