株式会社ACSLは、そらいいな株式会社が2026年2月19日に長崎県五島市富江町で実施した、エリア単位での許可・承認に基づくレベル4飛行(有人地帯における目視外飛行)による医療用医薬品配送実証に、第一種型式認証取得機体「PF2-CAT3」を提供し運用支援を行った。
本実証は内閣府の連携”絆”特区における「令和7年度 先端的サービスの開発・構築及び規制・制度改革に関する調査事業」の一環である。配送は固定翼機で中継地点まで医薬品を輸送した後、PF2-CAT3に積み替え、市街地上空を経由して富江病院屋上へ直接配送する方式で行われた。実際の注文に基づく医療用医薬品が配送された。本取り組みは2025年11月の新上五島町での第1回実証に続く第2回となる。エリア包括でのレベル4飛行の許可・承認にあたり、事前調査の合理化について国土交通省航空局との協議も実施された。
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ACSL、エリア単位でのレベル4飛行による医薬品配送実証に機体提供


【編集部解説】
今回の実証で注目すべきは、単なるレベル4飛行の成功そのものではありません。本質は「エリア単位での許可・承認」という、ドローン物流の事業化を阻んできた規制上のボトルネックに正面から切り込んだ点にあります。
現行のレベル4飛行制度では、飛行のたびに事前に経路を特定し、国土交通大臣の許可・承認を得る必要があります。配送先が1件増えるごとに申請経路も増えるこの仕組みは、実証レベルでは機能しても、商用サービスとして配送先を柔軟に変えながら日々運航するオペレーションには適していません。今回の実証で試みられた「エリア包括」での許可・承認は、特定の区域内であれば個別経路の申請を簡素化できる可能性を示すもので、国土交通省航空局との協議を通じて事前調査の合理化が進められています。
配送の仕組みにも工夫があります。そらいいなは豊田通商の子会社で、米Zipline社の固定翼ドローンを用いたレベル3飛行による医薬品配送を2022年5月から五島列島で商用運航しています。固定翼機は長距離・高速輸送に優れる一方、垂直離着陸ができないため、荷物はパラシュートで無人地帯に投下する方式をとっており、受取人が指定場所まで取りに行く必要がありました。今回の実証では、固定翼機で中継地点まで運んだ医薬品をACSLのマルチコプター型「PF2-CAT3」に積み替え、市街地上空を経由して病院屋上まで直接届ける「ハイブリッド配送モデル」を採用しています。長距離輸送と軒先配送、それぞれに最適な機体を組み合わせることで、離島物流の実用性を高めるアプローチといえます。
PF2-CAT3は2023年3月に日本で初めて第一種型式認証を取得した機体で、最大積載重量は1.0kg、最大航続距離は11.4km、最大飛行速度は時速36kmとされています。ペイロード1kgという数値は医薬品の軽量小型荷物には適していますが、今後より多様な物資を運ぶには能力の拡張が求められます。ACSLは日本郵便と共同開発した次世代物流機「PF4-CAT3」の第一種型式認証を2024年6月に申請しており、積載量と航続距離の大幅な向上を目指しています。
制度面では、長崎県と福島県が2024年6月に内閣府の「新技術実装連携”絆”特区」に全国初で指定されたことが、今回の実証を後押ししています。特区の枠組みがあることで、規制改革と実証実験を一体的に進められる環境が整備されました。
一方、課題も残ります。レベル4飛行には一等無人航空機操縦士の国家資格と第一種機体認証が求められ、現状ではこれらを満たせる事業者や機体は極めて限られています。型式認証の取得には相応の開発コストがかかるとされており、中小事業者にとっての参入障壁は依然として高い状況です。また、有人地帯上空を飛行するドローンに対する住民の社会的受容性や、悪天候時の運航判断、通信途絶時の安全確保といった実運用上の課題も、今後の事業化に向けて検証が必要となります。
そらいいなは2026年2月、五島市福江島において処方薬のドローン配送を商用化したことも発表しており、患者から配送料を徴収する形でのドローン配送商用サービスとしては全国初の事例とされています。実証から商用化へと段階を進めている五島列島の取り組みは、離島や過疎地における物流インフラ維持のモデルケースとして、他の地域への展開可能性を示唆するものです。
【用語解説】
レベル4飛行
有人地帯(第三者上空)における補助者なし目視外飛行のこと。2022年12月の航空法等の改正により解禁された。実施には第一種機体認証を取得した機体と、一等無人航空機操縦士の国家資格を持つ操縦者が必要となる。
