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AWS台湾リージョン正式開設で50億ドル投資|TSMC・中華電信が語るアジア太平洋クラウド戦略の新展開

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Amazon Web Services(AWS)が台湾に新たなクラウドインフラストラクチャリージョン「AWSアジアパシフィック(台北)リージョン」を6月5日(現地時間、日本時間6月6日)に正式開設したことを発表した。

Amazonは6月5日(現地時間、日本時間6月6日)、台湾初のAWSインフラストラクチャリージョン「AWSアジアパシフィック(台北)リージョン」の正式開設を発表しました。この新リージョンはリージョンコード「ap-east-2」で運用され、3つのアベイラビリティーゾーンで構成されています。これによりAWSのグローバルインフラは世界37の地理的リージョン、117のアベイラビリティーゾーンに拡大されます。

Amazonは台湾におけるデータセンターの建設、接続、運用、保守をサポートするため、50億ドル以上の投資を計画しています。これにより、開発者、スタートアップ、企業、教育機関、エンターテインメント、金融サービス、ヘルスケア、製造業、非営利組織などが台湾のデータセンターからアプリケーションを実行し、データレジデンシー要件を満たしながらクラウドサービスを利用できるようになります。

AWSのインフラストラクチャサービス担当バイスプレジデント、プラサド・カルヤナラマン氏は、新リージョンにより組織が基盤的なコンピュートとストレージから高度な分析とAIまで幅広いサービスを活用でき、低レイテンシーでイノベーションを加速できると述べました。

AWSは2014年に台湾でサービスを開始し、台北にオフィスを開設しました。その後、2014年に最初のAmazon CloudFrontエッジロケーションを開設し、2018年に追加のエッジロケーションを設立しました。また、2018年にはAWS Direct Connectロケーションを2箇所設立し、新リージョンの開設に合わせて新たなDirect Connectロケーションも追加されています。

台湾の主要企業である104人力銀行、エイサー、国泰金融ホールディングス、中華電信、TSMC、トレンドマイクロなどが既にAWSを活用しています。Nextlink Technology Inc.のCEOであるShasta Ho氏は、AWSのローカルインフラへの投資が台湾企業のデジタル変革を推進し、従来産業から新興デジタル分野まで様々な業界の発展を促進すると述べています。

現在AWSは世界37リージョンで117のアベイラビリティーゾーンを運用しています。今後、チリ、ニュージーランド、サウジアラビア王国、AWSヨーロピアンソブリンクラウドなどで13の追加アベイラビリティーゾーンとさらなるAWSリージョンの開設が計画されています。

from:
 - innovaTopia - (イノベトピア)Amazon Launches Infrastructure Region in Taiwan | Business Wire

【編集部解説】

今回のAWSアジアパシフィック(台北)リージョンの正式開設は、単なるデータセンターの新設を超えた、アジア太平洋地域におけるクラウドインフラ戦略の大きな転換点と言えるでしょう。

この投資の背景には、台湾の地政学的な重要性と、厳格なデータレジデンシー要件があります。台湾では個人情報保護法(PIPA)や金融規制により、機密データの国外保存が制限されており、これまで多くの企業がクラウド移行を躊躇していました。今回のフルリージョン開設により、こうした規制要件を満たしながら、グローバル水準のクラウドサービスを利用できる環境が整ったのです。

特に注目すべきは、TSMCという世界最大の半導体ファウンドリが顧客リストに含まれていることです。これは台湾の半導体産業がAWSの高度なクラウドサービスを活用していることを示しており、チップ設計から製造プロセスの最適化まで、AIと機械学習を駆使した次世代製造業の実現を意味しています。

50億ドルという投資規模も注目に値します。これは台湾のGDPの約0.67%に相当する巨額投資であり、AWSが台湾を単なる市場拡大の対象ではなく、アジア太平洋戦略の中核拠点として位置づけていることを示しています。実際、AWSはシンガポールに90億ドル、マレーシアに60億ドル、タイに50億ドルの投資を発表しており、アジア太平洋地域全体で250億ドル規模の大型投資を展開中です。

