2026年4月22日、ペンタゴンは2027年度予算において、新設部門Defense Autonomous Warfare Group(DAWG)に540億ドル超の資金提供を要求した。
これは前年比24,000%増であり、英国の国防予算全体の半分以上に相当する。予算は空・陸・海上および海中における自律型・遠隔操作型システムと「Drone Dominance」プログラムに充てられる。元CIA長官のデイヴィッド・ペトレイアスはこれを「歴史上最大規模の自律型戦闘への単独コミットメント」と表現した一方、軍にはドローンスウォームなどの自律型編隊を展開するための軍事ドクトリンが存在しないと指摘した。
Palisade ResearchのジェフリーラディッシュやMIT’s AI Risk Initiativeのピーター・ウォーリッチは自律型システムのリスクを警告した。ペンタゴンはAnthropicとの間で数ヶ月にわたる使用条件をめぐる争いを続けている。
資金の恩恵を受ける企業としてAnduril、Neros、Skydio、Powerusが挙げられる。
From:
Pentagon asks for $54bn in pivot towards AI-powered war | The Guardian
【編集部解説】
今回の記事の核心は「ペンタゴンが自律型ドローン戦闘に史上最大規模の賭けに出た」という一点です。しかしその全貌は、Guardianの記事が伝える以上に複雑で、示唆に富んでいます。
まず数字の背景を整理しておきましょう。DAWGへの要求額は正確には546億ドルです。ただしこのうち10億ドルが通常の基本予算で、残る536億ドルは議会が可決する予定の「財政調整(Reconciliation)法案」に依存した、まだ確定していない資金です。Breaking Defenseなど防衛専門メディアはこの点を重要なリスク要因として指摘しています。今年末には中間選挙があり、民主党が議会の一院を奪還すれば、この調整法案が通らない可能性も十分あります。つまり540億ドル超という数字はあくまで「要求額」であり、確定した予算ではありません。
DAWGという組織についても補足が必要です。これはバイデン政権時代の「Replicator」イニシアチブを引き継いで2025年に新設された部門で、実態はSOCOM(米特殊作戦軍)傘下に置かれています。前身のReplicatorは、2025年8月までに太平洋戦域向けの安価な消耗型ドローンを大量調達するという目標を掲げていましたが、ハードウェアの信頼性問題とサプライチェーンのボトルネックに苦しみ、目標を達成できなかったとされています。DAWGはその教訓を踏まえ、「ハードウェアよりもAIソフトウェアが主役」という方針転換を体現した組織です。
今回の予算の規模感については、Guardianが「英国の国防費の半分以上」と比較していますが、防衛専門メディアDroneXLはより鮮明な比較を提示しています。DAWGへの要求額546億ドルは、海兵隊全体の予算要求額528億ドルを上回るのです。一組織への単年度の研究開発費が、米海兵隊全体の予算を超えるという事実は、この「賭け」の桁外れなスケールを物語っています。
AnthropicとペンタゴンをめぐるくだりについてはGuardianの記事がかなり控えめな表現にとどまっていますが、実態はより劇的でした。2026年2月27日、トランプ大統領はすべての連邦機関に対しAnthropicの製品の即時使用停止を命令。国防長官のピート・ヘグセスは同社をサプライチェーンリスクとして国家安全保障上の脅威に指定し、防衛請負業者・サプライヤー・パートナー企業に対してもAnthropicとの協業を禁止しました。争点は「大規模国内監視」と「完全自律型致死兵器」への使用許可です。AnthropicのCEOダリオ・アモデイは「現在のフロンティアAIは完全自律型兵器を動かすには信頼性が不十分」と拒否の立場を明確にしています。その後、競合するOpenAIが国防総省と契約を締結。一方、連邦判事はペンタゴンの指定処分が「おそらく憲法的保護に違反する」として一時差し止めを命じており、法廷闘争が続いています。
