2026年2月17日、ニュージーランド・ウェリントンに拠点を置くOpenStar Technologiesは、浮遊超伝導磁石を用いたプラズマ閉じ込めを公に実証した。
同社はピーター・ティールが設立した投資ファンド関係者から出資を受けていると報じられている。プロトタイプ「Junior」において、コア磁石を外部の機械的支持から完全に切り離した浮遊状態でのプラズマ閉じ込め特性の改善が報告された。同社の発表によればこの構成での実証は世界初であるという。試験ではフルスケール磁石が核融合条件下でプラズマ閉じ込めに必要な磁場強度を生成できることを確認した。
同社が開発するのはトカマク型とは異なる浮遊ダイポール方式の核融合炉である。以前は支持構造ありでのプラズマ試験を実施していたが、今回浮遊システムの統合に成功したことで、コンポーネント検証から統合的なシステム開発への移行を示すマイルストーンとなった。
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Openstar Achieves Fusion Milestone with Successful Magnet Test
【編集部解説】
今回の実証が注目に値するのは、核融合の「磁石を浮かせる」という工学的に最も困難とされてきた課題に、小規模なスタートアップが実際に解を示した点にあります。
浮遊ダイポール方式とは、地球や木星の磁気圏に着想を得た核融合炉の設計思想です。主流のトカマク型がドーナツ状のチャンバーの外側に磁石を配置してプラズマを閉じ込めるのに対し、この方式では超伝導磁石をプラズマの内側に浮遊させます。1987年に日本の理論物理学者・長谷川晃が提唱し、MITとColumbia Universityが共同実験(LDX)として2004年に支持構造ありでの試験運転を開始、2007〜2008年に完全浮遊でのプラズマ閉じ込め特性の改善が報告されました。
しかし2011年に米エネルギー省がトカマク研究へ予算を集中させたことでLDXは打ち切られています。OpenStarの創業者ラトゥ・マタイラCEOは、Victoria University of WellingtonのRobinson Research Instituteで超伝導関連分野の博士号を取得した人物で、この途絶えた研究系譜を高温超伝導体(HTS)という新世代技術で復活させようとしています。
Bloombergの報道によると、2月17日の公開実証では約0.5トンの磁石が直径5メートルの真空チャンバー内で浮遊し、100万℃を超えるプラズマの閉じ込めが実演されました。会場にはニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相も臨席しています。同社のプロトタイプ「Junior」の開発費用は1000万ドル未満とされ、核融合分野としては極めて小規模な投資で達成されたマイルストーンといえます。
ただし、冷静に見るべき点もあります。今回達成されたのはプラズマの閉じ込めであり、核融合反応の持続やエネルギーの純出力(投入を上回る出力)には至っていません。核融合に必要な温度は1億℃以上とされており、2024年11月のファーストプラズマ時の約30万℃から今回の100万℃超へと進展はあるものの、依然として大きな隔たりがあります。
同社のロードマップでは、次世代機「Tahi」が約2年後、核融合反応による中性子生成と収益化を目指す第3世代機「Maui」が約5年後、そして小都市や大規模産業施設に電力供給可能な50〜200メガワット級の第4世代機「Tama Nui」はさらにその先とされています。
核融合産業全体を見ると、世界で約50社がしのぎを削り、ジェフ・ベゾスやビル・ゲイツといった投資家を含め累計で約100億ドル近い資金が投入されています。Commonwealth Fusion Systemsは20億ドル超を調達してトカマク型を推進し、Pacific Fusionは9億ドルのシリーズAでパルス磁場方式に取り組むなど、巨額の資金が動く領域です。その中でOpenStarの民間調達額は約620万ドル(PitchBook調べ)と桁違いに小さく、2026年2月にニュージーランド政府から3500万ドルの融資を受けたばかりの段階です。
