12月2日【今日は何の日?】原子炉の日に考える次世代原発・SMRとAIデータセンターの未来

12月2日【今日は何の日?】原子炉の日に考える次世代原発・SMRとAIデータセンターの未来 - innovaTopia - (イノベトピア)

AIが生み出す文章や画像の裏側では、想像以上の電力が消費されています。

その電力の源として、今あらためて原子力発電が注目を集めていることをご存じでしょうか。1942年12月2日、シカゴ大学の地下で世界初の原子炉が臨界に達してから80年以上が経ちましたが、その火は第4世代炉や小型モジュール炉(SMR)、さらには核融合やAIデータセンターの電源議論にまでつながっています。

12月2日という一日を軸に、「フェルミの炉」からAI時代のエネルギーまでを一緒にたどってみたいと思います。

地下のスカッシュコートで生まれた原子炉

1942年12月2日、シカゴ大学スタジアム地下のスカッシュコートで、黒鉛とウランを積み上げた「シカゴ・パイル1号(CP-1)」が、人類初の制御された核分裂連鎖反応を達成したとされています。 この出来事は後に「原子炉の日」とも呼ばれ、原子力が兵器と発電の両面で現代社会を大きく変えていく起点になりました。

CP-1は電気を作ることそのものが目的ではなく、プルトニウム生産用原子炉の設計検証などを目的とした実験炉でしたが、ここで蓄積された知見が戦後の商業用原子炉へとつながりました。シカゴの地下でともった“第0世代”の火は、80年以上たった今も、エネルギー安全保障と脱炭素、そしてAIインフラをめぐる議論の根っこに生き続けていると言えます。

商業原発が支えた高度成長とその影

CP-1の成功から十数年で、各国は発電を目的とした原子炉を建設し、軽水炉を中心とする第2世代・第3世代の商業炉が世界中に広がっていきました。 原子力は「クリーンで安定したベースロード電源」として語られ、多くの国で高度成長期の電化・工業化を支える役割を果たしましたが、一方でスリーマイル島やチェルノブイリなどの事故が潜在的リスクを可視化しました。

日本でも1960年代以降、原発建設が進み、原子力は電源構成の中核として位置づけられましたが、2011年の福島第一原発事故がこの前提を根本から揺さぶりました。安価で安定した電力の確保と、重大事故リスクや放射性廃棄物という負の側面の両立が難しいことが明らかになり、「原子力をどうするか」という問いは今もなお解き終わっていない宿題として残っています。

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次世代へ向かうGen IVリアクター

こうした課題に技術的に応えようとしているのが、第4世代炉(Generation IV)と呼ばれる次世代原子炉です。各国政府と研究機関が参加する国際枠組みでは、高温ガス炉(VHTR)、ナトリウム冷却高速炉(SFR)、鉛冷却高速炉(LFR)、ガス冷却高速炉(GFR)、超臨界圧水冷却炉(SCWR)、溶融塩炉(MSR)といった6つのコンセプトが選定されています。

これらの炉は、燃料利用効率の向上、長寿命放射性廃棄物の削減、受動的安全性や核拡散抵抗性の強化、経済性の確保など、複数のゴールを同時に追求している点が特徴です。 多くの設計が2030年代以降の実証・商業化をターゲットとしており、「どこまで安全かつ持続可能なかたちで核エネルギーを利用できるか」という問いに応えようとしています。

SMRが示す“ポスト大型原発”像

並行して注目を集めているのが、小型モジュール炉(SMR)という新しいコンセプトです。SMRは、出力数十〜数百MWe級の小型炉を工場でモジュール生産し、現地では組み立てるイメージで建てることで、建設期間と初期投資を抑えながら、需要規模に合わせて柔軟に導入することを狙っています。

現在、水冷炉ベースのSMRだけでなく、高温ガス炉型や溶融塩炉型のSMRも各国で検討されており、規制審査やデモプロジェクトの段階に入っている案件も増えています。巨大な集中型原発とは異なり、再エネとのハイブリッド運用や離島・産業拠点向けの分散電源としての利用も想定されており、「ポスト大型原発」の姿として期待と懸念が交錯している状況です。

福島後の日本と再稼働の現在地

福島第一原発事故後、日本は一時的にすべての商業炉が停止し、その穴を火力発電で埋めた結果、電気料金の上昇とCO₂排出増という代償を払いました。その後、厳格化された新規制基準のもとで安全審査と設備改修が進み、2025年時点で十数基が再稼働し、さらに複数基が審査や地元同意プロセスの途上にあると整理されています。

最近では、女川2号機が2024年に営業運転を再開し、世界最大級の柏崎刈羽原発6・7号機についても、安全対策と管理体制の見直しを経て再稼働に向けた最終的な地元調整が進んでいると報じられています。政府は2030年の電源構成において原子力比率20〜22%という目標を掲げる一方で、老朽炉の運転延長や新増設・リプレース、将来のSMR導入など、社会的合意形成が難しいテーマにも向き合わざるを得ない局面に来ています。

AI・データセンターが変える電力需要

ここ数年、新たなプレッシャーとして浮上しているのが、AIとデータセンターによる電力需要の急増です。大規模AIモデルや生成AIサービスの普及により、世界のデータセンター電力消費は2024年の約400TWh台から2030年には900TWh前後へと2倍以上に増えるとの予測が出ています。その増分は、日本全体の現在の年間電力消費量に匹敵する規模とも言われており、AI向けアクセラレータサーバーが従来型サーバー以上のペースで電力を押し上げていると分析されています。