技術的リスクについては、記事中の専門家の警告を額面通りに受け取る必要があります。英国AI Security Instituteが2025年12月にテストしたすべてのフロンティアAIモデルに「悪用可能なセーフガードの欠陥」が見つかったという事実は、現在のAI技術の成熟度を端的に示しています。兵器システムにおけるAIの誤作動は、工場の不良品とは比較にならない結果をもたらします。
他方、産業面でのポジティブな変化も見逃せません。「Drone Dominance」プログラムは2027年までに20万機以上の自律型システムの調達を目標としており(構想段階)、これは米国のドローンテクノロジー産業全体に巨大な需要を生み出します。AndurilやSkydioといった既存プレーヤーだけでなく、Nerosのような新興企業にとっても、この予算は産業の地図を塗り替えるほどの意味を持ちます。
長期的に見れば、今回の予算はAIと自律型兵器に関する国際的な規制議論を一気に加速させるきっかけになるでしょう。世界最大の軍事大国が「AIファースト」を宣言し、前例のない規模の資金を投じた事実は、中国・ロシア・欧州各国の軍事戦略にも直接的な影響を与えます。ドクトリン(軍事教義)なき巨額投資、実戦未検証の技術、そしてAI企業との倫理的摩擦——これらの課題がどう解決されるか、あるいは解決されないままどう進むかが、今後数年の安全保障環境を規定する最重要変数となります。
【参考情報】
【用語解説】
SOCOM(米特殊作戦軍)
United States Special Operations Commandの略。特殊部隊作戦を統括するアメリカ軍の統合コマンド。DAWGは2025年末にこのSOCOM傘下へ移管された。
Replicator(イニシアチブ)
バイデン政権が2023年8月に発表した無人機調達プログラム。2025年8月までに数千機の消耗型自律ドローンを太平洋戦域向けに調達することを目標としたが、ハードウェアの信頼性問題などにより目標を達成できなかったとされている。DAWGはその後継組織にあたる。
財政調整(Reconciliation)法案
予算調整のための特殊な立法手続き。通常の予算と異なり、単純過半数での可決が可能なため与党が活用しやすい。今回のDAWG予算546億ドルのうち536億ドルはこの法案の成立を前提とした資金であり、確定していない。
フロンティアAI
現時点で最高水準の性能を持つ大規模AIモデルの総称。GPT-4、Claude、Geminiなどが該当する。軍事利用における議論は主にこれらのモデルを対象としている。
消耗型ドローン(Attritable drone)
撃墜・喪失を前提に大量展開する低コストの使い捨てドローン。高価な有人機や精密誘導兵器とは異なり、数の優位で戦局を変えることを狙う。ウクライナ戦線でその有効性が実証された。
ドローンスウォーム(Drone Swarm)
AIによって自律的に連携・協調行動する複数のドローン群。個々の制御を人間が行わず、集団として目標に対処する。現在のところ、米軍にはスウォーム運用のための軍事ドクトリン(教義)が存在しないとペトレイアスは指摘している。
MIT’s AI Risk Initiative
マサチューセッツ工科大学(MIT)が設けるAIリスクに関する研究イニシアチブ。ピーター・ウォーリッチはその顧問を務めている。
【参考リンク】
Anthropic(外部)
AIの安全性研究を中核に置くAI企業でClaudeを開発・提供。自律型兵器への利用制限をめぐりペンタゴンと対立し、現在も法廷闘争が続いている。
Anduril Industries(外部)
パーマー・ラッキー設立の米防衛テック企業。AIと自律型システムを軸に無人機・防衛システムを開発。オハイオ州にArsenal-1を建設中だ。
Skydio(外部)
カリフォルニア州サンマテオ拠点の米最大ドローンメーカー。AI自律飛行技術を強みとし、米軍全軍に製品を供給している。
Neros Technologies(外部)
2023年創業の米防衛テック企業。中国製サプライチェーンに依存しないFPVドローン「Archer」を製造。ウクライナでも実戦テスト済みだ。
Palisade Research(外部)
AIシステムの攻撃的能力を研究するAI安全保障組織。現行AIの危険な能力を実証し、政策立案者への啓発活動を行っている。
OpenAI(外部)
