advertisements

浮体式洋上風力が日本で本格始動、五島市沖でハイブリッドスパー型浮体による商用運転

浮体式洋上風力が日本で本格始動、五島市沖でハイブリッドスパー型浮体による商用運転 - innovaTopia - (イノベトピア)

日本周辺海域の90%は水深50メートル以上—着床式が使えない深い海こそが、日本の洋上風力発電の主戦場になります。2019年の法整備から7年、ようやく日本初の商用浮体式洋上風力発電所が稼働を開始しました。


2026年1月5日、長崎県五島市沖の海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域において、五島フローティングウィンドファーム合同会社の浮体式洋上風力発電設備が運転を開始した。

この区域は2019年12月27日に海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律第8条第1項の規定に基づき指定された。経済産業大臣及び国土交通大臣は公募を実施し、2021年6月11日に五島フローティングウィンドファーム合同会社の前身となるコンソーシアムを選定事業者として選定、2022年4月26日に同法第17条第1項の規定に基づき公募占用計画を認定した。

本件は再エネ海域利用法の規定に基づいて実施する事業において、初めて発電設備の運転を開始するものである。

From: 文献リンク長崎県五島市沖に係る海洋再生可能エネルギー発電設備整備促進区域において、五島フローティングウィンドファーム合同会社の浮体式洋上風力発電設備が運転を開始しました

【編集部解説】

再エネ海域利用法に基づく初めての事業として、長崎県五島市沖で浮体式洋上風力発電設備が商用運転を開始しました。この出来事は、日本のエネルギー政策において象徴的な意味を持ちます。

2019年4月に施行された再エネ海域利用法は、それまで統一的なルールがなかった一般海域での洋上風力発電事業を推進するために制定されました。この法律により、国が促進区域を指定し、漁業者などの先行利用者との調整を図りながら、最大30年間の海域占用を認める仕組みが整備されました。五島市沖は2019年12月に日本初の促進区域として指定され、2021年6月に事業者が選定されています。

浮体式洋上風力発電は、風車の土台を海底に固定する「着床式」とは異なり、海に浮かべる構造を採用します。日本周辺海域の約90%は水深50メートル以上と深く、着床式の設置が難しい海域が大半を占めています。そのため、深い海域にも対応できる浮体式は、日本のエネルギー戦略において極めて重要な位置を占めています。

今回採用された「ハイブリッドスパー型浮体」は、戸田建設が世界で初めて実用化した技術です。浮体上部に鋼、下部にコンクリートを用いることで、重心を下げて安定性を向上させています。同社は2016年に五島市崎山沖で日本初の浮体式洋上風力発電設備「はえんかぜ」を実用化しており、今回の事業はその技術的蓄積の上に成り立っています。

ただし、この事業は順風満帆ではありませんでした。当初は2024年1月の運転開始を予定していましたが、2023年に浮体構造部の不具合が発見され、2年間の延期を余儀なくされています。すでに海上に設置済みの浮体を一度陸揚げして検査するという慎重な対応が取られました。この経験は、今後の浮体式洋上風力発電の安全性向上に貢献する知見となるでしょう。

本発電所の総出力は16.8メガワット(2.1メガワット機8基)で、一般家庭約1万4400世帯が1年間に消費する電力を賄える規模です。発電した電力は地域の小売電気事業者に優先的に供給され、エネルギーの地産地消を実現します。建設工事や運転管理にも地元企業が参画しており、地域経済への貢献も期待されます。

日本政府は2030年までに洋上風力発電10ギガワット、2040年までに最大45ギガワットの案件形成を目標に掲げています。2024年3月には浮体式洋上風力の推進を目的とした業界団体「FLOWRA」が設立され、米国との国際連携も進んでいます。今回の五島市沖での商用運転開始は、こうした日本の浮体式洋上風力発電の本格展開に向けた重要な第一歩となります。

課題も残されています。洋上風力発電事業は、機器コストの上昇、規制上のハードル、漁業者との調整など、多くの困難に直面しています。また、2024年には三菱商事エナジーソリューションズが第1ラウンドで選定された3海域からの撤退を表明するなど、事業環境の厳しさも浮き彫りになりました。

それでも、四方を海に囲まれ、広大な管轄海域を持つ日本にとって、浮体式洋上風力発電の導入余地は極めて大きいと言えます。今回の五島市沖での成功は、技術的な実現可能性を示すとともに、地域との共生を図りながら再生可能エネルギーを拡大していくモデルケースとなるでしょう。

【用語解説】

再エネ海域利用法
正式名称は「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」。2019年4月に施行された法律で、一般海域における洋上風力発電事業の長期占用や、漁業者など先行利用者との調整の枠組みを定めたもの。国が促進区域を指定し、公募で選定された事業者に最大30年間の海域占用を認める。

促進区域
再エネ海域利用法に基づき、経済産業大臣と国土交通大臣が指定する、洋上風力発電事業に適した海域。風況、水深、航路との関係、漁業への影響などを総合的に評価して指定される。長崎県五島市沖は2019年12月に日本初の促進区域として指定された。

