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12月20日【今日は何の日?】Webが「404エラー」を許容した日。CERNで生まれた分散型思想とWeb3への回帰

12月20日【今日は何の日?】Webが「404エラー」を許容した日。CERNで生まれた分散型思想とWeb3への回帰 - innovaTopia - (イノベトピア)

1990年12月20日。スイス・ジュネーブにある欧州原子核研究機構(CERN)。
物理学者たちの喧騒から少し離れた一室で、歴史は音もなく動きました。

ティム・バーナーズ=リーが自身のNeXTコンピュータ上で、世界最初のWebサイト(http://info.cern.ch)をオンラインにした日です。

一般のインターネットユーザーがこれにアクセスできるようになるのは翌1991年の8月ですが、システムとしての「World Wide Web」が産声を上げ、CERN内部のネットワークで実際に稼働し始めたのは、間違いなくこの日でした。

あれから30年以上が経過し、Webは空気のように当たり前のインフラとなりました。しかし今、私たちは再びティム・バーナーズ=リーがこの日に込めた「ある設計思想」に立ち返る必要に迫られています。

それは、Webが世界を制した最大の理由でありながら、現代の巨大テック企業によって失われつつある哲学――「分散」です。

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完璧主義を捨てた発明。「404 Not Found」の衝撃

なぜ、数ある情報システムの中で、Webだけがこれほど爆発的に普及したのでしょうか?
その答えは、1990年の設計段階における「ある決断」にあります。

Web以前、ハイパーテキストの理想形とされていたのは、テッド・ネルソンが提唱した「Project Xanadu」のようなシステムでした。そこでは、すべてのリンクは双方向であり、リンク切れは許されず、著作権管理も完璧に行われるはずでした。しかし、その「完璧さ」ゆえにシステムは複雑化し、実用化は困難を極めました。

対して、ティム・バーナーズ=リーのアプローチは正反対でした。

「リンク先が消えていても、エラー(404 Not Found)を出せばいい」

彼は、システムとしての完全性(Integrity)を犠牲にし、「リンク切れを許容する」という、当時のエンジニアからすれば無責任とも言える仕様を採用したのです。

しかし、この「管理しないこと(Permissionless)」こそが最大のイノベーションでした。
中央管理者にリンクの許可を得る必要がないため、誰もが勝手にページを作り、勝手に他者へリンクを張れる。この「無秩序な自由」があったからこそ、Webはウイルスのように世界中に増殖できたのです。

30年後のパラドックス。Webは再び「中央」に囚われた

1990年12月20日、Webは「分散型ネットワーク」として生まれました。
しかし2024年の現在、Webの風景はどうなっているでしょうか。

皮肉なことに、私たちは「新しい中央集権(Centralization)」の中にいます。

検索エンジンのアルゴリズム、SNSのタイムライン、クラウドサーバーのデータセンター。これらは、GAFAMに代表される少数の巨大プラットフォーマーによって管理されています。かつて「リンク切れ」を許容してまで手に入れた自由は、いまや「プラットフォームの規約違反」によるアカウント凍結や、アルゴリズムによる情報の選別という形で、再び管理下に置かれています。

ティム・バーナーズ=リー自身も、現在のこの状況――ユーザーのデータが企業によってサイロ化(囲い込み)され、監視資本主義の商品となっている現状――に対して、強い懸念と失望を表明しています。

Web3と「Solid」。1990年の理想へ回帰する

今、テクノロジー業界で起きているWeb3やDAO(自律分散型組織)のムーブメント。これらを単なる投資トレンドとして捉えると本質を見誤ります。

これらは、技術的なアプローチこそブロックチェーンなど新しいものですが、思想の根底にあるのは「1990年12月20日の初期衝動への回帰」です。

実際、ティム・バーナーズ=リー自身も現在、「Solid(Social Linked Data)」というプロジェクトを推進しています。これは、アプリとデータを切り離し、個人情報(ID、投稿、写真など)を企業サーバーではなく、ユーザー個人の「PODs(Personal Online Data Stores)」で管理しようという構想です。

  • 1990年の革命: 情報の掲載場所を自由にした(情報の民主化)
  • 現在の革命: 情報の所有権を取り戻す(データの民主化)

かつてNeXTコンピュータの中で生まれた「分散」の夢は、まだ完結していません。


結び:未完のプロジェクト「World Wide Web」

12月20日は、Webが「完成した日」ではなく、「実験が始まった日」です。

世界初のWebサイトには、Web自体の説明や、ブラウザの使い方、そして「どうすればサーバーを立てられるか」という技術情報が書かれていました。それは、見るためのサイトではなく、「参加するための招待状」だったのです。

AIによるコンテンツ生成や、Web3による分散化が進む今、Webの形は再び大きく変わろうとしています。 次の30年、この「情報の網」を、再び管理された庭にするのか、それとも荒野のような自由な広場にするのか。

その鍵を握っているのは、1990年のティムと同じように、新しいコードを書き、新しい仕組みを作ろうとしている、現代のイノベーターであるあなたたち自身です。


【Information】

CERN(欧州原子核研究機構)
ティム・バーナーズ=リーが在籍し、World Wide Webが発明されたスイスの研究機関。素粒子物理学の研究所でありながら、現在のデジタル社会の原点でもあります。

The First Website (info.cern.ch)
CERNが管理する、Webの歴史アーカイブ。1990年当時のWebサイトの復元版や、最初のWebサーバーに関する技術的な詳細情報を閲覧することができます。

Solid Project
記事内で紹介した、ティム・バーナーズ=リーが主導するWebの分散化プロジェクト。「真のデータ主権」をユーザーに取り戻すための仕様やツール、コミュニティ情報が公開されています。

W3C (World Wide Web Consortium)
Web技術の標準化を行う国際的な非営利団体。Webが特定の企業の独占物とならないよう、オープンな基準(HTML, CSS等)を策定し続けています。

投稿者アバター
TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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