株式会社りそなホールディングスは、株式会社デジタルガレージ(DG)、株式会社ジェーシービー(JCB)、マイナウォレット株式会社と共同で、実店舗におけるステーブルコイン(SC)決済の実証実験を2026年2月24日から3月2日まで実施する。
会場はDGが運営する「Pangea Café & Bar」で、平日14時以降の営業時間内に限定される。対象アセットは日本円建てSCの「JPYC」(Polygonブロックチェーン)と米ドル建てSCの「USDC」(Baseブロックチェーン)の2種類で、それぞれマイナウォレットとBase Appのデジタルウォレットを使用する。
店舗側の受取通貨は日本円である。3社は2026年1月16日にSC決済の社会実装に向けた協業で基本合意しており、本実証実験を通じて技術面・運用面の知見を蓄積し、将来的には訪日外国人を含む幅広いユーザーがSCを日常決済に利用できる社会の実現を目指す。
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ステーブルコイン決済の実証実験の実施について|りそなホールディングス
【編集部解説】
今回の実証実験は、日本の大手銀行グループであるりそなホールディングス、国際カードブランドのJCB、決済テクノロジー企業のデジタルガレージ、そしてweb3スタートアップのマイナウォレットという、異なるレイヤーのプレイヤーが一堂に会した点に大きな意味があります。ステーブルコインを「実店舗のレジで使う」という一見シンプルな行為の裏側には、ブロックチェーン処理、為替換算、加盟店精算、KYC(本人確認)といった複雑な工程が存在し、これらを一気通貫で検証する取り組みは国内でも先駆的といえます。
今回使用されるJPYCは、2025年10月27日にJPYC Inc.が発行を開始した日本初の規制準拠型円建てステーブルコインです。資金移動業者として金融庁に登録され、裏付け資産は日本円預金と日本国債で100%担保されています。一方のUSDCは、米Circle社が発行する米ドル建てステーブルコインで、Coinbaseが開発したLayer2チェーン「Base」上で動作します。円建てと米ドル建ての両方を同一店舗で扱う設計は、将来的なインバウンド決済への布石として注目に値します。
デジタルウォレットにも注目すべき特徴があります。JPYC決済に使われる「マイナウォレット」は、マイナンバーカードと公的個人認証サービス(JPKI)を活用したセルフカストディ型ウォレットです。利用者が自分自身で秘密鍵を管理するこの方式は、取引所やカストディアンに資産を預ける従来型とは異なり、web3の思想に沿ったアプローチといえます。決済インターフェースとして「マイナペイ」というQRコード決済の仕組みが提供され、店舗側は日本円で売上を受け取れる設計となっています。
グローバルな文脈で見ると、ステーブルコイン市場は急速に拡大しています。Citiの推計では2025年時点で時価総額は約2,820億ドルに達し、2020年の280億ドルからわずか5年で10倍に成長しました。米国では2025年7月にGENIUS法が成立し、ステーブルコイン発行者に対する連邦レベルの規制枠組みが整備されています。EUのMiCA、シンガポールのMASフレームワーク、香港のステーブルコイン条例と合わせ、主要国・地域で規制の明確化が急速に進んでいます。
日本でも2022年6月に成立し2023年6月に施行された改正資金決済法でステーブルコインが「電子決済手段」として法的に定義され、2025年にはさらなる改正法(令和7年法律第66号)が成立しました。この改正により、信託型ステーブルコインの裏付け資産の最大50%を国債や定期預金で運用できるようになり、発行者のビジネスモデルの幅が広がっています。金融庁は2026年3月5日を期限としたパブリックコメントで、準備金に利用可能な債券の適格要件についても意見を募集中です。
ポジティブな側面として、ステーブルコイン決済はクレジットカードと比較して加盟店手数料の大幅な削減が期待できます。また、訪日外国人にとっては両替の手間やコストが軽減される可能性があります。JCBが持つ全世界1億7,500万人以上の会員基盤と約7,100万店の加盟店ネットワークが将来的に活用されれば、スケーラビリティの面でも大きなアドバンテージとなるでしょう。
一方で、潜在的なリスクも存在します。ステーブルコインの決済速度はブロックチェーンのネットワーク状況に左右されるため、混雑時のユーザー体験の低下が課題となりえます。また、AML/CFT(マネーロンダリング・テロ資金供与対策)の観点では、セルフカストディ型ウォレットの匿名性と規制上のトラベルルール遵守をどう両立させるかが論点です。さらに、USDCを使った決済では為替変動リスクが店舗側または利用者側に発生する構造的な問題も残ります。
今回はあくまで渋谷パルコDGビル内の1店舗、1週間という限定的なパイロットです。しかし、りそなグループの広範な顧客基盤、JCBの加盟店ネットワーク、デジタルガレージ傘下のCrypto Garageが持つ暗号資産交換業ライセンスという組み合わせは、実証から社会実装へスケールさせるための要素が揃っていることを示しています。日経新聞の報道によれば、3社は2027年度の実用化を目指しています。
日本はメガバンク3行(MUFG・SMBC・みずほ)によるステーブルコイン共同発行プロジェクトや、SBIホールディングスとStartale Groupによる規制準拠型円建てステーブルコインの開発など、複数の大型プロジェクトが並行して進行しています。伝統的金融機関がブロックチェーン技術を「代替」ではなく「統合」するインフラとして受け入れつつある転換点を、私たちは今まさに目撃しているといえるでしょう。
【用語解説】
ステーブルコイン(Stablecoin)
法定通貨(日本円や米ドルなど)に価値を連動させたデジタル通貨の総称。ビットコインなどの暗号資産と異なり価格変動が極めて小さく、決済や送金手段としての実用性が高い。日本の資金決済法上は「電子決済手段」に分類される。
