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Starlink端末2,420台をブロック—ウクライナ軍のサイバーおとり作戦が成功

ウクライナ国防省は2026年2月12日、ロシア軍が使用するStarlink端末を標的とした特殊作戦の成功を発表した。第256サイバー強襲師団、InformNapalm コミュニティ、活動家セルヒー・ステルネンコ氏が作戦を実行し、ロシア軍にStarlinkの制限回避方法を発見したと信じ込ませた。その結果、敵の端末2,420台の位置情報を含むデータを収集し、これらの端末はすでにブロックされた。また、ボットを利用したロシア側ユーザーから5,870ドルの寄付金も得られ、ドローン購入に充てられる。

ミハイロ・フェドロフ国防相はラムシュタイン会合後の記者会見で、ロシアがStarlink衛星通信を失ったと述べ、「これはまだ始まりにすぎない」と強調した。作戦の背景には、ロシア軍がドローンにStarlinkを使用するケースの増加がある。ウクライナはSpaceXと連携し、認証済み端末のホワイトリスト方式を導入、2月5日にロシア軍端末の大半のブロックを完了した。

From: Ukraine’s defense ministry reports successful operation targeting Russian Starlink terminals

【編集部解説】

今回の作戦を理解するには、まずその前段となる出来事を押さえておく必要があります。2025年以降、ロシア軍は闇市場や第三国経由で入手したStarlink端末をShahed型ドローンやBM-35などの攻撃用無人機に搭載し始めました。衛星通信によるリアルタイム制御が可能になったことで、従来のGPS誘導やラジオ制御では不可能だった精密攻撃が実現し、2026年1月27日にはStarlink搭載ドローンがハルキウ地方で走行中の旅客列車を直撃、5人が死亡する事件も発生しています。

この事態を受け、新任のフェドロフ国防相(前デジタル変革担当相)が1月26日にSpaceXへ直接連絡を取り、対策が動き出しました。ウクライナ政府は2月2日にStarlink端末の登録を義務化する決議を承認し、2段階の遮断措置を導入しています。第1段階は時速75〜90km以上で移動する端末の接続遮断で、ドローン搭載端末を標的としたものです。第2段階がホワイトリスト方式の本格稼働で、2月5日までにウクライナ政府に登録されていない端末はすべて切断されました。

この遮断措置の影響は即座に現れています。ロシア側の軍事ブロガーは2月4日夜から前線全域でStarlink端末の大規模障害を報告し始めました。ウクライナ国防省顧問のセルヒー・ベスクレストノフ氏は、前線のロシア軍の状況を「問題ではなくカタストロフィー(大惨事)」と表現しています。複数の報道によると、ロシア軍は多くの地域で突撃作戦を停止し、ザポリージャ方面ではウクライナ軍が前進したとNATO当局者も認めています。

今回元記事が報じた「おとり作戦」は、この遮断措置によってStarlink接続を失ったロシア軍の混乱に乗じたものです。第256サイバー強襲師団がInformNapalm、MILITANTと連携し、Telegram上に偽のStarlink端末登録代行サービスを構築しました。MILITANTはこの作戦を「自己清算作戦(Operation Self-Liquidation)」と名付けています。収集された座標データは端末のブロックだけでなく、砲撃目標としても活用されたことが示唆されており、MILITANTは「座標を送ってきた相手には、155mm砲弾のパッケージを送り返した」と述べています。また、この過程で端末登録への協力を申し出た31人のウクライナ人協力者も特定され、法執行機関に情報が引き渡されています。

テクノロジーの観点から注目すべきは、この一連の事案が「民間衛星インフラの軍事的依存」というリスクを鮮明に浮き彫りにしている点です。ロシア軍は独自の低軌道衛星通信システムの構築を計画していたものの、開発は大幅に遅延しており、代替手段を持たないまま西側企業のインフラに依存する構造が露呈しました。ウクライナ側も同様に、前線通信の根幹をStarlinkに依存しています。ホワイトリスト導入の過程では一部のウクライナ軍端末も一時的に遮断される影響が出ており、単一の民間サービスへの過度な依存がはらむ脆弱性が、敵味方の双方に突きつけられた格好です。

SpaceXによるホワイトリスト方式——端末単位での認証と遠隔遮断——は、民間衛星通信における「アクセス制御」の実例として、今後の宇宙インフラのガバナンスに影響を与える可能性があります。商用ブロードバンドとして設計されたシステムが、戦場におけるアクセス管理ツールとしても機能しうることが実証されたことで、衛星通信の軍民両用(デュアルユース)性に関する国際的な議論が加速することも予想されます。

一方、長期的にはこの遮断措置の効果が持続するかは不透明です。ウクライナ国防戦略センターの専門家は、ロシアが国内の衛星システムの拡充や、より効果の低い代替手段への移行、あるいは新たな密輸ルートの確立を模索する可能性を指摘しています。サイバー空間における攻防と同様に、技術的な遮断と回避のいたちごっこは今後も続く可能性が高いと考えられます。