浮体式洋上風力発電
風車を海底に固定せず、浮体構造物の上に設置する洋上風力発電方式。水深の深い海域でも設置可能であり、海底地形の影響を受けにくい利点がある。日本周辺海域の約90%は水深50メートル以上のため、浮体式の導入余地が大きい。

着床式
風車の基礎を海底に直接固定する洋上風力発電方式。比較的浅い海域(一般に水深60メートル未満)に適しており、現在の洋上風力発電の主流。構造が単純で建設コストが比較的低いが、設置可能な海域が限られる。

ハイブリッドスパー型浮体
浮体上部に鋼、下部にコンクリートを用いた浮体式洋上風力発電の基礎構造。戸田建設が世界で初めて実用化した技術で、重心を下げることで安定性を向上させている。大型の垂直円筒形状で、底部のバラストにより浮力と重力のバランスを取る。

公募占用計画
再エネ海域利用法に基づき、事業者が促進区域での洋上風力発電事業を実施するために提出する計画。発電設備の規模、売電価格、事業実施能力、地域貢献などが評価され、最も適切な計画を提出した事業者が選定される。

【参考リンク】

国内初の浮体式洋上ウィンドファーム「五島洋上ウィンドファーム」の商用運転開始(戸田建設)(外部)
五島フローティングウィンドファーム合同会社による商用運転開始の公式プレスリリース。事業概要と参画企業の詳細情報を掲載。

戸田建設株式会社(外部)
五島洋上ウィンドファームの代表企業。ハイブリッドスパー型浮体の設計・施工を担当し、2016年に日本初の浮体式洋上風力発電設備を実用化。

ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社(外部)
ENEOSホールディングスの子会社で、風力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギー事業を展開。五島市沖事業に参画。

大阪ガス株式会社(外部)
総合エネルギー事業者として、ガス供給に加え電力事業や再生可能エネルギー事業を推進。五島市沖洋上風力発電事業のコンソーシアムメンバー。

株式会社INPEX(外部)
日本最大の石油・天然ガス開発企業。再生可能エネルギーや水素、CO2回収貯留技術などの新エネルギー開発にも注力している。

関西電力株式会社(外部)
関西地方を中心に電力供給を行う大手電力会社。再生可能エネルギー事業の拡大を進めており、五島市沖事業に参画。

中部電力株式会社(外部)
中部地方を基盤とする大手電力会社。再生可能エネルギー事業や海外事業を展開し、五島市沖洋上風力発電事業に参画している。

【参考記事】

Japan’s First Commercial Floating Wind Farm Enters Operation(外部)
戸田建設などのコンソーシアムが運営する16.8MWの五島洋上ウィンドファームが商用運転を開始したと報道。日立製2.1MW風力タービン8基を搭載。

First Japanese Floating Offshore Wind Farm Comes Online(外部)
日本政府は2030年までに洋上風力発電10GW、2040年までに45GWの導入目標を掲げている。五島市沖は2019年12月に促進区域に指定。

Japan Floating Offshore Wind Energy(外部)
2024年3月に設立されたFLOWRAは浮体式洋上風力発電の大規模商用化を目指す業界団体。日本は米国の構想の初の国際パートナーとなった。

Commercial operations begin at Japan’s first floating wind farm(外部)
戸田建設主導のコンソーシアムが日本初の商用浮体式洋上風力発電所の運転を開始。ハイブリッドスパー型浮体は世界初の商用応用となる。

長崎県五島市沖の浮体式洋上風車 来年1月稼働へ建設大詰め(外部)
戸田建設ら6社が設立した五島フローティングウィンドファーム合同会社が事業を実施。浮体の不具合により運転開始を2年延期した経緯がある。

【編集部後記】

日本は四方を海に囲まれた島国でありながら、これまで洋上風力発電の導入が遅れていました。今回の五島市沖での商用運転開始は、日本がようやくその豊かな海洋資源を活かし始めた象徴的な出来事と言えるかもしれません。浮体の不具合による2年の延期を経ての運転開始は、決して順調な道のりではありませんでしたが、だからこそ得られた知見も多いはずです。

みなさんは、日本の周辺海域に眠る風力エネルギーのポテンシャルについて、どのようにお考えでしょうか。地域と共生しながら再生可能エネルギーを拡大していくこのモデルが、今後どのように広がっていくのか、私たちも注目していきたいと思います。

投稿者アバター
omote
デザイン、ライティング、Web制作を行っています。AI分野と、ワクワクするような進化を遂げるロボティクス分野について関心を持っています。AIについては私自身子を持つ親として、技術や芸術、または精神面におけるAIと人との共存について、読者の皆さんと共に学び、考えていけたらと思っています。

読み込み中…

innovaTopia の記事は、紹介・引用・情報収集の一環として自由に活用していただくことを想定しています。

継続的にキャッチアップしたい場合は、以下のいずれかの方法でフォロー・購読をお願いします。