鉱山は、いまや「掘る現場」から「データで最適化する現場」へと変わりつつあります。
日立建機とカナダ発AIスタートアップRithmikのタッグは、その変化を一気に加速させる一手になりそうです。
日立建機株式会社は2025年12月2日、カナダ・モントリオール拠点のRithmik Solutions Ltd.(以下リズミック)に300万米ドル(現在のレートで約4億2,600万円)を出資したと発表した。
リズミックはAIを活用した鉱山機械のアセットヘルス管理と稼働データ分析に強みを持ち、ダンプトラック40台と超大型油圧ショベル6台を対象にした実証試験では、ダウンタイムや燃料消費の抑制効果が確認されている。日立建機は2025年4月から提供する「LANDCROS Connect Insight(ランドクロス コネクト インサイト)」とリズミックのAI解析技術を連携させ、設計値ではなく機械ごとの実データに基づく基準値をAIが自動で学習・更新することで、鉱山運営の高度な最適化と環境負荷低減を目指すとしている。
出資資金はリズミックの継続的な技術開発、顧客サポート、マーケティング活動などに充てられ、スマートマイニング領域での協業を通じて、両社は生産性とサステナビリティの両立を図る方針である。
From:
AI解析技術でさらなる鉱山運営の最適化をめざし、カナダのリズミックに出資

日立建機株式会社公式プレスリリースより引用
【編集部解説】
日立建機がRithmik Solutionsに行った出資は、建機メーカーが「モノ売り」から「データとアルゴリズムを組み合わせた運用最適化」へと軸足を移しつつある象徴的な動きとして見えてきます。鉱山の世界では、1台のダンプトラックが止まるだけで搬送ライン全体が滞り、燃料価格やカーボンプライシングの変動も含めて収益性に直結するため、ダウンタイムと燃費の最適化は経営課題そのものです。
リズミックは、センサーから上がってくる膨大な稼働データをAIで解析し、「その機械にとっての正常な状態」を継続的に学習していくことを狙っています。従来のように設計値だけを基準にするのではなく、鉱山ごとの環境条件やオペレーターの運転スタイルを踏まえた基準値を自動でチューニングすることで、より早い段階での異常検知や予防保全が可能になります。
このアプローチの良い点は、生産性向上と環境負荷低減がトレードオフではなく、同じ方向を向きやすいところにあります。無駄なアイドリングや過剰な加減速を抑えれば、燃料消費と温室効果ガス排出が同時に下がり、鉱山事業者にとってはESG開示や投資家への説明にもつながっていきます。
一方で、現場データが高精度に可視化されるほど、オペレーターやサプライヤーの評価が数値に引き寄せられやすくなる側面もあります。どこまでAIの推奨に従うか、どのような指標で現場を評価するかといった点は、今後の労務・安全・規制の議論とセットで考える必要が出てきそうです。
日本発の大手メーカーがAIスタートアップと組んでグローバル鉱山市場に踏み出すことは、「資源 × ロボティクス × AI」という領域で、日本企業がどこまでプレゼンスを維持し、再構築できるのかを占う試金石になりそうです。鉱山という巨大なインフラ現場で生まれた実績が、将来的には建設現場や港湾、物流ヤードなど、他のフィールドにも波及していくのかどうかにも注目していきたいところです。
【用語解説】
アセットヘルス管理
機械や設備に搭載されたセンサーや稼働ログを用いて、故障兆候や劣化状態を把握し、適切なタイミングで点検・部品交換などのメンテナンスを行うための管理手法のことだ。
スマートマイニング
センサー、ネットワーク、AI、自動運転車両などのデジタル技術を組み合わせて、鉱山の採掘・運搬・保守を高度に自動化・最適化する取り組み全般を指す。
【参考リンク】
日立建機 公式ウェブサイト(外部)
建設機械・鉱山機械とソリューションをグローバル展開する企業の公式サイトで、製品情報やLANDCROS関連の最新ニュースを確認できる。
Rithmik Solutions 公式サイト(外部)
鉱山機械の稼働データや燃料消費をAIで分析し、稼働率向上や温室効果ガス削減を支援するカナダ発スタートアップのサービス概要が掲載されている。
【参考記事】
日立建機グループ 統合報告書 2025(外部)
鉱山機械ビジネスやデジタルソリューション戦略、温室効果ガス削減目標などがまとめられており、本件出資の背景となるサステナビリティ方針を把握できる。
コーポレートビジョン FY2024-3Q(外部)
日立建機の中期的な事業方針やマイニングビジネスの位置づけ、デジタルプラットフォーム構想などが示されており、AI連携投資の狙いを読み解く手がかりになる。
大手×スタートアップの提携事例 – Innovation Leaders Summit(外部)
日本の大企業とスタートアップによるオープンイノベーション事例を多数紹介しており、今回のような出資・協業の位置づけを広い文脈で比較できる。
【編集部後記】
鉱山というと、どうしても自分たちの日常から遠い世界の話に感じてしまいがちです。ただ、そこで使われている機械やエネルギー効率の改善が、最終的には私たちが手にするデバイスやインフラのコスト、環境負荷にもつながってきます。
今回の出資は、その巨大な現場を「見える化」し、少しずつ賢くしていく一歩のように思えます。この動きが、他の産業や私たちの身近なプロダクトにどう波及していくのか、一緒に追いかけていけたらうれしいです。






























