オーストラリアの通信会社Optusで9月18日午前12時30分頃にファイアウォールのアップグレードを実施した際、顧客が緊急通報番号000(トリプルゼロ)に14時間(一部報道では10時間)にわたって接続できない障害が発生した。
木曜日早朝に2人の顧客がコールセンターに000への通話不通を報告したが、Optusは問題を認識せず、13時30分に別の顧客が報告するまで事態の深刻さを把握しなかった。その後の調査で、コールセンターのログから少なくとも3人の他の顧客も障害を報告していたことが判明した。オーストラリア法では000障害後の顧客安否確認が義務付けられており、Optusが実施した結果、緊急サービスへの通話を試みた可能性のある顧客3人の死亡が確認された(その後、4人目との関連も報じられている)。
CEOのスティーブン・ルー氏は、アップグレードを実行したスタッフが確立された手順に従わなかった可能性があると述べ、トリプルゼロ問題報告のエスカレーションプロセス実装を約束した。同社は2022年に大規模データ侵害、2023年に長期間の広範囲通信障害を経験している。
From: Firewall upgrade linked to three deaths after Australian telco cut off emergency calls
【編集部解説】
今回のOptus事件は、通信インフラの単純なシステム更新が生死に直結する深刻な結果を招いた事例として、テクノロジー業界全体に重要な教訓を提示しています。
ファイアウォールのアップグレードという日常的なメンテナンス作業が、緊急通報システムという最も重要な社会インフラの一つを14時間も停止させたことは、現代社会がいかに複雑なシステムの相互依存関係の上に成り立っているかを物語っています。特に注目すべきは、通常の通話は正常に機能していたにも関わらず、緊急通報番号000のみが影響を受けた点です。
このような選択的な障害は、緊急通報システムが一般的な通話とは異なる特殊なルーティングを使用していることを示しており、通信事業者がシステム更新時に考慮すべき複雑性を浮き彫りにしています。
最も深刻な問題は、初期の顧客からの報告を適切に処理できなかった運用体制にあります。2人の顧客が早朝に問題を報告したにも関わらず、システム監視では異常を検出できず、コールセンターも適切な対応を取れませんでした。
これは、自動化されたモニタリングシステムと人的対応の間に存在するギャップを示しており、特に緊急性の高いサービスにおいては、顧客からの報告を重視する仕組みの重要性を強調しています。
規制面では、今回の事件がオーストラリアの通信業界に与える影響は計り知れません。政府は既に通信事業者の責任強化を検討しており、緊急通報システムの冗長性確保や、システム更新時の特別な承認プロセスの導入が議論される可能性があります。
長期的な視点では、この事件は5Gやクラウドベースの通信インフラへの移行が進む中で、より高度な安全性確保メカニズムの必要性を示しています。AIを活用した異常検知システムや、リアルタイムでの緊急通報機能の監視体制の構築が、今後の業界標準となる可能性があります。
【用語解説】
トリプルゼロ(000)
オーストラリアの緊急通報番号。日本の110番や119番に相当し、警察、消防、救急サービスを一つの番号で呼び出せる。法律により全ての通信事業者が確実な接続を保証する義務がある。
エスカレーションプロセス
問題や課題を段階的に上位レベルへ報告・処理する仕組み。緊急度や重要度に応じて適切な担当者や部門へ迅速に情報を伝達し、対応を促進する運用手法。
【参考リンク】
Optus公式サイト(外部)
オーストラリア第2位の通信事業者。モバイル、固定通信、インターネットサービスを提供し、約1,000万人の顧客を持つ。
オーストラリア通信・メディア庁(ACMA)(外部)
オーストラリアの通信・放送業界を監督する政府機関。通信事業者の規制や緊急通報システムの運用基準を策定。
【参考記事】
Australia to overhaul comms after Optus emergency call failure …(外部)
米国の大手メディアABC Newsの記事で、オーストラリア政府の対応に焦点を当てています。通信大臣が業界全体の規制見直しに言及していることや、過去の障害でOptus社やTelstra社に科された罰金の具体的な金額について報じています。
Australia plans telecom changes after Optus emergency …(外部)
AP通信による報道で、事件を受けたオーストラリアの政界の反応をまとめています。首相や通信大臣の声明、規制当局による調査開始などを伝えており、社会的な影響の大きさが分かります。
Anger in Australia after telecom outage linked to deaths(外部)
英国のBBCによる記事です。事件に対するオーストラリア国民や政治家の怒りの声に焦点を当てており、Optus社が2022年の大規模データ漏洩や2023年の通信障害に続き、再び社会の信頼を損なったことを報じています。
【編集部後記】
今回のOptus社の事件は、私たちが日頃当たり前に使っている通信技術の脆さを浮き彫りにしました。システムの更新作業一つで、誰かの命に関わる状況が生まれてしまう現実に、正直驚かされます。
ちなみに、オーストラリアの緊急通報番号「000」(トリプルゼロ)は、日本の110番(警察)と119番(消防・救急)の両方の役割を兼ねた統一番号です。まず「000」にダイヤルし、オペレーターに「Police(警察)」「Fire(消防)」「Ambulance(救急)」のいずれかを伝えて、担当部署につないでもらう仕組みになっています。今回の障害では、この全ての緊急通報が14時間も利用できなくなりました。
皆さんは普段、スマートフォンで緊急通報を使う場面を想像されたことはありますか?また、身の回りの重要なシステムがどのような仕組みで守られているか、考えてみたことはあるでしょうか。
AIや5Gといった最新技術が注目される一方で、既存のインフラの安全性を確保することがいかに重要か、この事件から改めて感じています。テクノロジーの進化と安全性のバランスについて、皆さんはどのようにお考えでしょうか。ぜひSNSで、ご意見をお聞かせください。