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英国UKDI、刑務所の違法ドローン対策に185万ポンド投資―低付随被害技術の開発競争が開始

[更新]2026年2月11日

英国UKDI、刑務所の違法ドローン対策に185万ポンド投資―低付随被害技術の開発競争が開始

英国の刑務所で年間1,712件——これは2024-25年に記録されたドローンによる密輸事案の数だ。法規制だけでは防げない脅威に対し、英国政府が185万ポンドを投じて「周辺に損害を与えない」革新的な対抗技術の開発競争を開始した。


UK Defence Innovation(UKDI)は2026年2月3日、刑務所および重要施設周辺での違法なドローン使用に対抗する技術開発コンペティションを公開した。法務省(MOJ)、国王陛下刑務所および保護観察サービス(HMPPS)、国防省(MOD)、原子力廃止措置機関(NDA)、内務省、警察、Innovate UKと共同で実施する。

総額は最大185万ポンド(VAT除く)で、複数の提案に資金提供する。提出期限は2026年3月31日正午(BST)、契約開始は2026年7月中旬を予定する。チャレンジ1は技術成熟度レベル(TRL)7到達を目標に3〜6ヶ月、チャレンジ2はTRL 4または5到達を目標に12ヶ月のプロジェクト期間である。2026年2月17日にローンチウェビナーを開催する。

From: 文献リンクCompetition Document: Countering Illegal Use of UAS Around Prisons and Sensitive Sites

【編集部解説】

英国の刑務所では、ドローンによる密輸が深刻な社会問題となっています。2024年4月から2025年3月の間だけで1,712件のドローン事案が記録されており、組織犯罪グループが麻薬、武器、携帯電話などを刑務所内へ運び込む主要な手段となっています。2025年2月7日にはHMP Manchesterで、クラスAおよびクラスBの薬物を積載したドローンが押収され、4人が逮捕される事件も発生しており、刑務所内の暴力や犯罪活動を助長する要因となっています。

英国政府は2024年1月25日から刑務所周辺400メートルを飛行禁止区域に指定する法律を施行しましたが、法規制だけでは実効性に限界があることが明らかになりました。チャーリー・テイラー刑務所監察総監は「ドローンは特定の独房の窓まで飛行し、非常に迅速に荷物を投下できる」と証言しており、HMPマンチェスターでは受刑者が窓を改造してドローン配達を受け取りやすくしている実態も報告されています。

今回のコンペティションが注目される理由は、「低付随被害(low-collateral)」という技術要件にあります。従来の対ドローン技術である運動エネルギー迎撃機や広域電波妨害は、都市部や人口密集地では周辺のインフラや通信に悪影響を及ぼすリスクがあり、刑務所のような環境では使用できませんでした。本コンペティションは、他の防御手段が失敗した際の「最後の防衛線」として、周囲に損害を与えずにドローンを無力化できる技術を求めています。

技術成熟度レベル(TRL)という指標も重要です。TRL 7は「実運用環境でのプロトタイプ実証」を意味し、すぐに実用化できる段階を指します。一方、TRL 4-5は「実験室レベルでの検証」段階であり、より長期的な研究開発を想定しています。この2段階のアプローチにより、短期的な実装と中長期的なイノベーションの両方を促進する設計となっています。

本コンペティションは刑務所に限定されず、原子力廃止措置機関(NDA)の17施設を含む重要国家インフラ全体を対象としています。ドローン技術の民主化が進む中、テロリストや敵対的アクターによる重要施設への脅威は今後さらに増大すると予想されます。英国が開発する低付随被害技術は、世界中の都市環境における対ドローンセキュリティのベンチマークとなる可能性があります。

ただし、対ドローン技術には市民の自由やプライバシーとのバランスという課題も存在します。検出・追跡・識別(DTI)機能を統合したシステムは、適切な法的枠組み(RIPA、警察法1997など)の下で運用される必要があり、技術開発と同時に倫理的・法的ガイドラインの整備も求められています。

【用語解説】

TRL(技術成熟度レベル)
Technology Readiness Levelの略で、技術の成熟度を1から9の段階で評価する指標である。TRL 1は基礎研究段階、TRL 4-5は実験室レベルでの検証、TRL 7は実運用環境でのプロトタイプ実証、TRL 9は実運用システムの完成を意味する。