GPTシリーズを開発する米主要AI企業。Anthropicのペンタゴン契約終了後、国防総省の機密ネットワークへのAI提供契約を締結した。
【参考動画】
▲ CBSの60 MinutesによるAnduril CEO ブライアン・シンプフへのインタビュー。AI搭載無人戦闘機「Fury」を公開しながら自律型戦闘の現在地を解説している(2025年5月)。
▲ PalantirのShyam SankarとAndurilのトレー・スティーブンスが登壇。ドローン・AIが伝統的な戦争の概念をいかに塗り替えようとしているかを業界当事者の視点で論じている(2026年4月)。
【参考記事】
Pentagon officials broadly detail $55 billion drone plan under DAWG | Breaking Defense(外部)
DAWGへの546億ドル要求の資金構造(基本予算10億ドル+調整法案536億ドル)を詳報。FY2026予算2億2,590万ドルとの比較も掲載している。
DOD moves to make its largest-ever investment in drones and anti-drone weapons | DefenseScoop(外部)
ドローン関連予算の内訳を詳報。536億ドルがDAWG向け、210億ドルが対ドローン技術向けで、FY2026比較数値も提示している。
Pentagon Requests $75 Billion For Drones In FY27 | DroneXL(外部)
ドローン関連総予算750億ドルの全貌を分析。DAWGがSOCOM傘下であること、海兵隊予算との比較など構造的背景を解説している。
Pentagon-Anthropic Dispute over Autonomous Weapon Systems | Congress.gov(外部)
米議会調査局による公式レポート。Anthropic対立の争点と使用停止命令の背景を中立・公式の立場で整理している。
OpenAI announces Pentagon deal after Trump bans Anthropic | NPR(外部)
Anthropicへの使用禁止命令直後にOpenAIがペンタゴンと契約締結。AI企業間の勢力地図の変化を伝えている。
Judge Blocks Pentagon Move Against Anthropic in AI Ethics Dispute | National Catholic Register(外部)
連邦判事がAnthropicへのリスク指定を一時差し止め。政府対応が憲法的保護に違反する可能性があると指摘した。
Pentagon’s FY2027 budget: A shift to autonomous warfare | The Hill(外部)
DAWGの546億ドルが海兵隊予算528億ドルを超えること、統合戦闘コマンドへの格上げ可能性など予算の戦略的含意を論説している。
【関連記事】
Anthropic、Claude軍事利用で米国防総省と対立─2億ドル契約破談の危機 AnthropicとペンタゴンのAI利用制限をめぐる対立の発端と争点を解説。今回のDAWG予算発表(4月21日)以前の段階を報じた記事だ。
OpenAI、ペンタゴンとのAI契約で炎上——アルトマンが認めた「拙速」の代償 AnthropicとペンタゴンのAI利用制限交渉が決裂した直後、OpenAIが国防総省と契約を締結した経緯を追った記事だ。
Andurilの自律型兵器、テストと実戦で不具合続出|シリコンバレー流開発の限界と挑戦 今回のDAWG予算で恩恵を受ける企業として名が挙がるAndurilの技術開発プロセスと課題を詳報。実戦未検証リスクを考える上での参考記事だ。
【編集部後記】
AIが戦場に向かう時代に、私たちは何を考えるべきでしょうか。「軍事の話だから自分には関係ない」と距離を置きたくなる気持ちもわかります。でも、今日の軍事技術は明日の民間技術でもあります。
自律型AIをめぐるルールのあり方は、私たちの日常にも必ずつながってきます。みなさんはこの540億ドルという「賭け」をどう見ますか?ぜひ、一緒に考えていけたらと思います。