第一種型式認証
国土交通省が航空法に基づき、レベル4飛行に対応する無人航空機の型式について、設計および製造過程が安全基準・均一性基準に適合するかを検査し認証する制度。2022年12月の制度開始以降、取得済みの機体はACSLのPF2-CAT3のみ(2026年2月時点)。
PF2-CAT3
ACSL(正式名称:ACSL式PF2-CAT3型)が開発したレベル4飛行対応のマルチコプター型ドローン。2023年3月に日本初の第一種型式認証を取得した。最大離陸重量9.8kg、最大積載重量1.0kg、最大飛行速度は時速36km、日本化薬製パラシュートを補助安全装置として搭載する。
エリア単位での許可・承認
レベル4飛行の許可・承認を、従来の個別経路(線形)ではなく、特定のエリア(面)で包括的に取得する方式。配送先が増減しても都度の経路申請が不要となるため、商用サービスとしての柔軟な運用が可能となる。
連携”絆”特区
内閣府が指定する「新技術実装連携”絆”特区」の略称。2024年6月に長崎県と福島県が全国初で指定された。ドローン物流をはじめとする先端的サービスの実証と、それに伴う規制・制度改革を一体的に推進する枠組み。
レベル3飛行 / レベル3.5飛行
レベル3飛行は無人地帯における補助者なし目視外飛行。レベル3.5飛行は2023年12月に新設された中間カテゴリで、機上カメラによる歩行者確認等を条件に、従来のレベル3で必要だった補助者・看板配置などの立入管理措置を省略できる。
【参考リンク】
株式会社ACSL 公式サイト(外部)
国産産業用ドローンメーカーACSLの公式サイト。PF2-CAT3やPF4-CAT3の製品情報、プレスリリースを掲載。
そらいいな株式会社 公式サイト(外部)
豊田通商子会社。五島列島でZipline社製固定翼ドローンを用いた医療用医薬品の配送事業を展開している。
無人航空機レベル4ポータルサイト(国土交通省)(外部)
レベル4飛行に関する制度概要、型式認証・機体認証制度、操縦ライセンス制度などの公式情報を提供。
【参考動画】
【参考記事】
九州初、ドローンのレベル4飛行による処方薬の配送実証を実施(豊田通商)(外部)
2025年2月、五島市玉之浦地区で実施された第1回レベル4飛行配送実証のプレスリリース。実証概要と背景を詳述。
長崎県五島列島で医療用医薬品のドローン配送事業を開始(豊田通商)(外部)
2022年4月、そらいいな設立とZipline社固定翼ドローンによる五島列島での医薬品配送事業開始を発表したリリース。
国交省、ACSL製ドローンにレベル4対応の型式認証(Aviation Wire)(外部)
2023年3月、PF2-CAT3が日本初の第一種型式認証を取得した際の報道。機体スペックと認証制度の概要を解説。
ACSL「PF2-CAT3」が第一種型式認証を初取得(DroneTribune)(外部)
PF2-CAT3の開発背景、安全性能の設計思想、レベル4飛行に向けた機体仕様について詳細に報じた記事。
ACSL、新型物流専用ドローン「PF4-CAT3」の第一種型式認証を申請(ドローンジャーナル)(外部)
2024年7月、日本郵便と共同開発したPF4-CAT3の型式認証申請を報道。積載量・航続距離の大幅向上を目指す。
五島列島で夏休み限定ドローンフードデリバリー(SOMPOインスティチュート・プラス)(外部)
“絆”特区の制度背景、固定翼とマルチコプターの特性比較、レベル4飛行の課題を分析した解説記事。
そらいいな、ドローン配送実証でレベル4飛行をエリア単位で実施(ドローンジャーナル)(外部)
2025年11月、新上五島町で実施された第1回エリア包括レベル4飛行実証の詳細。エリア単位申請の枠組み整理を報道。
そらいいな、処方薬のドローン配送商用化を実現(innovaTopia)(外部)
2026年2月、五島市福江島で全国初の有償ドローン配送商用サービスを開始したことを伝えるinnovaTopia記事。
【編集部後記】
離島で薬が届くまでの時間や手間について、想像してみたことはあるでしょうか。固定翼とマルチコプターを組み合わせるというアプローチは、一見地味に映るかもしれませんが、制度と技術の両面から「届けられなかった場所に届ける」ための試行錯誤が詰まっています。
ドローン物流の現在地を知る手がかりとして、この記事がお役に立てればうれしいです。







