低付随被害(Low-collateral)
対ドローン技術において、標的を無力化する際に周辺の人、インフラ、通信システムへの悪影響を最小限に抑える設計思想を指す。都市部や人口密集地での運用を想定した重要な技術要件である。

DTI(検出・追跡・識別)
Detect, Track and Identifyの略で、ドローンを検出し、その飛行経路を追跡し、脅威レベルを識別する統合システムを指す。単なる撃退技術ではなく、状況認識能力を備えたソリューションが求められている。

RIPA
Regulation of Investigatory Powers Act 2000の略で、英国における捜査権限規制法である。監視技術や通信傍受の使用に関する法的枠組みを定めており、対ドローン技術もこの法律に準拠する必要がある。

UAS(無人航空システム)
Uncrewed Aerial Systemの略で、ドローンを含む無人航空機全般を指す技術用語である。単なる機体だけでなく、制御システムや通信システムを含む総合的なシステムを意味する。

HMP Manchester(旧称Strangeways刑務所)
英国マンチェスターにあるカテゴリーA(最高警備レベル)の男性刑務所である。ドローンによる密輸事件が頻発しており、受刑者による窓の改造など組織的な密輸網の存在が報告されている。

【参考リンク】

UK Defence Innovation (UKDI)(外部)
英国国防省傘下の防衛・セキュリティ技術開発推進機関。革新的な技術提案を募集し、プロトタイプ開発から実用化までを支援する

Innovate UK(外部)
英国のイノベーション推進機関。企業の研究開発とビジネス成長を支援し、本コンペティションに共同資金提供している

Nuclear Decommissioning Authority (NDA)(外部)
英国の原子力廃止措置機関。17の原子力施設を管理しており、本コンペティションの共同スポンサーとして重要インフラのセキュリティ強化を目指す

SAPIENT(外部)
英国国防省が開発したオープンアーキテクチャの自律センサーシステム規格。異なるメーカーのセンサーや対ドローンシステムを統合運用できる

【参考記事】

£1.85 million competition launched to counter illegal UAS use around prisons and sensitive sites(外部)
英国政府による公式発表。185万ポンドの資金提供による対ドローン技術開発コンペティションの詳細を発表している

Drones delivering drugs and weapons to prisons in ‘new era’ – governor warns(外部)
Sky Newsによる報道。2024-25年に1,712件のドローン事案が記録されたことや、刑務所長の証言を詳細に報じている

Counter-drone efforts rise as prison sightings revealed(外部)
英国政府による2025年7月30日の発表。1,712件のドローン目撃情報の詳細と対策強化の必要性について報告

Police intercept drone laden with drugs being flown into Strangeways prison(外部)
2025年2月7日にHMP Manchesterで発生したドローン密輸事件。クラスA・B薬物を積載したドローンが押収され、4人が逮捕

Drone no-fly zones implemented near prisons(外部)
2024年1月25日に施行された刑務所周辺400メートル飛行禁止区域に関する法律の詳細を報じている

Inspection reveals drone smuggling has destabilized previously successful UK prison(外部)
チャーリー・テイラー刑務所監察総監による調査報告。ドローンが特定の独房窓まで飛行し荷物を投下する実態を明らかにしている

James Wild MP presses government on drone threat to UK prisons(外部)
HMPマンチェスターで受刑者が窓を改造してドローン配達を受け取りやすくしている実態について、英国議会での質疑内容を報じている

【編集部後記】 

ドローン技術の進化は、私たちに便利さをもたらす一方で、予期しない脅威も生み出しています。英国の刑務所で起きている事態は、決して対岸の火事ではありません。日本でも重要施設周辺でのドローン規制は存在しますが、実効性のある対抗技術はまだ十分とは言えないでしょう。

この記事を読んで、みなさんはどう感じましたか?技術の民主化が進む時代に、私たちはセキュリティとプライバシー、利便性と安全性のバランスをどう取るべきなのか。英国の取り組みから、日本が学べることは何か。ぜひ一緒に考えていただければと思います。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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