セルフカストディ型ウォレット
利用者自身が秘密鍵を管理するデジタルウォレットのこと。取引所などの第三者に資産を預けるカストディ型とは異なり、資産の管理権が完全に利用者側にある。web3の分散思想に基づいた設計である。
Polygonブロックチェーン
Ethereumのスケーラビリティ問題を解決するために開発されたスケーリングソリューション。低コスト・高速なトランザクション処理が可能で、JPYCの発行基盤の一つとして採用されている。
Baseブロックチェーン
米Coinbaseが開発したEthereum Layer2チェーン。OP Stackを基盤とし、低手数料かつ高速な処理を実現する。今回の実証実験ではUSDC決済の基盤として使用されている。
QRコード決済(マイナペイ)
マイナウォレットが提供する決済インターフェース。店舗側がQRコードを表示し、利用者がスマートフォンのウォレットアプリで読み取ることでステーブルコイン決済を行う仕組みである。
資金決済法(Payment Services Act)
日本における電子マネーや暗号資産、ステーブルコインなどの取り扱いを規定する法律。2022年6月の改正(2023年6月施行)でステーブルコインが「電子決済手段」として法的に定義され、2025年にはさらなる改正が行われた。
GENIUS法(GENIUS Act)
2025年7月に米国で成立したステーブルコイン規制法。発行者に対する準備金・監査・財務健全性の要件を定めた連邦レベルの枠組みであり、グローバルなステーブルコイン規制の基準となりつつある。
AML/CFT
Anti-Money Laundering(マネーロンダリング防止)/ Countering the Financing of Terrorism(テロ資金供与対策)の略称。金融機関やステーブルコイン発行者に求められる規制遵守の枠組みである。
トラベルルール
暗号資産やステーブルコインの送金時に、送金者・受取人の情報を事業者間で共有することを義務づける国際的な規制。FATF(金融活動作業部会)の勧告に基づく。
【参考リンク】
りそなホールディングス 公式サイト(外部)
りそな銀行等を傘下に持つ金融持株会社。デジタル技術を活用した金融サービスの革新に取り組んでいる。
デジタルガレージ 公式サイト(外部)
東証プライム上場のテクノロジー企業。決済事業やweb3領域に強みを持ち、今回のプロジェクト全体を統括する。
JCB 公式サイト(外部)
日本発の国際カードブランド。全世界1億7,500万以上の会員と約7,100万店の加盟店ネットワークを持つ。
マイナウォレット 公式サイト(外部)
マイナンバーカードをデジタル資産ウォレットとして活用するweb3スタートアップ。QRコード決済「マイナペイ」を提供。
JPYC EX(JPYC株式会社)公式サイト(外部)
日本初の規制準拠型円建てステーブルコイン「JPYC」の発行・償還プラットフォーム。関東財務局長登録済み。
Base 公式サイト(外部)
米Coinbaseが開発したEthereum Layer2ブロックチェーン。低手数料・高速処理を特徴とするオープンなプラットフォーム。
USDC(Circle)公式サイト(外部)
米Circle社が発行する米ドル建てステーブルコイン。完全な準備金裏付けのもと複数のブロックチェーンで展開されている。
【参考記事】
Startup JPYC Launches First Yen-Pegged Stablecoin in Japan(外部)
2025年10月に世界初の円ペッグSC「JPYC」が発行開始。3年で10兆円の発行目標や国債裏付けの仕組みを報じている。
Visualized: Stablecoin Market Size Forecast into 2030(外部)
Citiレポートに基づき、SC市場が2020年の280億ドルから2025年に約2,820億ドルへ10倍成長した推移を可視化。
Global stablecoin regulations 2026: What enterprises need to know(外部)
米GENIUS法、EU MiCA、日本の資金決済法など主要国のSC規制の全体像を網羅的にまとめた解説記事。
Japan’s regulator seeks public input on bonds eligible for stablecoin reserves(外部)
金融庁がSC準備金に利用可能な債券の適格要件についてパブリックコメントを募集中であることを報じた記事。
2025 Crypto Regulatory Round-Up(外部)
Chainalysisによる2025年グローバル暗号資産規制の総括。GENIUS法成立がSC政策を加速させた経緯を解説。
Stablecoin Market Growth 2026: Insights from Stablecoin Insider(外部)
SCの年間取引高が2025年に33兆ドルに到達。2026年末までに流通額1兆ドル超えの予測を報告している。
Crypto Regulation in Japan 2025: From FSA Rules to Tokyo’s Web3 Hub(外部)
日本のSC規制の経緯を時系列で整理。2022年改正法成立から2025年JPYC発行開始までの流れを網羅している。
【編集部後記】
ステーブルコインで「カフェのコーヒーを買う」——そんな日常が、もうすぐ現実になるかもしれません。今回の実証実験はわずか1週間、1店舗の小さな取り組みですが、銀行・カードブランド・web3スタートアップが手を組んだ座組みには、未来の決済インフラの輪郭が見え始めています。
みなさんは、ブロックチェーン上のお金で日々の買い物をする世界をどう感じますか?ぜひご意見をお聞かせください。







































