Solana Company(NASDAQ: HSDT)は2026年2月23日、Solanaブロックチェーンのためのアジア太平洋地域向け高速インフラ「Pacific Backbone」の構築計画を発表した。まずソウル、東京、シンガポール、香港を接続する低遅延クラスターへの投資から開始し、2026年下半期までにパフォーマンス最適化と新技術導入を進める。
今後12〜18ヶ月以内に流動性関連の新製品・サービスの立ち上げを見込む。対象はマーケットメーカー、高頻度取引業者、取引所、伝統的金融パートナーであり、DeFi、リキッドステーキング、AMM、RPCサービス、エグゼキューションサービスの構築を計画している。
同社はPanteraおよびSummer Capitalとの提携により設立されたSOL取得特化型の上場デジタル資産トレジャリーであり、CEOのジョセフ・チー氏は「Solanaの次のスーパーサイクルに向けて構築している」と述べた。
【編集部解説】
今回の発表を理解するには、まずSolana Company(HSDT)がどのような企業であるかを押さえておく必要があります。同社はもともとHelius Medical Technologiesという神経刺激デバイスを手がける医療機器企業でした。それが2025年9月にPantera CapitalとSummer Capitalの主導で5億ドル超の資金調達を実施し、SOLの大量取得を軸とする「デジタル資産トレジャリー企業」へと劇的に転身しています。同年9月29日に社名を現在のSolana Companyへ変更しました。
このビジネスモデルは、MicroStrategy(現Strategy)がBitcoinを大量に買い続ける戦略で株式市場から注目を集めた手法をSolanaに応用したものです。同社は2025年10月時点で220万SOL以上を保有し、上場企業としては第2位のSOL保有量を誇るとされています。
ただし、このモデルには注意すべき点があります。The Blockの報道によると、HSDTの株価は2025年9月のSolana戦略への転換以降、90%以上下落しています。今回のPacific Backbone発表日にも約8%下落しました。SOL自体も2025年10月時点の約232ドルから、2026年2月24日時点で約76ドル台へと大幅に値を下げており、トレジャリー企業としての含み損が膨らんでいる状況がうかがえます。
技術的な視点から見ると、Pacific Backbone構想が対処しようとしている課題自体は実在するものです。Solanaのバリデーターやノードは北米に集中しており、アジア太平洋地域のノードはスナップショットのダウンロード速度や同期の遅延といった問題に直面してきました。ソウル、東京、シンガポール、香港という金融ハブを低遅延で接続するインフラが実現すれば、マーケットメーカーや高頻度取引業者にとっての執行品質が改善される可能性はあります。
さらに、Solanaエコシステム全体では、ソフトウェア面でも大きな進化が進行中です。Jump Cryptoが開発した高性能バリデータークライアント「Firedancer」は、そのハイブリッド版である「Frankendancer」がすでにSolanaのメインネットベータで稼働しています。テスト環境では毎秒100万トランザクションの処理を実証しており、完全版の本番リリースに向けた開発が進められています。また、Anzaが提案した新たなコンセンサスプロトコル「Alpenglow」は、トランザクションのファイナリティを100〜150ミリ秒まで短縮することを目指しています。Pacific Backboneのハードウェアインフラがこれらのソフトウェアアップグレードと組み合わさることで、機関投資家が求める水準のパフォーマンスが実現し得るという期待があります。
一方、潜在的なリスクも無視できません。まず、同社のプレスリリースにはインフラ構築の具体的な投資額が記載されておらず、実行可能性を判断する材料が不足しています。また、SOL価格の下落が続けば、トレジャリー戦略の根幹が揺らぎ、インフラ投資に回す原資の確保も困難になりかねません。加えて、アジア太平洋地域は暗号資産規制が各国で異なり、特に日本や香港では金融規制への準拠が不可欠です。規制対応のコストと複雑さは、ロードマップどおりの展開を阻む要因となり得ます。
長期的に見れば、ブロックチェーンインフラの競争軸がプロトコル設計やトークンインセンティブから「インフラの地理的分散」へとシフトしつつある点は注目に値します。アジア太平洋地域は世界の暗号資産ユーザーの多数を抱え、クロスボーダー決済やトークン化資産の需要も拡大しています。このインフラ競争において先手を打つ意義はありますが、構想の発表と実際のサービスローンチの間には大きな隔たりがあることを、読者の皆さんには意識していただきたいところです。
【用語解説】
デジタル資産トレジャリー(DAT)
企業が暗号資産を主要な準備資産として保有・運用するビジネスモデルのこと。MicroStrategy(現Strategy)がBitcoinで確立した手法を、他の暗号資産に応用する企業が増加している。
低遅延クラスター
データ通信の遅延(レイテンシ)を極限まで抑えた、地理的に近接するサーバー群のこと。高頻度取引やリアルタイム処理において、ミリ秒単位の遅延差が成果を左右するため、金融ハブの近くに配置する意義が大きい。
ステーキング/バリデーション