一方で、過去のLDX実験では、ダイポール磁場においてプラズマ乱流が密度を高める方向に作用する可能性が示唆されています。トカマクではプラズマの不安定性(ディスラプション)が長年の課題ですが、ダイポール磁場ではプラズマの乱流がむしろ密度を高める方向に作用するという研究結果がMIT/Columbiaの実験で示されています。構造が単純なため、開発の反復速度が速く、修理も容易になる可能性があります。
マタイラCEOはBloombergの取材に対し、トカマクをジェットエンジンに、ダイポールを焚き火に例え、後者はシミュレーションに依存せず直感的にスケールアップできると述べています。
規制面では、ニュージーランドは伝統的に反核政策で知られる国ですが、核融合は核分裂とは本質的に異なり、連鎖反応のリスクや長寿命放射性廃棄物の問題がほぼないため、既存の核規制の枠組みとは別の議論が必要になります。ニュージーランド政府が今回の融資で支援姿勢を明確にしたことは、少なくとも政策面で核融合を後押しする兆しと読み取ることもできます。
OpenStarの挑戦は、「原子物理学の父」と呼ばれるニュージーランド出身のアーネスト・ラザフォードの系譜に連なるものです。かつて途絶えた研究の灯を、太平洋の小国から再び世界に向けて掲げようとする試みとして、今後の進捗を注視していく価値があります。
【用語解説】
超伝導磁石(superconducting magnet)
電気抵抗がゼロになる超伝導体で作られた磁石。極めて強い磁場を効率的に生成でき、核融合炉のプラズマ閉じ込めに不可欠な技術である。
高温超伝導体(HTS: High-Temperature Superconductor)
従来の超伝導体より比較的高い温度で超伝導状態を実現する材料。OpenStarはReBCO(希土類バリウム銅酸化物)と呼ばれるHTS素材を磁石に使用している。
ファーストプラズマ(first plasma)
核融合装置が初めてプラズマの生成・閉じ込めに成功すること。装置が設計通りに機能することを示す初期段階のマイルストーンである。
LDX(Levitated Dipole Experiment)
MITとColumbia Universityが共同で実施した浮遊ダイポール方式の核融合実験。2011年に米エネルギー省の予算がトカマク研究に集中されたことで終了した。
【参考リンク】
OpenStar Technologies 公式サイト(外部)
浮遊ダイポール方式の核融合炉を開発するNZスタートアップ。ロードマップや技術資料を掲載している。
OpenStar Technologies 公式ブログ(Substack)(外部)
磁石「Junior」の技術的詳細やダイポール方式の利点など、同社エンジニアによる技術解説を掲載している。
MIT Plasma Science and Fusion Center(外部)
浮遊ダイポール実験(LDX)を実施した研究機関。OpenStarとの正式な共同研究も開始している。
【参考記事】
Wellington company secures funding for clean fusion power facility(外部)
NZ政府がRegional Infrastructure Fund経由でOpenStarに$35M融資を確約。次世代機「Tahi」用施設建設に充当。
New Fusion Reactor Design Uses Levitating Magnets(外部)
IEEE Spectrumによる技術解説。磁石直径1.2m、次世代機で4倍の磁場強度、核融合は第3世代機以降と報道。
A nuclear fusion startup just reached a milestone(CNN)(外部)
浮遊ダイポール方式を図解付きで解説。長谷川晃の提唱からMIT/Columbia実験、CFS比較まで網羅している。
MIT tests unique approach to fusion power(外部)
LDXの試験運転開始(2004年)と完全浮遊達成の経緯を記録した一次情報。MIT News 2008年の報道。
【編集部後記】
核融合の商業化競争は、トカマク型だけでなく多様なアプローチが同時に走る新しいフェーズに入っています。今回のOpenStarのように、かつて資金不足で途絶えた研究が新技術によって息を吹き返す事例は、エネルギー分野に限らず起こり得るのかもしれません。
みなさんが注目している「復活の兆しを見せている技術」があれば、ぜひ教えてください。







