日本でも、クラウドとAIサービスの拡大を背景にデータセンター需要が急拡大しており、電力消費は2024年の約19TWhから2034年には3倍以上に達するとの試算があります。ピーク需要は6.6〜7.7GWと全国ピーク負荷の数%に相当するとされ、政府が海外大手クラウド事業者を戦略パートナーとして招く中で、その電力をどの電源で賄うのかがGXとデジタル政策の交差点になっています。

AIインフラを支える電源としての原子力

24時間365日稼働が前提のAIデータセンターにとって、電源の安定性とカーボンフットプリントはビジネス上の制約条件になりつつあります。各種分析では、2030年代にかけて急増するデータセンター電力需要の一部を、新増設の原子力やSMRが担うことで、増加分の1〜2割をカバーし得るとの試算も示されており、ベースロードかつ低炭素な電源として原子力が再評価されています。

海外では、ビッグテック企業と原子力事業者が長期の電力購入契約(PPA)を結んだり、データセンター近接地にSMRやマイクロ炉を設置する構想を検討したりする動きが報じられています。 日本でも、次世代炉やSMRをAI・半導体工場・データセンター集積地向けの専用電源として位置づける構想が議論されつつあり、デジタル産業戦略とエネルギー安全保障、電気料金のバランスをどう取るかが今後の大きなテーマになっていきそうです。

核融合が開く長期の地平

さらに長い時間軸で見れば、核融合エネルギーが「フェルミの炉」の物語の延長線上に姿を現しつつあります。ITERのような国際プロジェクトや、Commonwealth Fusion Systems、Helion Energyなどのスタートアップは、2020年代後半〜2030年代のパイロットプラント実現を目指して研究開発を加速させています。こうしたロードマップでは、AIやデジタルツインを用いた設計・運転の最適化、規制枠組みの整備なども含め、2050年前後の送電網接続が視野に入れられています。

日本企業や研究機関も、融合炉向け材料、加熱・計測技術、真空装置、シミュレーションなどで強みを発揮し、グローバルなサプライチェーンの一部として関わりを深めています。核融合が実用化した暁には、風力・太陽光・原子力・水素に続く「第5の柱」として、AIデータセンターを含む膨大な電力需要を低炭素で支える存在になる可能性があります。

12月2日を“エネルギー転換の日”として考える

シカゴ・パイル1号が臨界に達した12月2日は、人類が核エネルギーを制御可能な技術として手に入れた日として、今も語り継がれています。その延長線上に、第4世代炉やSMR、核融合、そしてAIが押し上げる電力需要という現在の課題があり、日本はそのどこで原子力を活用し、どこで線を引くのかを問われていると言えます。

12月2日を「エネルギー史を振り返り、AI時代の電力をどう賄うかを考える日」と位置づけてみると、フェルミの炉からGen IV、SMR、核融合、AIデータセンターまでを一本の時間軸でとらえ直すことができます。読者のみなさんが、自分の暮らしや電気料金、日本の産業競争力まで含めて、「どんなエネルギーミックスでAI時代を迎えたいのか」を考えるきっかけになれば幸いです。

【Information】

Generation IV International Forum(GIF)公式サイト(外部)
第4世代原子炉(Gen IV)に関する国際的な協力枠組みであり、高温ガス炉やナトリウム冷却高速炉、溶融塩炉など6つのコンセプトについて、目標やロードマップ、加盟国の取り組みが公開されています。Gen IV全体像や各炉型の位置づけを把握したいときの一次情報源として有用です。

World Nuclear Association(WNA)「Generation IV Nuclear Reactors」(外部)
世界の原子力産業団体による、第4世代原子炉に関する包括的な解説ページです。各コンセプト炉の概要、開発状況、安全性・経済性・燃料サイクルなどの論点が整理されており、本記事で触れたGen IVの詳細を補うことができます。

World Nuclear Association「Nuclear Power in Japan」(外部)
日本の原子力発電の歴史、政策、再稼働状況、将来計画についてまとめたページです。各原発の運転状況や政治的な動きが時系列で更新されており、日本の原発再稼働やエネルギーミックス議論の背景理解に役立ちます。

日本経済産業省 資源エネルギー庁「The Restart of Nuclear Power Plants— Why is it necessary? How is it ensured?」(外部)
日本政府が英語で発信している、原発再稼働の必要性や安全確保の仕組みを説明したページです。日本の政策スタンスや、新規制基準・安全対策の考え方を確認したい読者にとって、信頼できる公式情報源になります。

International Atomic Energy Agency(IAEA)「Fusion Energy」トピック(外部)
核融合エネルギーに関するIAEAの情報ポータルで、ITERなどの国際プロジェクトや各国の研究、会議資料などへの入口になっています。核融合の技術的課題やロードマップ、国際協調の動きを継続的にフォローしたい場合に参考になります。

Deloitte「Nuclear energy’s role in powering data center growth」(外部)
データセンターと原子力の関係にフォーカスしたレポートで、AI・クラウド需要の拡大と電力インフラ、原子力・SMRを活用したビジネスモデルなどが整理されています。本記事で扱った「AIインフラを支える電源としての原子力」というテーマを、ビジネス・政策の観点からさらに深掘りしたい読者におすすめです。

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TaTsu
『デジタルの窓口』代表。名前の通り、テクノロジーに関するあらゆる相談の”最初の窓口”になることが私の役割です。未来技術がもたらす「期待」と、情報セキュリティという「不安」の両方に寄り添い、誰もが安心して新しい一歩を踏み出せるような道しるべを発信します。 ブロックチェーンやスペーステクノロジーといったワクワクする未来の話から、サイバー攻撃から身を守る実践的な知識まで、幅広くカバー。ハイブリッド異業種交流会『クロストーク』のファウンダーとしての顔も持つ。未来を語り合う場を創っていきたいです。

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