一方で、潜在的なリスクも存在します。台湾海峡を巡る地政学的緊張は、データセンター運営に影響を与える可能性があります。また、台湾の電力供給能力についても、大規模データセンターの運営には新たなインフラ整備が必要になると予想されます。

競合他社の動向も興味深い展開を見せています。Googleは2013年から彰化県でデータセンターを運営していますが、フルリージョンではありません。Microsoftは2020年にAzure台北リージョン計画を発表しましたが、5年経過した現在も「準備中」の状態です。中国のAlibabaは政治的要因により台湾から撤退しており、これは地政学的リスクが技術投資に与える影響を象徴的に示しています。

この開発が台湾経済に与える波及効果は計り知れません。AWSは既にアジア太平洋日本地域で800万人、台湾で10万人にクラウドスキルトレーニングを提供しており、新リージョンの開設により、さらなる人材育成と雇用創出が期待されます。特に、104人力銀行、国泰金融ホールディングス、中華電信といった台湾の主要企業が既にAWSを活用していることから、これらの企業の競争力向上と、新たなデジタルサービスの創出が加速するでしょう。

長期的な視点では、この投資は台湾をアジア太平洋地域のデジタルハブとして確立する重要な一歩となります。特に、リージョンコード「ap-east-2」が示すように、AWSは台湾を東アジア戦略の重要な拠点として位置づけており、中国本土へのアクセスが制限される中で、台湾の技術力と地理的優位性を活かした新たなクラウド戦略の中核となる可能性が高いのです。

【用語解説】

AWSリージョン:AWSのグローバルクラウドインフラストラクチャを地理的に捉えた概念で、世界各地の特定の地域に設置されたデータセンター群を指す。各リージョンは独立して運営され、災害やシステム障害時の影響を最小限に抑える設計となっている。現在世界37リージョンで運営中。

データレジデンシー:データが特定の地理的場所に保存されることを指す概念。法律や規制の影響を受けることが多く、特に個人情報や機密データについて、どの国や地域で管理されるかが重要な考慮事項となる。台湾では個人情報保護法(PIPA)により厳格に規制されている。

リージョンコード:AWSが各リージョンに割り当てる識別子。台北リージョンは「ap-east-2」で、アジア太平洋東部地域の2番目のリージョンを意味する。開発者がプログラム上でリージョンを指定する際に使用される。

【参考リンク】

Amazon Web Services 日本公式サイト(外部)世界最大のクラウドサービスプロバイダーであるAWSの日本語公式サイト。サービス概要、料金、導入事例などの詳細情報を提供している。

AWS公式ブログ – 台北リージョン開設発表(外部)AWSアジアパシフィック(台北)リージョンの正式開設を発表した公式ブログ記事。技術仕様や投資詳細について詳述している。

TSMC(外部)世界最大の半導体ファウンドリ企業。最先端プロセス技術でApple、NVIDIA等の主要チップを製造し、AWSの重要顧客として位置づけられている。

【参考記事】

Amazon’s AWS Expands in Asia-Pacific with New Taiwan Region | Digital Market Reports
AWSのアジア太平洋地域での拡張戦略を分析した記事。台湾リージョンの経済的インパクトや、シンガポール、マレーシア、タイでの類似投資との比較を提供。

AWS partners with Kaohsiung City government | DIGITIMESAWSと高雄市政府の連携について報じた記事。台湾南部での5年間の活動実績や、2025年のデータセンター設立計画について詳述している。

【編集部後記】

台湾という地政学的要衝でのAWS大型投資は、単なるインフラ拡張を超えた戦略的意味を持つ。50億ドルという投資額は、クラウド覇権競争における「データ主権」の重要性を物語っている。特にTSMCのような半導体巨人が顧客リストに名を連ねる事実は、製造業のデジタル変革が新たなフェーズに突入したことを示唆する。一方で、Microsoftの5年越しの「準備中」状態やAlibabaの撤退は、技術投資における政治的リスクの現実を浮き彫りにしている。アジア太平洋200億ドル投資戦略の中核となる台湾リージョンが、今後の東アジアデジタル経済圏の形成にどのような影響を与えるか注視したい。

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乗杉 海
新しいものが大好きなゲーマー系ライターです!
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