【用語解説】

ホワイトリスト方式
事前に認証・登録された端末のみ接続を許可し、未登録の端末はすべて遮断するアクセス制御手法。今回のケースでは、ウクライナ政府が管理する登録済みStarlink端末だけが衛星通信に接続でき、それ以外はブロックされる仕組みである。

OSINT(Open Source Intelligence)
公開情報をもとに行われるインテリジェンス活動。SNS投稿、衛星画像、公開データベースなど、一般にアクセス可能な情報源から分析・調査を行う手法を指す。

ソーシャルエンジニアリング
技術的なハッキングではなく、人間の心理的な隙を突いて情報を引き出す手法。今回の作戦では、Starlink制限の回避方法を提供すると見せかけたTelegramボットを通じて、ロシア兵から端末情報や座標データを収集した。

Shahed(シャヘド)型ドローン
イラン製の自爆型無人航空機。ロシア軍はこれをGeran-2として改良・量産し、ウクライナへの攻撃に大量投入している。2025年以降、一部にStarlink端末が搭載され、リアルタイム制御による精密攻撃が可能になった。

デュアルユース(軍民両用)
民生用と軍事用の双方に利用可能な技術や製品を指す概念。Starlinkは商用ブロードバンドサービスとして設計されたが、戦場の通信インフラやドローン制御にも転用されており、デュアルユース技術の代表的な事例となっている。

ラムシュタイン会合
ドイツのラムシュタイン空軍基地で開催されるウクライナ防衛コンタクトグループ(UDCG)の会合。NATO加盟32カ国を含む57カ国とEUが参加し、ウクライナへの軍事支援を調整する枠組みである。2022年4月の初回会合以降、これまでに累計1,450億ドル以上の軍事支援が約束されている。

【参考リンク】

Starlink(SpaceX)公式サイト(外部)
SpaceXが運営する低軌道衛星インターネットサービス。数千基の衛星で高速ブロードバンドを提供する。

SpaceX 公式サイト(外部)
イーロン・マスクが設立した米国の宇宙開発企業。Falcon 9やStarship、Starlinkを開発・運用する。

InformNapalm 公式サイト(英語)(外部)
2014年設立の国際ボランティアOSINTコミュニティ。30言語で調査報告を発信している。

ウクライナ国防省(Ministry of Defence of Ukraine)公式サイト(外部)
ウクライナの国防政策を統括する政府機関。ラムシュタイン会合の成果報告など防衛関連情報を発信。

【参考記事】

Starlink ‘catastrophe’ for Russia as Musk shuts down access across front line in Ukraine(Kyiv Independent)(外部)
2月5日のホワイトリスト発動からロシア軍前線での大規模通信障害までの経緯を詳報した記事。

Ukrainian forces say Russian troops paid them for a fake Starlink service that instead revealed battlefield locations(Business Insider)(外部)
第256サイバー強襲師団によるおとり作戦の手法と「自己清算作戦」の詳細を報じた記事。

SpaceX Starlink Whitelist Goes Live: Russian Frontline Command Collapses As Drone Control Links Go Dark(DroneXL)(外部)
ホワイトリスト方式の2段階遮断措置の技術的詳細とフェドロフ国防相のSpaceX連絡の経緯を解説。

Starlink-enabled drones hitting the rear: how Russia has obtained Starlink and Ukraine’s potential response(Ukrainska Pravda)(外部)
ロシア軍がShahed型やBM-35ドローンにStarlink端末を搭載した技術的経緯と脅威を解説した記事。

How does the cutoff of Starlink terminals affect Russia’s moves in Ukraine?(Al Jazeera)(外部)
Starlink遮断の前線双方への影響を取材。ウクライナ側にも一時的な通信途絶の影響があったことを報告。

Russia’s Starlink Setback: Will Moscow Snap Back From A New Battlefield Blow In Ukraine?(RFE/RL)(外部)
ウクライナ軍関係者の証言とロシアの今後の適応策について分析した記事。

Ukraine Advances in Zaporizhzhia After Russian Troops Lose Starlink Access – NATO Official(The Moscow Times)(外部)
NATO高官がStarlink遮断後のザポリージャ方面でのウクライナ軍前進を認めたことを報じた記事。

【編集部後記】

民間の衛星インターネットが戦場の勝敗を左右し、その制御権をめぐってサイバー作戦が展開される—これは、私たちが日常的に使うテクノロジーの「もう一つの顔」かもしれません。

Starlinkのような民間インフラが軍事的に不可欠な存在となったとき、その管理や責任は誰が担うべきなのでしょうか。みなさんはどうお考えになりますか。こうした問いを、みなさんと一緒に考えていければ幸いです。

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Ami
テクノロジーは、もっと私たちの感性に寄り添えるはず。デザイナーとしての経験を活かし、テクノロジーが「美」と「暮らし」をどう豊かにデザインしていくのか、未来のシナリオを描きます。 2児の母として、家族の時間を豊かにするスマートホーム技術に注目する傍ら、実家の美容室のDXを考えるのが密かな楽しみ。読者の皆さんの毎日が、お気に入りのガジェットやサービスで、もっと心ときめくものになるような情報を届けたいです。もちろんMac派!

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