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リチウムイオン電池に革命!中国研究チームが発見した150℃の”熱による若返り”技術が電気自動車の未来を変える

リチウムイオン電池に革命!中国研究チームが発見した150℃の"熱による若返り"技術が電気自動車の未来を変える - innovaTopia - (イノベトピア)

Last Updated on 2025-04-26 07:14 by admin

中国科学院寧波材料技術工学研究所(NIMTE)のLIU Zhaoping(劉兆平)教授らの研究チームは、リチウムイオン電池を150〜250℃の高温で加熱することで、経年劣化した電池の容量をほぼ100%回復させる画期的な技術を開発しました。

この研究成果は2025年4月に科学誌「Nature」に掲載されました。通常、リチウムイオン電池は高温で「熱暴走」を起こし発火する危険性がありますが、研究チームは特定の温度範囲で「負の熱膨張(NTE)」という特異な性質を示すことを発見。

この現象を利用して電池内部の構造的無秩序を秩序状態に戻すことで、性能を回復させることに成功しました。さらに4.0Vの電圧パルスを用いた電気化学的手法によっても同様の効果が得られることを確認しており、将来的には専用充電器による家庭での電池再生も視野に入れています。この技術は電気自動車の電池寿命延長や廃棄物削減に大きく貢献する可能性があります。

from:Heat can make Li-Ion batteries explode. Or restore their capacity, say Chinese boffins

【編集部解説】

リチウムイオン電池は私たちの生活に欠かせないエネルギー源となっていますが、使用とともに容量が低下する「経年劣化」という避けられない問題を抱えています。特に電気自動車(EV)の普及が進む中、電池の寿命と廃棄物問題は大きな課題となっているのです。

今回中国科学院寧波材料技術工学研究所(NIMTE)のLIU Zhaoping(劉兆平)教授らの研究チームが発見した高温加熱による電池再生技術は、この課題に対する画期的なアプローチと言えるでしょう。複数の報道によると、この研究はシカゴ大学などの研究機関との共同研究であり、科学誌「Nature」に掲載されたことが確認できます。

通常、リチウムイオン電池と高温は「危険」という文脈で語られることが多く、スマートフォンの発火事故やEVの火災などが報告されています。リチウムイオン電池は加熱されると「熱暴走」を起こし、最終的には電解質が発火して激しい燃焼が起こり、消火が極めて困難な状態になります。しかし研究チームは、制御された条件下で150〜250℃という高温に電池をさらすことで、逆に電池の性能をほぼ100%回復させられることを実証しました。

この技術の核心は「負の熱膨張(NTE)」という物理現象にあります。一般的に物質は熱を加えると膨張しますが、リチウムリッチ層状酸化物正極材料は特定の温度範囲で収縮するという特異な性質を示します。研究チームはこの現象を利用して、電池内部の構造的無秩序を秩序状態に戻すことに成功したのです。

さらに注目すべきは、研究チームが4.0Vの電圧パルスを用いた電気化学的手法によっても、劣化した電池材料を元の秩序状態に戻せることを発見した点です。これは将来的に特殊な充電器を開発することで、家庭でも安全に電池を「若返らせる」可能性を示唆しています。

この技術がもたらす恩恵は計り知れません。EVの電池寿命を大幅に延ばすことで、車両の総所有コスト削減につながるでしょう。米スタンフォード大学の最新研究では、適切な使用習慣によってEVバッテリーの寿命が最大38%延びる可能性も示唆されており、今回の技術と組み合わせることでさらなる寿命延長が期待できます。また、電池廃棄物の削減にも貢献し、リチウムなどの希少資源の有効活用にもつながります。

一方で、この技術の実用化にはいくつかの課題も残されています。高温処理を安全に行うための技術的ハードルや、実験室レベルの成果を量産規模にスケールアップする際の問題など、解決すべき点は少なくありません。また、この技術を誤解して一般ユーザーが自宅でイヤホンなどの小型電池を加熱するような危険な行為につながらないよう、正確な情報発信も重要です。

今後、人工知能との統合によって材料設計はオンデマンドカスタマイゼーションに向かうと専門家は予測しています。リチウムイオン電池は従来の航続距離と寿命のトレードオフを打破し、電気自動車や航空機が延長された航続距離と超長寿命の両方を享受できる時代が来るかもしれません。

【用語解説】

負の熱膨張(Negative Thermal Expansion, NTE)
通常、物質は熱を加えると膨張するが、特定の物質は加熱すると逆に収縮する現象を示す。これを負の熱膨張という。リチウムリッチ層状酸化物正極材料は150〜250℃の温度範囲でこの特性を示す。

熱暴走(Thermal Runaway)
リチウムイオン電池が過熱状態になり、内部の化学反応が制御不能になって発火や爆発に至る現象。一度始まると自己加速的に反応が進み、消火が極めて困難になる。熱暴走は自己発熱段階(50℃~140℃)、暴走段階(140℃~850℃)、終了段階(850℃~室温)の段階に分かれる。

リチウムリッチ層状酸化物正極材料
リチウムイオン電池の正極に使用される材料で、通常の正極材料よりも高い容量(300 mAh/g以上)を持つ。エネルギー密度を約30%向上させることができるが、使用とともに結晶構造が乱れて電圧が低下するという課題があった。

酸素レドックス(Oxygen-Redox, OR)化学
リチウムイオン電池の充放電過程で、酸素原子が電子のやり取りに参加する反応。これにより高いエネルギー密度が実現できるが、結晶格子の非対称な歪みと電圧低下を引き起こす原因にもなっていた。

ゼロ熱膨張(Zero Thermal Expansion, ZTE)
温度変化に対して体積や長さがほとんど変化しない特性を持つ材料。温度変化による機器の精度低下を防ぐために重要な特性である。

【参考リンク】

中国科学院寧波材料技術工学研究所(NIMTE)(外部)
中国科学院傘下の研究機関で、今回の電池再生技術を開発した研究チームの所属機関

Nature(外部)
今回の研究成果が掲載された世界的に権威のある科学雑誌

【参考動画】

【編集部後記】

皆さん、普段使っているスマートフォンやノートPCの電池が、使い続けるうちに持ちが悪くなった経験はありませんか?これはリチウムイオン電池の宿命とも言える経年劣化の問題です。特に電気自動車をお持ちの方や購入を検討されている方にとって、「数年後に電池交換が必要になるのでは?」という不安は大きいかもしれません。今回ご紹介した高温処理技術は、そんな電池の寿命問題に一石を投じる可能性を秘めています。皆さんは電池技術の進化によって、どのような未来が訪れると想像しますか?ぜひSNSで教えてください。

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TaTsu
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