ステーキングはProof of Stakeブロックチェーンにおいてトークンを預け入れてネットワークの安全性を支える仕組みで、報酬が得られる。バリデーションはトランザクションの検証・承認を行うプロセスである。SOLの場合、ネイティブステーキング利回りは約7%とされる。
リキッドステーキング
ステーキング中の資産を流動性のあるトークンとして発行し、ステーキング報酬を得ながら他のDeFiプロトコルでも運用できるようにする仕組みである。
AMM(自動マーケットメーカー)
注文板を使わず、アルゴリズムとスマートコントラクトで自動的にトークン売買の価格を決定する分散型取引の仕組みである。
RPCサービス
Remote Procedure Callの略。ブロックチェーンノードと外部アプリケーション(ウォレット、取引ツール等)がデータをやり取りするためのインターフェースである。低遅延かつ高可用性のRPCは、トレーダーやdApp開発者にとって不可欠なインフラとなる。
Firedancer/Frankendancer
Firedancerは、Jump Cryptoが開発するSolana向けの新しい高性能バリデータークライアント。C/C++でゼロから書き直されており、テスト環境では毎秒100万トランザクションの処理を実証している。現在メインネットベータで稼働しているのは、Firedancerの一部コンポーネントと既存クライアントAgaveを組み合わせたハイブリッド版「Frankendancer」であり、完全版Firedancerは開発が進行中である。
Alpenglow
Anzaが提案しているSolanaの新しいコンセンサスプロトコル。トランザクションのファイナリティ(確定)時間を100〜150ミリ秒まで短縮することを目標としている。
【参考リンク】
Solana Company 公式サイト(外部)
PanteraおよびSummer Capital提携のSOL特化型上場デジタル資産トレジャリー企業(NASDAQ: HSDT)。
Pantera Capital 公式サイト(外部)
2013年に米国初のBitcoinファンドを立ち上げたブロックチェーン特化型機関投資家向け資産運用会社。
Solana 公式サイト(外部)
毎秒3,500件超のトランザクションを処理する高速ブロックチェーン。DeFi、NFT、決済等のエコシステムが拡大中。
Firedancer 公式ドキュメント(外部)
Jump Crypto開発のSolana向け高性能バリデータークライアント。アーキテクチャ詳細やセットアップ手順を掲載。
Jump Crypto — Firedancer プロジェクトページ(外部)
Firedancer開発元による概要ページ。高速取引の知見を活かしたバリデーター設計思想を紹介。
【参考記事】
Pantera-backed Solana Company kicks off APAC staking infrastructure buildout(外部)
HSDTの220万SOL以上保有、株価90%超下落、発表当日約8.3%下落など市場反応と財務的背景を報道。
Helius Medical Technologies soars 250% on $500M Solana treasury raise(外部)
2025年9月のSolana戦略転換時における5億ドル超PIPE調達と株価250%急騰を報じた記事。
Solana Company (NASDAQ:HSDT) Continues Amassing SOL(外部)
2025年10月時点で220万SOL以上保有、SOL価格232.50ドル換算で5億2,500万ドル超の価値に達したと報告。
Solana’s Pacific Backbone and the APAC Infrastructure Race(外部)
APAC地域のSolanaノードが直面する同期遅延問題やFiredancer・Alpenglowとの相乗効果を分析。
Solana Preps For Next Crypto Super Cycle With High-Speed Network(外部)
Firedancerの100万TPS実証、Alpenglowの150ms以下ファイナリティ目標、SOL約77ドル台等の数値を含む分析。
【編集部後記】
MicroStrategy(現Strategy)がBitcoinを買い続ける戦略で市場の注目を集め、日本ではホテル事業から転身したMetaplanetが同じ道を歩み始めました。そして今回のSolana Company(HSDT)は、医療機器企業からSOL特化型トレジャリーへと転身し、さらにインフラ構築にまで踏み込もうとしています。
「暗号資産を買って持つ」ことを事業の中核に据えるデジタル資産トレジャリー(DAT)企業は、いま岐路に立っています。Metaplanetは2025年度に評価損1,022億円を計上し、Solana Companyの株価は転換以降90%超下落しました。MSCIがDAT企業をファンド的ビークルとして株価指数から除外する検討を始めたことも、このモデルの持続性に疑問符を投げかけています。
暗号資産の価格が上がれば輝き、下がれば存在意義が問われる——このビジネスモデルが、単なるレバレッジ投機の器で終わるのか、それともインフラや金融サービスを伴う新しい企業形態へと進化するのか。Solana CompanyのPacific Backbone構想は、後者への一歩を踏み出そうとする試みとも読めます。皆さんは、DAT企業の未来にどんな可能性を感じますか。








































